取引先が日本企業から逃げていく〇〇な理由
現代の日本企業が直面する最大の問題は「取引先が逃げていくこと」だと私は思う。私へのインタビューの形をとっている記事を公開したい。
--このところ日本企業に「売ってもらえない」事象が起きていると聞きます。
ちょっと前に発表されたセーレンのハンガリー工場設立は、ちょっとした衝撃でした。同社は自動車メーカーに繊維を供給する企業です。私は取引をしたことがありますが、エクセレントカンパニーであるのは間違いありません。工場設立はテスラのドイツ工場への供給のためです。
すでにテスラの中国工場向けに供給していますが、同社の技術力が評価されたかっこうです。数年前にシートメーカーのタチエスがテスラ「モデルX」への供給を始めたと、おなじく大きなニュースになりました。私はタチエスとも取引関係にありましたが、おなじくエクセレントカンパニーです。
--それらは「売ってもらえない」兆候でしょうか?
このところ、サプライチェーン関係者から聞くと、サプライヤから売ってもらえない問題が浮上しています。冷静に考えてみてください。優良企業はもはや日本企業以外に販売先を拡大しています。100円で買う日本企業と、200円で買ってくれる外資系企業があったとして、なぜ100円で販売するでしょうか。これは義理人情の話ではなく、単純な経営問題です。
--現在は落ち着きましたが、円安も関係があるのではないかと思いますが?
2022年には、1ドルが150円をつけました。それでも金型製造の現場では「お客が値上げを認めてくれない」「金型の修正依頼は次々とやってくる。しかも代金は渋られる」「金型図面を出せと言われ、知的財産保護はないがしろ」「根拠のないコスト低減要請が日常茶飯事」といった具合です。地場の中小企業がいきなり世界に販路を見つけることはたやすくありません。ただ日本企業に販売し続ける動機がなくなっているのです。
--ただし日本の企業であれば問題がないのではないでしょうか?
先日、私は「The調達2023」という論文で問題提起をしています。日本サプライヤは外資系企業に買収、吸収され、これまでの取引の歴史はいったんリセットされます。これまで調達部長とサプライヤの社長が何度も一緒にゴルフをプレイしたかもしれません。ただ仲が良くても、経営上の選択として儲からなければ撤退の可能性があります。もっと稼げるなら違う企業へ。売り上げ増は、すべての傷を癒やすからです。このインタビューのタイトルは「取引先が日本企業から逃げていく〇〇な理由」となったようですが、〇〇にあてはまるのは「当然」とか「自明」といった単語かもしれません。
--打開策はあるのでしょうか?
とはいっても、物事はそう簡単ではありません。人間も企業もただただ儲けのためにやっているわけではないからです。ほんとうにしょうもないことを提案させてください。「RFQに夢の一文を書こう」というものです。RFQとは「見積依頼書」のことです。
サプライヤの内部会議を想像してください。「あそことの取引をやめようと思う」と役員が述べたとします。もちろん「あそこ」とはみなさんの企業です。その発言のあとに「いやあそことの取引には価値がありますよ」と言ってくれる人たちがどれだけいるかが重要です。繰り返すと、人間も企業もただただ儲けのためにやっているわけではありません。収益と利益を度外視するわけではない。でも取引に価値を感じる顧客がいるのです。
私たちも売り上げも利益も特別に高いわけではないけれど関係を維持したい顧客はいるものです。あえて説明すると「すごいことに関わっている実感」と「学びになる状況」です。
調達担当者によっては見積書を依頼している調達品が一体なにに使われるかをサプライヤに説明せず、さらに今後の発展を伝えようともしない人がいます。そこで「RFQに夢の一文を書こう」という提案です。その調達品を使って何をしようとしているのか。世の中にどんなインパクトがあるのか。どんな広がりがあるのか。もちろんすべてのRFQで書くのは難しい。でも書けるものも多々あるはずです。
--それで解決するかというと……?
もちろんすべては解決しません。でも少しでも改善したい。あえて青臭い話をしますとサプライヤも「なぜ私たちは事業をしているのだろう」と根源的な問いがあります。チャレンジとやりがい、そしてそれらが明確ならば「あそことの取引には価値がありますよ」と語ってくれるシンパが増えるはずです。
「RFQに夢の一文を書こう」。サプライヤが逃げていくなか訴求性の向上はまったなしの課題です。