宅配市場はラストマイルの担い手が多様化 宅配便は19年度+0.7%でネット通販の伸び率に及ばず
国土交通省によると、2019年度の「宅配便(トラック)取扱個数」は42億9063万個で、前年度と比べ3002万個の増加だった。伸び率は+0.7%で、ここ5年間で一番伸び率が低かった。
宅配便の取扱個数は、14年度は消費税率が5%から8%になった影響もあって前年度比マイナスだったが、15年度以降は5年連続で伸びた。15年度+3.8%、16年度+7.4%、17年度+5.9%、18年度+1.2%である。だが、19年度は伸び率が1%を下回った。
一方、ネット通販をみると経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」では、19年度の国内BtoC-EC(消費者向け電子商取引)は19兆3609億円で、前年度比+7.7%となっている。このうち、物流(宅配)が伴う「物販系分野」をみると、19年度は10兆515億円で+8.1%であった。物販系分野の近年の伸び率は、16年度+10.6%、17年度+7.5%、18年度+8.1%で、いずれも同年度における宅配便の伸び率を上回っている。
宅配便(トラック)取扱個数の伸び率とネット通販(物販系分野)市場の伸び率を簡単に比較すると以下のようだ(宅配便は国交省、ネット通販は経産省の資料に基づく)。
宅配便(トラック) ネット通販(物販系分野)
個数比伸び率 金額比伸び率
16年度 7.4% 10.6%
17年度 5.9% 7.5%
18年度 1.2% 8.1%
19年度 0.7% 8.1%
(2017年度に宅配便各社が料金等を見直し、大手ネット通販各社が自前の宅配網構築に着手)
宅配便は個数なのに対してネット通販は金額での集計という違いがある。また、伸び率なので分母によって数値が左右される。とはいえ、ネット通販の伸び率と比べ宅配便の伸び率が低いのはなぜか? とくに18年度と19年度においてはその差が大きい。
19年度はまだ「巣ごもり」需要の影響は小さいが大手宅配便間で伸び率に差
今年度(20年度)はコロナによる宅配需要の拡大に伴って宅配便の取扱個数が増加することが予想される。だが、19年度はまだ「巣ごもり」需要の影響は少なかった。また19年10月からは消費税が10%になっている。それにしてもネット通販市場と比べると伸び率が低いのは明らかだ。
16年度は前年度比+7.4%だったが、17年度には+5.9%に伸び率が下がった。さらに18年度、19年度と伸び率が大幅に鈍化している。これは人手不足などを背景に、17年度にヤマト運輸が宅配荷物の引受抑制や、サービス内容の見直し、料金引き上げなどを打ち出した影響が大きい。佐川急便や日本郵便も同様に、料金改定などを行ったことが取扱個数の伸び率低下に反映した。
この影響はその後も続いているとみて良い。宅配便(トラック)は21便(ブランド)ある。そのうち宅急便(ヤマト運輸)のシェアが42.0%、飛脚宅配便(佐川急便)が29.3%、ゆうパック(日本郵便)が22.7%となっている。上位3社で宅配便市場の94%を占めるという寡占状態だ。
だが、19年度の実績でこの3社間に差が生じた。ヤマト運輸は前年度比-0.2%と微減、佐川急便は+0.9%で微増、日本郵便は+3.4%でやや増加という結果だ。
この大手3社間の差はなぜ生じたのか。宅配便荷物を大量に出荷している大口取引先などとの法人契約において、3社間の料金に差があるのは事実だ(ただし荷物のサイズや出荷方面別などによって単純比較は難しい)。しかし、理由はそれだけではないようだ。
ネット通販会社約300社にフルフィルメント(商品の在庫管理、受注業務、伝票出力、ピッキング、梱包、配送手配、代金回収、クレーム処理などをトータルで受託)のサービスを提供し、クライアントのニーズに応じて宅配便大手3社を使い分けているEC物流事業者によると、「ヤマト運輸は昨年から契約内容の見直しなどを進めてきた影響があるのではないか」という。
また、同様に大手3社と取引のあるEC物流事業者は、「日本郵便はフリマアプリなどCtoC-EC(個人間電子商取引)の個人出荷の宅配個数が増えているのだろう」と分析している。たしかにフリマなどネット上での個人間取引は年々増加している。経産省の「CtoC-EC推定市場規模」によると、19年度は1兆7407億円で前年度比+9.5%である。
ヤマト運輸、日本郵便の2社に対して、佐川急便は全体平均とほぼ同じような伸び率になっている。
「宅配便」と「宅配」の違い、大手ネット通販会社は自前の「宅配」にシフト
おそらく多くの人は「宅配便」と「宅配」の違いを意識していないと思われる。個人宅(あるいは法人)に荷物(たいていは小さな荷物)を届けるという点では同じだが、「宅配便」というのは一般貨物自動車運送事業法という法律に基づいて定義され、サービス商品名をつけて30キログラム以下の荷物を運送するもの。それに対して「宅配」は、荷物を個人宅などに配達することを指す。国交省の調査は「宅配便」の取扱個数を集計したものだ。
17年に大手宅配便会社が料金やサービスの見直しを行ったのを契機に、大手ネット通販会社の一部で宅配便離れが始まった。大都市圏など配達する荷物が多いエリアでは、宅配便会社とは別の運送事業者と契約して自社独自の宅配ネットワークを構築し、自前で配達するようになってきたのである。実はこのような構想はずっと以前からあった。いずれは配送個数の多いエリアは独自に配送し、個数が少ないエリアは宅配便を利用するという考え方である。だが、17年に大手宅配便会社が料金などを見直したため、急遽、独自の宅配網構築に着手しなければならなくなった。
さらに17年以降、ネット通販の市場拡大を見越して、軽自動車などで独自の宅配サービスを始める運送事業者が増えてきた。中小規模のネット通販会社では、寡占化している宅配便会社への過度の依存を避けたいが、しかし自力では宅配ネットワークを構築できない。このような中小ネット通販会社などを主たる対象にした宅配市場への新規参入である。
このように拡大成長が期待される宅配市場をめぐってラストマイル(宅配)を担う事業者が増えてきた。「宅配便」取扱個数の伸び率とネット通販市場の伸び率との乖離は、そのようなラストマイルの多様化の現れである。
だが、ユーザーにとって最大の関心はサービスレベルであろう。ラストマイルの多様化がサービス向上につながれば一番良い。