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中国のアリババ数学コンテストで、職業専門学校生と教師がカンニング不正 なぜ事件は発覚した?

中島恵ジャーナリスト

11月3日、中国の「アリババ世界数学コンテスト」組織委員会は、今年6月に開催した同コンテストの受賞者を発表。金賞5名、銀賞10名、銅賞20名、優秀賞51名を公表したが、同時に、同コンテストの予選に参加後、決勝進出を決めて中国中で「17歳の天才少女」と大きな注目を集めていた江蘇省・蓮水中等専業学校(職業専門学校)の教師と、同教師が指導していた女子学生について、調査の結果、カンニング不正が発覚したと正式に発表した。

中国では、女子学生の名前にちなんで「姜萍(ジャンピン)事件」と呼ばれており、ウェイボーなどのSNSで大きな話題となっている。

中国独自の数学コンテスト

事件の発端となった「アリババ世界数学コンテスト(コンペティション)」は中国の大手企業、アリババグループの研究機関が2018年から実施しているもので、世界中から大学生など約5万人以上が応募する。試験はオンラインで行われ、参加資格はとくに明記されていない。試験は中国語と英語で行われる。金賞受賞者には賞金約470万円が授与される。

まず、予選が行われ、そこから約800名が決勝に進出するという流れだが、例年、決勝に進出するのは、北京大学、清華大学など中国国内の名門大学の数学科の学生に加え、米国マサチューセッツ工科大学、英国ケンブリッジ大学などに通う、主に中国人大学生らが中心となっている。

しかし、今年は予選を通過した約800名の学生のうち、12位という好成績だったのは江蘇省の職業学校の女子学生だったと発表されると、中国の各メディアやSNSで「17歳の天才少女が出現」「専門学校に通う学生の快挙」ともてはやされた。

17歳の天才少女と称賛されたが……

名門大学のエリート大学生ではなく、職業専門学校でファッションデザインを学ぶ、農村出身の女の子の努力を褒めたたえる人が続出したのだ。その影響で、女子学生、姜萍さんの顔写真はネット上で多数紹介され、姜さんの経歴や専門学校の内容も報道されるなど、一躍「時の人」になった。

だが、予選通過からまもなく、疑惑が持ち上がる。予選で190位だった米ハーバード大学大学院の中国人学生が、中国のあるサイトに「同じ専門学校から(教師と成都の)2人も決勝に進出したことに疑問がある。答案をよく調べてほしい」と投稿したのだ。

その後の詳しい調査の経緯は不明だが、今年の受賞者の発表は例年よりも遅れた。そして、女子学生と指導教師がカンニングしたことが発覚、これが「アリババ世界数学コンテスト」組織委員会により、公表されたのだ。

SNSでは女子学生への同情や専門学校生への偏見も

この一件が報道されると、SNSでは「やっぱり!」「おかしいと思っていた」「オンラインだから不正ができたのだろう」「専門学校は知名度アップのためにやったのではないか」「教師だけが悪いのではない。17歳の学生だってもう分別があるはず」などと本人や教師を批判する声や、組織委員会の試験の実施方法のずさんさを指摘し、「責任は組織委員会の側にある」「試験方法に疑問」など、主催者に対する批判が殺到した。

また、女子学生については「顔がさらされてしまい、かわいそう」「彼女の将来を指導教師や専門学校が台無しにした」などの同情が集まっている。さらに、「なぜ、彼女と教師だけ、答案を再チェックしたのか。職業専門学校生には無理だ、というエリートたちの偏見が根底にあったのではないか」などの声もあがっている。「科挙」の伝統がある中国では、本人の適性にかかわらず、「是が非でも大学へ」との考えが根強く、専門学校や職業学校生に対する差別意識もあるのでは、との意見も背景にあるようだ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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