価格は米国製の1/100――中国製軍用ドローンが売り込まれるリビア内戦
- 内戦の続くリビアでは、反体制派が中国製の軍用ドローン「翼竜」を用い、空爆などを行っている
- 中国が翼竜を実戦に投入する一つの目的は、軍用ドローン市場におけるシェア拡大にあるとみられる
- この分野でトルコは中国の最大のライバルとして台頭しており、リビアはさながら軍用ドローンの見本市と化している
圧倒的な低価格を武器に中国製軍用ドローンは市場拡大を目指しており、北アフリカのリビアはその最前線になっている。
砂漠に現れた翼竜
リビアではコロナ禍も関係なく内戦が続いているが、この戦争は「世界最大のドローン戦争」としても注目されている。
今年4月、首都トリポリ近郊のビスケット工場が空爆され、少なくとも8人の民間人が命を落とした。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によると、これはリビアの反体制派「リビア国軍」が中国製軍用ドローン、翼竜(Wing Loong II)を用いて行なったものとみられる。
リビア内戦は各国の代理戦争の様相を呈しており、このうちリビア国軍はアラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、サウジアラビア、ロシア、フランスなどから支援されている。なかでも熱心なのがUAEで、翼竜もUAEからリビア国軍に提供されているとみられている。
その意味では中国が直接リビアの反体制派に加担しているわけではない。しかし、内戦の激化にともない、国連はリビア向けの兵器輸出を規制している。
そのうえ、国連によると、今年4月から6月までだけでリビアでは女性や子どもを含む民間人が100人以上殺害され、256人負傷したが、その80%は反体制派であるリビア国軍によるとみられている。リビア国軍による蛮行が目立つなか、5月には国連の専門家会議がUAEとともに中国に関しても兵器輸出の実態を調査する必要があると報告している。
これに対して、UAEだけでなく中国も目立った反応をみせていない。
中国が目指すもの
中国にとって、間接的とはいえリビア向けに翼竜を輸出することには、大きく3つの目的があるとみられる。
第一に、データ収集だ。実戦に投入することで、性能向上のために、実験室では得難いデータを集められる。
第二に、リビア復帰だ。
ブリティッシュ・ペトロリアムによると、リビアは埋蔵量でアフリカ大陸一の産油国だ。この国では2011年の政変「アラブの春」のなか、この国を40年以上にわたって支配したカダフィ体制が崩壊した。カダフィ時代、中国はリビアの油田開発に進出していたが、これがあまりに目立ったため、カダフィ体制の崩壊後にリビアを追い出された経緯がある。
現在のリビア政府の中核は、カダフィ体制を打倒した主力だったイスラーム勢力が握っている。これと敵対するリビア国軍に中国が肩入れすることは、将来的なリビア復帰を念頭に置いたものといえるだろう。
価格はアメリカ製の100分の1以下
そして第三に、軍用ドローン市場でのシェア拡大だ。
現状の中国は、戦闘機やロケットの技術で米ロに及ばない。しかし、いまも世界全体が発展途上にあるドローンの分野なら、中国にとって競争力を高める余地が大きい。圧倒的な価格の安さが、これを促しているとみられる。
アメリカ製のRQ-4グローバル・ホークは、アフガニスタンなどでテロ掃討作戦に用いられたMQ-1プレデターなどと異なり、偵察機能しかないが、それでも一機あたり約1億3000万ドル、設備などを込みにすると2億2200万ドルを上回る(有人戦闘機とあまり変わらない)。そのため、一旦は購入に傾いた日本政府も高コストを理由に見直しを検討しているといわれる。
これに対して、ミサイルも搭載できる翼竜は一機100万ドル、地上管制装置などをつけても300万ドルほどとみられる。人民解放軍系のChina Military Onlineは「コストパフォーマンスの高さが顧客の支持を集めている」と強調する。
誰に売りたいか
これに対しては、「どうせ‘安かろう、悪かろう’だろう」という見方もあるだろう。しかし、その顧客の候補をリビア周辺のアフリカ諸国と考えるなら、低価格は大きな競争力になる。貧困国にとって、アメリカ製は高嶺の花だからだ。
そのうえ、顧客を選ばない点も、アフリカにとって中国製の魅力になる。
先進国はアフリカへの兵器輸出に消極的だ。特にアメリカは「人権侵害のある国に兵器を輸出してはならない」という国内法に沿って兵器をほとんど輸出していない。しかし、イスラーム過激派の台頭などもあり、アフリカでは軍用ドローンを含む兵器の需要が高まっている。
だとすると、ドローン戦争の最前線になったリビアに翼竜を提供することは、中国にとってアフリカでの市場開拓に向けて、これ以上ないデモンストレーションともいえる。
最大のライバル・トルコ
この中国にとって最大のライバルと呼べるのがトルコだ。
トルコはリビアで、国連からも承認された、いわば正当なリビア政府である国民統一政府を支援している。国民統一政府もやはり国連から兵器禁輸の対象にされているが、国民統一政府はトルコから提供された軍用ドローン、バイラクタルTB2(Bayraktar TB2)を投入しているのである。
トルコはこれまでにシリア内戦でも軍用ドローンを多用してきた。今年2月からシリア北部イドリブで行われた作戦では、有人の戦闘機F-16よりむしろバイラクタルTB2が空爆の主力になったといわれる。
もっとも、そのバイラクタルTB2がリビアにどのくらい投入されているかの詳細は不明だ。これに関しては、翼竜もほぼ同様である。
しかし、イギリスのシンクタンク、ドローン・ウォーUKの集計によると、今年前半6カ月にリビアで撃墜された(つまり実際に確認された)翼竜が8機だったのに対して、バイラクタルTB2は16機にのぼったことから、少なくとも翼竜に負けないほどバイラクタルTB2がリビアの戦場を飛び回っていることがうかがえる。
トルコ系メディアでは「国際的に承認されたリビア政府を守るためにトルコのドローンが活躍している」といった論調が目立つが、リビア国軍を支援するUAE、サウジアラビア、エジプトなどの筋のメディアや団体からは「トルコ製軍用ドローンが民間人を標的にした」ことが熱心に報じられやすい。
軍用ドローンの見本市
ともあれ、トルコがリビアでバイラクタルTB2を多用することにも、中国とほぼ同じ3つの目的が見いだせる。
なかでも「各国への売り込み」に関していえば、バイラクタルTB2の価格は一機あたり500万ドル程度とみられ、翼竜よりやや高いものの、グローバル・ホークよりはるかに安い。
しかも、トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国としてアメリカの同盟国でもある。実際のところ、トルコのエルドアン大統領はアメリカと距離を置いているが、少なくとも中国よりは「西側との関係に基づく信用性」を匂わせやすい。
こうしてみたとき、リビア内戦はアフリカ各国を念頭に置いた、軍用ドローンの見本市になっているといえる。それがリビアをさらなる激戦に引きずりこむものであることは、いうまでもない。