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焼肉店における「ロース」問題を客はどう考えるべきか

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト
(写真:イメージマート)

「焼肉店におけるロース問題」と聞いてピンと来る人は、少なくとも10年以上、焼肉に注意、関心を払っている焼肉リテラシーの高い人に違いない。

そしてこの問題をひもとくとき、物事には様々な見方があることを思い知らされる。この件は、「××警察」「▲▲ポリス」に象徴される、息苦しさと正確さの狭間のどこで生き、個人として、社会としてどう受け入れるか(もしくは拒絶するか)など、現代で問われがちな"寛容性"についての先行事例としてひもといておく必要がある。

と少し仰々しい導入から入ったが、まずこの問題が何かというところから紹介したい。

2010年焼肉店の「ロース」表示に官庁から指導

この事案が世の中に可視化されたのは、2010年10月7日のことだった。当日付の新聞メディアはこんなふうに伝えている。

焼き肉店がメニューに「モモ」肉などを「ロース」と表示して客に提供しているとして、消費者庁は7日、景品表示法に基づき、業界団体に表示の見直しなどを求めた。モモ肉は、背中の部位を指す「ロース」と肉質が似ているため、一般の人には見分けがつかないという。業界では「長年の慣行だった」としている。焼き肉店のメニューに「モモ」が加わる日も近そうだ。

2010.10.07朝日東京夕刊

焼き肉店で牛肉の「もも肉」や「ランプ」を「ロース」と表示するのは景品表示法違反(優良誤認)にあたるとして、消費者庁は7日、全国焼肉協会(東京)に対し、不適切な表示をする業者に改善を求めるよう要請した。外食チェーンなどでつくる日本フードサービス協会(同)にも改善を要請する。

消費者庁は今年2月ごろ、ある業者がロース部位でない肉をロースとして販売しているとの情報を得て調査を開始。実際に「ランプ」「そともも」の部位を「和牛ロース」として販売していた焼き肉店を確認した。「肩ロース」の価格は一般的に「もも肉」より3割程度高い。

同庁は「焼き肉店の正肉はロースとカルビくらいしか表示がない。長年業界全体で部位と違う表示をしていた可能性がある」とみている。

2010年10月7日 19:16 日本経済新聞

「焼肉店の正肉はロースとカルビくらいしか表示がない」という時代錯誤っぷりが消費者庁のニュアンスを正確に表していたのか、記者のバイアスかはさておき、この件についての消費者庁は少し軽率だった。

ことの発端はたった一人の客からの消費者庁への通報だった。

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編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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