懲りない奴ら~ディオバン事件後も医師とカネの関係変わらず
カネで盛られた薬の効能
製薬企業が医師に資金を提供し、薬の効能を「盛って」いた…。
医療業界を、世間を震撼させた「ディオバン事件」は記憶に新しい。
ディオバンが高血圧治療以外にも効能があることを示した臨床試験の論文。それらはノバルティスファーマの元社員が身分を偽り、データを操作していた。また、ノバルティスファーマから大学に奨学寄付金として多額の金が提供されていた。
こうして出された論文は、他の高血圧治療薬よりよいですよ、というディオバンの広告の根拠となった。活発な宣伝活動により、ディオバンの売り上げは年間1,400億円にものぼった。
しかし、これらの論文に問題があることが指摘され、データ改ざんなどにより、5つの論文は最終的に撤回された。
薬事法違反が問われた裁判では、元社員が無罪であるという判決が出て、最高裁で審議中だが、医療業界に衝撃を与えた。
この事件をきっかけに「臨床研究法」が改正された。製薬企業が関わる臨床研究は監視、報告の義務が強化され、罰則も定められた。
医師たちの行動は変わらず?
医療業界を揺るがしたディオバン事件。当然医師たちの意識も変わり、製薬企業からの資金提供に慎重になっただろう…。
と思いきや、そうでもなさそうだ。「羮に懲りて膾を吹」いてはいないようなのだ。
南相馬市立総合病院外科の澤野豊明医師らのグループは、去る5月17日にJAMA NETWORK OPENに出した論文(Payments From Pharmaceutical Companies to Authors Involved in the Valsartan Scandal in Japan)で、ディオバン事件で撤回された論文5つの著者でさえ、いまだかなりの額の資金(原稿執筆料、講演料、コンサルタント費など)を製薬企業から受け取っていることを明らかにした。
プレスリリースを提供いただいたので、以下研究を簡単に紹介したい。
前回記事「製薬マネー、癌ガイドライン委員に流れる~「平成」が遺した大きな宿題」で紹介した論文と同様、著者らはマネーデータベース『製薬会社と医師』を用い、2016年度に上述の5つの撤回論文の著者がどの程度の資金を製薬企業から支払われていたかを調べた。すると…。
データベースは2016年度だけなので、それ以前と比較はできないが、ディオバン事件が発覚して3年の時点で、事件に関わったにもかかわらず、製薬企業から相当の金を受け取っていた医師がいた。さすがにノバルティスファーマ社からの資金提供を受けた医師はごくわずかだったものの、あれだけ製薬企業とお金の問題が取りざたされた事件の当事者でさえ、自分自身の行動について改めようとしていないことがうかがわれる。
だとすると、事件に関わらない一般の医師たちの感覚は、事件前後で変わっていないと言わざるを得ない。
先に紹介した臨床研究法改正により研究がしづらくなり、患者さんの不利益になっているという意見が出ている。
手続きの煩雑さなど、耳を傾ける声もあると思うが、「お金のことなどうるさく言うな」という意識があるとしたら残念だ。
「ステマ」をやめよう
人は物をもらうとお返しの義務を感じるし、バイアスが生じる。
- 【座談会】医師と製薬会社の適切な関係って?週刊医学界新聞 2009年11月9日
- ともに考える 医師と製薬会社の適切な関係【第1回】製薬会社と,どのようにかかわっていますか?週刊医学界新聞2010年6月14日
- ともに考える 医師と製薬会社の適切な関係【第2回】自分は大丈夫,と思っていませんか?週刊医学界新聞2010年6月28日
そういう意味で、完全に公平な人などいない。だとすると、それを前提で仕組みを考えないといけない。
製薬企業からルールに基づいてお金を受けとること自体は合法だ。問題は金銭的な関係などがあることを隠すことだ。
いわばステマはやめようということだ。
近年医学を含めた生命科学の研究の信頼性が疑われている。
医学生物学の研究は、85%が無駄な研究であり、1000億ドルの損失を出しているという意見もある。
真に患者さんや社会に役立つ研究をするために何が必要か、カネの問題も含め今一度、医師も患者も一般の人も、しっかり考えなければならない。