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枠組み改変論まで飛び出すTPP交渉  進展のメド、不透明に

大野和興ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

TPP交渉は次の閣僚会議の日程もつまらないまま月を越して9月を迎える。TPP交渉のこれからの展開はどうなるのか。いくつかの要素を組み合わせながら考えてみた。9月中旬までに全体会合・閣僚会議が設定されれば、年内合意の可能性は消えないが、それを越すと日米両国の政治情勢も絡み、TPP交渉は漂流の可能性が濃厚になる、という見立てが有力だ。

◆枠組み改変論まで

TPP交渉をめぐる議論の中で、最近注目を集めたものに、発効条件の枠組みを変えようという提案がある。米国の交易専門紙『Inside US Trade』が報じたもので、日本では参院農水委員会での民主党の徳永エリ議員がとり上げている。

『Inside US Trade』によると、これは日本が提案したもので、交渉参加国全体の経済規模(GDP)で85%以上かつ6ヶ国以上の批准により発効するというもので、日米を含む少数の国により一部の国を置き去りにすることが出来るという内容だ。

7月末の下記両会談に際して、米国ではなかなか交渉に乗ってこないカナダを交渉からはずそうという議論が起こり、日本では交渉のなかで乳製品関税の大幅引き下げにこだわるニュージーランドを交渉から除外しようという声が、甘利担当大臣から飛び出すなどの一幕があった。表立った声にはならなかったが、TPP交渉参加国の中で飛びぬけた経済大国である二国から、こうした強引な引き回しの動きが出たことに対する他の交渉参加国の反発は強かった。

今回の日本政府の提案はそうしたことの延長線上にあるとみてよい。徳永議員の「難航分野で反対する国を外して日米中心に進めるということか」という質問に対し、TPP政府対策本部の渋谷和久審議官は「各国が意見を言っていてまだ固まっておらず、引き続き調整することになっている。」「各国の意見を踏まえた議論のたたき台を当該章の幹事国が整理することになっている」と答えている。

この答弁を読む限り、提案したが、まだ何も進んでいないということのようだ。逆みると、この日本提案はTPP交渉がかなり追いつめられており、このままの枠組みでは大筋合意も困難になったことを示している。表は交渉参加国のGDPを示したものだが、85%になる組み合わせは幾通りも考えられるが、これで強行するということがもしあるとすれば、それは従来のTPPという枠組みそのものが壊れたということを意味する。

(交渉参加国のGDP)

日本   その他7ヶ国    メキシコ 豪州    カナダ    米国

17.7%  5.3%    4.6%    5.4%    6.6%    60.4%

◆フローマン氏、各国閣僚と会談

米通商代表部(USTR)によると、フローマン代表はクアラルンプールでマレーシア、豪州、ニュージーランド、ブルネイなどの関係閣僚露会談した。お互い「早期合意を確認した」という報道もあるが(日本農業新聞)、実際は進展は少なかった。8月26日付け読売新聞は、フローマン氏が現地メディアに語った「二国間や数カ国間の協議で残った問題の着地点を見つける作業をしている。できるだけ早く合意したい」という言葉を伝えている。

実質何の進展もなかったことを言外ににじませている言葉だ。

◆甘利担当大臣は相変わらず

事情は日本も同じだ。 甘利TPP担当相は8月21日の閣議後の記者会見で、「8月中が難しいなら9月中という期限を区切って、そこに向けて課題の間合いを詰めて行くという緊迫感と臨場感が必要だ」「妥結に向けての各国の決意を揺るがせることが無いようなスケジュ-ルで取り組んで行きたい」「事務レベル協議の行方を見ながら、閣僚間でどういう話し合いが持てるかどうかを模索したい」と語った(日本農業新聞)。

甘利担当相のこうした言い方は毎度のことで、ほとんど変わり映えがしない。ときに、妥結は間近といった様子を漂わせる。7月末に閣僚会談に臨む時がそうで、合意間違いなしという強気の姿勢を見せつけていた。しかし、これまでの経過の中では、そうなったためしはない。

そうしたこれまでん流れの中に21日の甘利発言を置いてみると、かなり弱気になっているという印象を受ける。こうした状況を反映したのか、TPP推進の急先鋒メディアの読売新聞も、「TPP交渉、停滞感」という見出しを付けざるを得なくなっている。(読売新聞8月26日)

ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

1940年、愛媛県生まれ。四国山地のまっただ中で育ち、村歩きを仕事として日本とアジアの村を歩く。村の視座からの発信を心掛けてきた。著書に『農と食の政治経済学』(緑風出版)、『百姓の義ームラを守る・ムラを超える』(社会評論社)、『日本の農業を考える』(岩波書店)、『食大乱の時代』(七つ森書館)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)『農と食の戦後史ー敗戦からポスト・コロナまで』(緑風出版)ほか多数。ドキュメンタリー映像監督作品『出稼ぎの時代から』。独立系ニュースサイト日刊ベリタ編集長、NPO法人日本消費消費者連盟顧問 国際有機農業映画祭運営委員会。

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