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日本に移住する中国人富裕層、その実数が不明確な理由

中島恵ジャーナリスト
(写真:アフロ)

中国リスクなどを背景に、中国人富裕層の日本への移住が増え続けている。実は、富裕層だけでなく、一般企業の会社員など中間層にまでその幅は広がっているが、実態は不明だ。

というのも、出入国在留管理庁の統計だけでは、その数を正確に把握することができないからだ。とくに富裕層の場合、従来、いわれてきたような「経営・管理」ビザを取得して来日しているとは限らず、さまざまな手段を取っているからだ。

在留中国人が取得する主なビザ

筆者はこの7~8年、「日本のなかの中国」「在日中国人」を取材し、複数の書籍でその詳細を紹介してきた。現在、日本に住む中国人の在留資格で最も多いのは、2023年末の同統計によると「永住者」で約33万人に上る。

続いて多いのは、一般企業の会社員などが取得することが多い「技術・人文知識・国際業務」ビザ(約9万2000人)だ。日本企業、あるいは日本にある中国系企業、外資系企業などにつとめる会社員の多くは、これを取得して日本で働いている。

その次に多いのは「留学」ビザ(約13万6000人)。この3つの在留資格の取得者だけで、全在日中国人(約82万人)の半数以上を占めている。

富裕層など、近年、日本に「潤」(ルン=移民、移住などを意味する隠語)してくる人々の多くは、これまで、日本で貿易など事業の経営を行い、その管理などに従事するための在留資格「経営・管理」ビザを取得することが多いといわれてきた。

同ビザで在留できる期間は3カ月(または4カ月)、6カ月、1年、3年、5年などの種類があり、23年末には約1万9000人がこれを取得し、日本に滞在していた。そのため、とくに中国のゼロコロナ明けの23年初頭から日本に移住してくる富裕層の実数は、この数字がほぼ当てはまるだろうと認識されてきた。

だが、知人の行政書士や、在日中国人らに話を聞いてみると、必ずしも同ビザを使って来日する富裕層ばかりではないという。

ある知人によれば「経営・管理」ビザで来日すると、日本に独立した事業所を確保したり、初期投資として500万円以上を用意したり、職員を雇用したりしなければならず、ハードルが高いです。むろん、お金持ちは、それくらいのことは可能でしょうが、その後もビザのために事業を継続したり、管理したりするのは面倒。そのため、別のビザを取得しようと考える人もいるのです」という。

経営者でも「留学」ビザを取得する

たとえば、前述の「技術・人文知識・国際業務」ビザだ。富裕層は中国ですでに企業経営していたり、不動産などで莫大な財産を築いたりした人が多く、悠々自適の生活を送っているが、「日本に安く滞在するため」の手段として、一般企業の会社員と同じ在留資格を得ようとする人もいるという。

とくに、最近では、都内を中心に、中国人が代表をつとめる中国系企業が非常に多いため、そこに在籍する形を取るのが、手っ取り早い方法だ。取得後、本当に、その会社に毎日出勤して仕事をしているかは不明だが……。

また、「留学」ビザを取得するという方法もある。40~50代の経営者であっても、日本語を学びたいという理由で「留学」ビザを得て、日本語学校に通いながら日本で暮らすことはもちろん可能だ。年齢は関係ないので、そうした形態を取るケースもある。

筆者が今年初め、著書で紹介するために取材した桜美林大学では、2019年から、中国語によるMBA(経営学修士)プログラムを開設しており、24年度は19人の中国人が入学したということだった。彼らの多くは中国の経営者、起業家だが、同MBAに入学することで「留学」ビザを取得し、日本にやってくることも可能だと聞いた。

このように、日本に移住してくる中国人富裕層が取得するビザはさまざまある。そのため、その実数を正確に把握することは難しくなっているのだ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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