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中国雲南省のホテルが日本人の宿泊を拒否した理由 背景に日中戦争の影?

中島恵ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

11月6日ごろ、中国の内陸部、雲南省騰衝市内のあるホテルで、日本人男性が宿泊を拒否されるという一件が発生、物議を醸している。

その際の動画が中国のSNSでバズり、ホテルに対して称賛のコメントが相次いだり、ホテルに花束やプレゼントまで寄せられたりする事態に発展した。背景には何があるのだろうか。

日本人の宿泊を拒否?

中国メディアによると、中国人女性と日本人男性が同ホテルにチェックインしようとしたところ、フロント係が「騰衝市のホテルでは、香港、マカオなどの同胞は問題ないが、日本人は宿泊できない」と拒否した。そこで女性がフロント係と口論になり、ホテル側は館内警報を鳴らすなどの騒ぎに。その際に撮られた動画がSNSで拡散された。

SNSで「(フロント係は)気骨のある対応をした。すばらしい」「騰衝市はいいところだ」などと称賛が相次いだだけでなく、ホテルに花束やプレゼントまで送られるという異常事態に。時事通信の記事(11月9日付)によると、同社の問い合わせに対して、ホテル側は「われわれ(の基準)は格付けが達していない」と説明したという。

具体的に、同ホテルがどのような格付けの、どのくらいの規模のホテルなのかは不明だが、中国では、中国人がホテルに宿泊する際は身分証を、外国人が宿泊する際はパスポートを提示する規定になっており、実際に、外国人が宿泊できない格付けのホテルはかなり存在する。

外国人が宿泊できるホテルは限られる

中国のホテルは主に1~5つ星の等級に分けられており、外国人は政府機関の許可を得ている「渉外ホテル」(3つ星以上)にしか宿泊できない。実際には例外ケースもあるのだが、中国では、ホテル側がすべての宿泊者の情報を登記し、地元の公安(警察)に届け出なければならないという義務がある。3つ星以下のホテルでは、その手続きが難しく、外国人を宿泊させないケースが多い。

中国のホテル予約サイト大手、携程旅行の海外版でも、外国人はそもそも3つ星以下には予約が入れられない(サイト上のリストに存在しない)。

そうした理由から、同ホテルでは、日本人に限らず、外国人の宿泊はすべて規定通りに断っただけという話かもしれない。この中国人女性と日本人男性の関係が気になるが、もしかしたら、この2人は事前に予約せず、飛び込みで同ホテルにチェックインしようとやってきて、ホテル側が断ったという可能性も否定できない。

しかし、SNS上での騒ぎを見ると、ホテル側の対応以上に「日本人だから断った」という点を、ネット民がことさら取り上げて、大喜びし、悪意のある書き込みをして、SNSで騒ぎを大きくした可能性がある。むしろ、すぐにそのような騒ぎに発展する「中国のSNSの空気」自体、問題だろう。

日中戦争の激戦地だった

そのようになった背景には、騰衝市の歴史がある。騰衝市は雲南省の省都、昆明市から西に約600キロ、ミャンマーとの国境地帯にある、人口約60万人の都市だ。中国では県級市という位置づけになり、規模は小さい。少数民族が多く、温泉が多いことで知られる町だが、雲南省以外からの観光客は少なく、全国的な知名度は低い。

しかし、同市は、日中戦争の際、激戦地となった場所で、市内には1万人以上の中国人が埋葬されている抗日烈士の墓苑がある。そのことから、同市には、日本人に対して複雑な心情を持つ人が少なくない。その結果、ホテルがこのような毅然とした対応をした、という受け取り方をSNSでされたようだ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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