【緊急提言】『緊急事態宣言』解除後の新たな時代に求められる飲食店の姿とは?
緊急事態宣言一部解除により「新たな日常」が始まる
4月8日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象にして発出された『緊急事態宣言』。17日からその範囲が全国に拡大し、日本全国が不要不急の外出などを控える自粛生活へと突入した。5月14日には39県においては約1ヶ月ぶりに宣言が解除されたが、東京や大阪などの都市圏や感染が拡がっている北海道など8都道府県については、当面の間宣言が継続されることになっている。
安倍晋三首相は14日の記者会見の中で、「ここからコロナの時代の新たな日常を取り戻していく。今日はその本格的なスタートの日だ」と語った。具体的には手洗いの徹底やマスクの着用、身体的距離(フィジカルディスタンス)の確保、いわゆる「3密」の回避などを徹底する『新しい生活様式』とともに、レストランやホテル、公共交通機関などの業界に対して、それぞれ感染予防のガイドラインを策定し、それに沿って事業を本格化させて欲しいと述べた。
全国一斉に1ヶ月にも及ぶ長期間の外出自粛と、自治体からの営業時間短縮や休業の要請もあり、飲食業界はこれまでにない大打撃を受けている。個人店の廃業も相次ぎ、大手ナショナルチェーンのファミリーレストランも大量閉店を余儀なくされた。これからの「新たな日常」の中で飲食店が生き残っていくためには、新たな営業スタイルが求められるということの証左だ。
今までの飲食店のスタイルでは通用しない時代が来る
今回の新型コロナウイルスによって、私たちは感染症の拡大防止への知見をいくつか得た。その中でも特に重要なものとして「身体的距離の確保」「3密(密集、密接、密閉)の回避」があり、これらは新型コロナウイルス感染症専門家会議の提言から生まれた『新しい生活様式』にも取り入れられているほか、多くの人たちが意識している行動になりつつある(参考記事:新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」を公表しました/厚生労働省)。
「人との距離を2mは確保する」「マスクの着用」「こまめに換気をする」「大皿の取り分けを避け、回し飲みはしない」「対面ではなく横並びに座る」などの行動が求められる時代になった今、従来の飲食店の営業スタイルでは対応しきれなくなることは間違いなく、当面の間は飲食店の楽しみ方や利用用途も必然的に変わらざるを得なくなっていく。
例えば、ブッフェスタイルの飲食店は、同じサーバーを使って大皿から料理を取るような提供スタイルを根本から変えるしかない。さらに、料理を取りにいくために多くの客が店内を動き回ることも「身体的距離の確保」の観点から難しい。食べ放題という意味では都度オーダーをする「オーダーバイキング」的な業態は残ると思うが、残念ながら従来のようなブッフェレストランを楽しむことは当面出来なくなるだろう。
居酒屋も『新しい生活様式』と照らし合わせると、従来の営業スタイルを貫くのはかなり厳しいと言わざるを得ない。「多人数での会食は避ける」「料理に集中、おしゃべりは控えめに」という部分をクリアするとなると、居酒屋の主力商品でもある「歓送迎会」「忘年会や新年会」などの需要は当面低くなっていくはずだ。同様にカラオケスナックやバーのような業態は一般の飲食店に比べて換気能力も低く、音漏れの問題もあるので現状では対策がかなり難しいと言わざるを得ない。
また、業態に限らず密度の高い状態で客席が配置されている飲食店も、レイアウトを変えたり席を間引くなどの変更をしなければ営業継続が難しい。特に個人営業などの狭小店舗の場合は、レイアウトの変更自体が不可能な場合も少なくなく、さらに厳しい営業が予想される。極論をいえば、コロナ以前と同じ状態で営業を継続できる飲食店は皆無と言ってもいい状況なのだ。
新しい時代に求められる飲食店の姿とは
今回の『新しい生活様式』の提言は決して新しい考え方ではなく、そもそも感染症を拡散させないための基本対策そのものである。新型コロナウイルスがもたらしたことにもしメリットがあるとすれば、しっかりと対策をして行動すれば、大概の感染症を防ぐことができるということが世界の多くの人にとっての「新たな常識」になったことだ。
中には感染拡大の収束後には元のスタイルに戻れると思われているような意見も散見されるが、仮に今回のウイルスがインフルエンザのような既知のウイルスと同じような存在になったとしても、先に述べたような「新たな常識」によって、人々の衛生管理意識は高まりこそすれ100パーセント元に戻ることは考えにくい。私たちの衛生管理意識は、今回のコロナショックにより間違いなくアップデートされたのだ。
