ウクライナへ復興支援の「マーシャル・プラン」構想をドイツが発表。モルドバと共にEUの正式加盟国候補へ
ウクライナとモルドバがEUの正式加盟国候補になるには、会議で27首脳の合意が必要だ。しかし、21日(火)には、EU理事会の輪番議長を務めるフランスのクレマン・ボーヌ欧州問題担当相が、27の加盟国の間で「完全な合意」が生まれたと発言している。
EUの首脳会議が開かれる時には、すでに根回しは終わっていることが多い。27カ国もあるとそうなるのだ。そのため懸案事項については、事前のマスコミの報道は大体信用できるもので、会議をしてみたら全く思いもかけない、事前にまったく聞かなかった衝撃のどんでん返しが飛び込んでくるということは、ほとんどない。
欧州委員会のデアライエン委員長は、22日(水)、ブリュッセルの欧州議会で「今は欧州理事会が決定を下し、我々の歴史的な責任に応えることが求められています」、「ウクライナは正しい道を歩んでいることを、戦前から証明してきました。近年では、ここ数十年の間に行われた改革よりも、わずかな期間で、より多くの改革が行われました。2016年の連合協定のおかげで、EUの規則、規範、基準の約70%をすでに実地しています」と述べた。
一方で、ベルリンでは、ドイツのショルツ首相が22日(水)に、ウクライナ復興のための「マーシャル・プラン」を呼びかけた。「さらに数十億ユーロとドルが必要で、これは何世代にもわたるだろう」という。
これはもちろん、戦争が終わった後のための計画である。キーウを訪問したショルツ首相は、その数日後、破壊の規模を自分の目で見て、第2次世界大戦後の荒廃したドイツの都市と重ね合わせて、このように訴えたのだという。
首相は独連邦議会で「ロシアとの交渉で何が良いかは、決めるのはウクライナだけでなくてはならない」と述べ、拍手喝采を浴びた。「真実のところ、ウクライナとロシアの交渉は、はるか彼方である。プーチンはまだ平和を独裁する可能性を信じているからである」とも語った。
モスクワは、1941年のナチス・ドイツによるソ連侵攻の記念の日を迎えている。その状況で、ロシアの外交当局はドイツが「ロシア恐怖症(ロシア嫌い)のヒステリー」を煽っており、しかもそれは「ドイツ政府のメンバーによって、体系的なやり方で、わが国へほぼ毎日の攻撃というやり方で」行っていると非難した。
ドイツのショルツ首相の名前で「マーシャル・プラン」構想が発表されたのは、大変意義深い。
ドイツがEUの中で第一の経済大国であることはもちろんだが、今このようにロシアの非難の矢面に立っていること、ウクライナからも非難を浴びてきたことも大きな要因である。
そして歴史的には、このことによってやっと、ナチス・ドイツが欧州に与えた負の遺産の歴史の幕を閉じて、新しい時代に向かおうとしているのだと感じる。日本と周辺国との、何という違いだろうか。
ロシアのほうはというと、中国の習近平国家主席から新たなベールに包まれた支援を受けたと思われる。習氏は、NATOに暗に言及しながら、22日(水)に「軍事同盟の拡大」を非難した。習氏によれば、ウクライナの危機はとりわけNATOの責任であるという。
ウクライナが歩んでゆく道は、まだまだ遠い。
デアライエン委員長は、汚職との戦いや「経済に対するオリガルヒの過度の影響力」に対して、「重要な仕事が残っている」とも述べている。
「我々の連合の歴史は、協力しながら、より強く成長する若い民主主義国の歴史です・・・」「その次の章は、今日、勇気あるウクライナの人々によって、そして、ヨーロッパへの道に同行しなければならない我々全員によって書かれるという歴史です。再び、ヨーロッパは正念場を迎えています。立ち上がりましょう」と述べた。
ブリュッセルでのEUサミットに続き、26−28日にはドイツ南部エルマウでのG7サミット、スペイン・マドリードで第3回NATOサミットが開催される。これから1周間は、歴史が動こうとする時である。
キエフへの資金援助の問題は、3つの会議すべてにおいて議論の中心となることが予想される。未来のことだけではなく、もちろん今この瞬間も行われている戦争のために。ゼレンスキー大統領は、NATO首脳会議にテレビ会議で参加する予定である。武器の支援を改めて要請するのだろう。
最後に一つ付け加えたい。このように大きな段取りで歴史が動いているが、EUサミットには離脱した英国は参加できないでいる。
フランス・ドイツ・イタリアの首脳は6月16日、3人そろってキーウに向かった。列車の中でプチサミットが行われ、EUとウクライナ・モルドバの未来について話し合った。その際も、英国は参加していない。もし英国が今でもEUの加盟国だったなら、キーウ訪問の首脳の中に、必ず英国首相が入っていただろうに。
彼らのキーウでの会合と記者会見が終わった後日、ジョンソン首相は不在を埋め合わせ追いかけるかのように、キーウを訪問している。
もちろん英国は、G7のメンバーで、NATO加盟国だ。そしてアメリカに近い存在である。しかし、バイデン大統領は欧州に来ても、ロンドンには今回も行かないだろう。
コロナ禍に戦争と、状況が複雑になってわかりにくくなっているが、英国は間違いなく、ブレグジットの取り戻せない代償を払う時代になってきている。
筆者にとって英国はとても好きな国なだけに、その衰退のきざしを見るのが悲しい。