愛知の用水での大規模漏水、現場で見えた異常な川の姿【5/20追記あり】
大規模な漏水が発生した愛知県豊田市の「明治用水頭首工」。各地で河川の取材はそれなりにしてきたが、「川の底が抜けた」という状況は恥ずかしながらまったく想像できなかった。やはり現地を確認せねばと19日午前に訪れ、見聞きした状況をお伝えする。
普段は見えない川底がむき出しに
まず、おおもとの水は長野県の下伊那郡を源流とする「矢作川(やはぎがわ)」の流れだ。地元の人によれば普段は流量も豊富で、下の写真の位置からは水がなみなみと貯まっているように見えるはず。それが今回、数日で水がみるみる減り、一部で川底の土がむき出しになってしまった。
写真で人が歩いている辺りは普段、川の下だという。「石積みの堤防の下半分が白くなっているところが、普段の水の高さ」だと地元の人が指をさした。
その矢作川を堰き止め、農工業に利用するために造った人工の川が「明治用水」。そのための取水施設を「頭首工」と呼ぶ。
今回、普段は水を引き入れる取水口より水位が下がってしまった。しかし、矢作川の水自体は上流から流れてくるため、何本もの仮設ポンプを使って水を汲み上げ、明治用水に流す作業が懸命に行われている。
ちなみに現在の明治用水頭首工は1958(昭和33)年に完成したコンクリート製だが、それ以前の石積みの「旧頭首工」も数百メートル上流に残されている。
これも普段は表面が見えるか見えないかだというが、今回は下の石積みまではっきり見える。「こんなこと今までなかったわ」と、川沿いをよくウォーキングしているという女性が教えてくれた。
この周辺で何が起こったのか。原因はまだ特定できないが、現象としてはほぼ分かってきた。頭首工の堰を支える基盤に穴や亀裂ができるなどして、そこから「水が抜け」、堰の下を通って下流側で水が噴き出しているらしいのだ。
一つの「穴」から大小の渦が巻く状態に
上流側の「穴(漏水)」は当初、比較的小さいものだったが、今月16日ごろから拡大し、17日には取水量が大幅に減少したと、施設を管理する東海農政局は説明している。
19日現在、現場付近は大小の渦が絶え間なくでき、どれが最初の「穴」かは分からない。基盤のコンクリートが大きく陥没しているような状態なのかもしれない。しかし、上流からはその穴の辺りをめがけて水が勢いよく流れ込んでくるので、川底の状態を見るのは難しそうだ。
【追記】
東海農政局の小林勝利局長は20日の記者会見で、コンクリート自体の損傷について「可能性としてはあるのかもしれないが、確たるものは把握していない」と述べた。最初の穴はコンクリートの基礎の端辺りで開いたとみられているが、川底の土砂だけが落ち込んでいるのかなどを含めて現時点ではすべて調査中で、漏水を止める工法の検討もめどが立っていないという。
実際の状況は動画を見ていただきたい。
この日は農政局の職員に加えて国交省の職員や「コンクリート」の専門家も現地を調査していた。しかし、漏水を止める有効な手立てはまだ見いだせていないようだった。
仮設ポンプの設置によって工業用水の確保はめどが付いたとの報道が流れた。一方で農業用水はまだめどが立たないという。
地元で農業を営む女性は「うちは畑だからまだいいけれど、田んぼをやっている人たちは本当に大変。一刻も早くなんとかしてあげてほしい」と気をもんでいた。
川にはさまざまな用途があり、複雑な権利関係が入り組む。今回は一つの小さなトラブルが大企業の生産や発電にも影響を及ぼすさまを目の当たりにした。復旧と原因究明を急ぐとともに、各地の施設やシステムも早急に点検すべきだろう。