このように新たな衛生管理の常識が構築されつつある中で飲食店が生き残るためには、従来のスタイルから「身体的距離の確保」「3密の回避」などを意識した、新たなスタイルへのアップデートを考えていかなければならない。テーブルや椅子を減らす、従業員も客もマスク着用を必須にする、ビニールシートやアクリル板で人と人の間に仕切りを作る、入退店時にアルコール消毒を義務付ける、ドアや窓などを開放して換気を良くしたりテラス席設置などの対応は、当面のあいだは継続する必要があるだろう。またウイルス感染防止のみならず食中毒対策の観点からも、今まで以上に高い衛生管理体制を構築すべきだ。
さらに、今回の外出自粛によってテイクアウトや『Uber Eats』などのデリバリーニーズが急激に増えており、新たな食の楽しみ方のひとつとして定着しつつある。弁当店やピザ店などテイクアウト専門店だけでなく、ハンバーガーショップや牛丼店などは、これまでもイートインとテイクアウトが両立して機能しており、自粛期間中もテイクアウトの利用者の方が多かった。今後は飲食店でもテイクアウトやデリバリー、通販などをもう一つの収益の柱として育てていくべきだろう。
また感染拡大を避ける意味から、直接現金をやり取りしないキャッシュレス決済の利用も増えている。『マクドナルド』などではオーダーから決済までアプリで完結する「モバイルオーダー」がスタートするなど、多くの企業やサービスがキャッシュレス対応へ舵を切った。個人店でも『PayPay』や『LINE Pay』などの新しい決済サービスや、『Suica』や『nanaco』など従来の電子マネーやクレジットカードへの対応は必須となるだろう。
不安要素の多かった営業スタイルを見直す好機
今回の外出自粛で打撃を受けたのは飲食業ばかりではないが、そもそも他の業種よりも利益率が低い収益構造である飲食業は、キャッシュストックも少ないいわば「自転車操業」的な経営状態の店も少なくなく、売り上げの急激な減少が他業種よりも大きなダメージになっていることは否めない。外出自粛が解けたあとであっても、前述したように客席減などによる売り上げ減は避けられないため、構造的な改革が不可欠となっていく。
例えば、一日200人の来店で15万円を売り上げていたラーメン店の場合、客席を半減させてこれまでと同じ売り上げを確保するためには、単純計算では客席の回転数を倍にするか客単価を倍にするしかない。しかしながらラーメン店のような業態の場合、客の店舗での滞在時間を半分にすることは難しく、また営業時間を倍にすることも現実的ではない。もちろんラーメンの価格を倍にすることにも拒否反応があるだろう。そうなると、売価はそのままで原価や人件費などを下げて利益率を倍にするしか解決策はないが、それもなかなか現実問題としては難しい。
家賃などの固定費は変わらず来客数が少なくなる状況でも利益が残せるように、メニューのラインナップや商品設計、さらには人件費率の見直しは多くの飲食店にとって急務だ。さらにテイクアウトや通販など他の収入源を確保したり、業態の転換も視野に入れた大胆な変革が必要になるだろう。これまで薄利多売で利益を積み重ねてきた飲食店特有の不安定な収益構造を今一度見直して、キャッシュストックをしっかりと残せる高利益体質に転換していくべきだ。
また、今回の外出自粛によって売り上げを大きく減らした飲食店の傾向として、インバウンド客や観光客率の高い店や家賃の高い繁華街などの路面で営業していた店がある。逆に住宅街やベッドタウンなどで営業する地域密着型の飲食店やロードサイド店、さらには都市部であっても予約困難店などの人気店は落ち幅が比較的緩やかで、テイクアウトやデリバリーでのニーズもこれらの店の方が堅調だった。つまり、常連客やファンが多い飲食店はダメージが少なく、一見客が多い飲食店はダメージが大きかった傾向があった。よって、しっかりと固定客を掴み「選ばれる店」となるブランディングが今まで以上に必要となるだろう。
ピンチをチャンスに。今回のコロナショックによって飲食業が受けたダメージは相当なものだが、従来の不安定な営業スタイルを見直して改善していくチャンスだ。スペンサーの「適者生存」の言葉を借りるまでもなく、社会の変化に対して迅速に対応できる店が生き残っていく。新しい時代に求められるのは、従来のやり方に固執しない新しい姿の飲食店なのだ。
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