突破力、1対1の強さ、ライン間の立ち位置、そしてーー久保建英の「偽トップ下」の可能性。
デビュー戦で、「名刺代わり」の一発をお見舞いした。
リーガエスパニョーラ第18節、ヘタフェ対エルチェの一戦で、久保建英が新天地デビューを飾った。大胆不敵な19歳はファーストタッチからの流れで左足でミドルシュート。GKエドガル・バディアが弾いたボールをハイメ・マタが押し込み、ヘタフェに決勝点がもたらされた。
冒頭に「一発」と書いたが、得点ではなかった。ああいった状況を見て「ゴールに絡んだ!」とバカ騒ぎするのも個人的に好きではない。得点にも、アシストにもならないプレーだ。
だが先の久保のプレーに関しては、称賛すべきものだったと思う。2001年5月6日に、ローマの中田英寿がユヴェントス戦で見せたプレーを思い出させた。すでに1得点を記録していた中田はペナルティーエリア左角から右足を振り抜き、GKエドゥイン・ファン・デル・サールを強襲。こぼれ球をヴィンツェンソ・モンテッラがプッシュしてローマが貴重な勝ち点1をもぎ取り、そのままセリエA優勝まで駆け抜けた。
「ナカタは15分で30年間分の仕事をした」
初めての欧州フットボール紀行で、私は幾度となく、そのエピソードを向こうで聞かされた。2007年の当時、ヨーロッパで日本人選手といえば、やはり中田英寿だった。本田圭佑、長友佑都、内田篤人のチャンピオンズリーグでの活躍や、香川真司のマンチェスター・ユナイテッド移籍、南野拓実のリヴァプール移籍以前の話である。
■ヘタフェで主力に
さて、久保だ。
先日、現地のスペイン人のジャーナリストを話をする機会をいただいた。その模様は、追って、こちらでも執筆したいと考えているが、そこで、当然というべきか久保が話題になった。
「私は(久保の移籍の直前に)ボルダラスと話をしていた。ボルダラスと久保は、移籍が決まる前からコンタクトを取っていた。ボルダラスは久保を主力として扱っていくと言っていた」
以前、このコラムで、ヘタフェのホセ・ボルダラス監督とアンヘル・トーレス会長の意見の相違を指摘した。補強に関して、両者の考えは合致していなかった。
だが久保については、ボルダラス監督、アンヘル・トーレス会長、いずれも獲得を望んでいたというのだ。つまり、久保の起用をめぐっての混乱は生まれない。
そして、重要なのが、今冬の移籍市場における補強が持つ意味だ。久保とカルレス・アレニャの加入で、ヘタフェは2020-21シーズンの後半戦、攻撃的な戦い方にシフトする。私はそれに懐疑的だった。しかし、そのスペイン人ジャーナリストとの議論で考えが変わった。
状況を整理しよう。久保とアレニャの加入前、ヘタフェはリーガエスパニョーラで一時16位まで沈むなど苦しんでいた。
始まりはロックダウンにあった。新型コロナウィルスの影響でリーガは昨年3月11日に全面的にストップ。6月11日に再開したが、そこからヘタフェは調子を落とした。30試合で6勝10分け14敗。勝率20%という戦績だ。
ロックダウン前、ヘタフェはリーガで5位につけていた。ヨーロッパリーグやチャンピオンズリーグの出場権獲得を狙える位置にいたのだ。この夏にホルヘ・モリーナがグラナダに移籍すると、クライシスは助長した。今季、リーガ16試合で12得点と決定力不足に喘ぐようになった。
(全3424文字)
■システムチェンジ
久保建英のヘタフェでの2試合目のウエスカ戦で、ボルダラス監督はエルチェ戦に続いて【4-2-3-1】を使用した。
この記事は有料です。
誰かに話したくなるサッカー戦術分析のバックナンバーをお申し込みください。
誰かに話したくなるサッカー戦術分析のバックナンバー 2021年1月
税込550円(記事7本)
2021年1月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。