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「忍びの家」に続き「将軍」と「ヤクザ」も世界で大ヒット。日本ドラマに拡がる可能性。

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:FX YouTube公式チャンネル)

先週は、Netflixで配信された「忍びの家 House of Ninjas」が、週間グローバルトップ10の非英語部門で1位を獲得したことが日本でも大きな話題になりました。

参考:賀来賢人主演「忍びの家」Netflix非英語で世界1位に!「このチームを心から誇りに思います」

ただ、実は今、世界で注目されている日本を舞台にしたドラマは「忍びの家」だけではありません。

なんと、他にも2つの日本を舞台にしたドラマが、今、世界中で話題になっているのをご存じでしょうか?

「SHOGUN」と「TOKYO VICE」も世界でヒット

ディズニーが巨額の予算を投じて製作した作品として世界中で注目されているのが、2月27日にDisney+で配信がはじまったドラマ「SHOGUN 将軍」です。

こちらは、米国の映画評論サイトRotten Tomatoにおいて批評家スコアでなんと驚きの100%という絶賛の評価を叩き出し、Disney+やHuluなどの系列の配信サービスで80カ国以上でトップ10入りし、ランキングサイトFlixpatrolの集計ではDisney+ドラマ部門の1位に輝いています。

(出典:Flixpatrol)
(出典:Flixpatrol)

また、一足先に2月からHBOでの配信が始まっているドラマ「TOKYO VICE」のシーズン2も、Rotten Tomatoにおいて92%という高い評価スコアを受けており、HBOの系列の配信サービスで40カ国以上でトップ10入りし、Flixpatrolの集計ではHBOドラマ部門の2位に入っているのです。

期せずして、このタイミングで、Netflix、Disney+、そしてHBO Maxという良質なドラマを生み出しつづけているグローバルな動画配信サービスにおいて、同時に日本を舞台にしたドラマが世界ランキングの1位や2位に入ってくるというのは、非常に素晴らしいニュースと言えます。

日本人にとっては古いテーマが、海外では新鮮

興味深いのは、3つのドラマとも、ある意味日本人にとっては「古い」テーマとも捉えられがちな日本のテーマを軸にして、世界中のファンを惹きつけている点です。

Netflixの「忍びの家」は、賀来賢人さんが原案をNetflixに持ち込んだ作品で、現在の日本に「忍者」がいたらという設定で、海外にも人気のある「忍者」を題材にしている作品です。

日本において「忍者もの」というと少し古い印象を持つ方も少なくないと思いますが、「忍びの家」ではあえてオーソドックスな黒装束の忍者を軸に、体術を中心にしたアクションを展開。

見事にNetflixを通じて世界中の人の興味を勝ち取ることに成功しました。

参考:世界中で話題の賀来賢人「忍びの家」のヒットに学ぶ、黒船Netflixの意義

また、Disney+の「SHOGUN」は、真田広之さんが主演とプロデュースを務めておられますが、タイトル通り「将軍」がテーマであり、1600年の徳川家康と関ヶ原の戦いまでのストーリーがベースとなっている、いわゆる「侍」のドラマです。

おそらく日本の映像会社が、海外に向けて、こうした戦国ものを展開するという発想はあまり無かったと思いますし、大河を除くとSF的な展開が組み合わさることが多くなっているように感じます。

しかし、「SHOGUN」で舞台となっているのは、外国人から見た1600年の日本という設定で、名前や細かい設定こそ違いますが、徳川家康と関ヶ原の戦いというオーソドックスな戦国時代です。

さらに「TOKYO VICE」は、WOWOWがHBOと共同製作をし、ハリウッド俳優としても活躍されている渡辺謙さんが重要な役柄を演じている作品ですが、舞台となっているのは「ヤクザ」社会。

実は「忍者」「侍」「ヤクザ」という、典型的な日本を舞台にしたドラマが、シンプルに海外の視聴者に刺さっていると言えるわけです。

ある意味、日本人にとっては「古く」感じる王道のテーマが、海外の視聴者にとっては新鮮なテーマになっていると言えるかもしれません。

日本人がコミットしているからこそのクオリティ

もちろん、これまでも海外の映像会社が日本を舞台にした映画やドラマを製作することはありましたが、どちらかというと日本人からみると少し日本らしくない映像表現になることが多かったように思います。

しかし、「忍びの家」は賀来賢人さんが、「SHOGUN」には真田広之さんがプロデューサーとして参加していますし、「TOKYO VICE」もWOWOWが共同製作に入ることで、そうした問題を乗り越えることができているようです。

特に「SHOGUN」において真田広之さんが、日本の時代劇のスタッフを多く起用したのが象徴的なポイントと言えるでしょう。

真田広之さんが日本各地から集めた時代劇のプロたちが、衣装・小道具・所作指導など各パートに配置され、刀の扱い方から構え方、歩き方も含めて全てレクチャーしたそうです。

参考:真田広之、海外挑戦の架け橋に 次世代へ継承する役者魂「撮影現場が何よりの道場」

素人目には、海外向けであれば、そうした細かい所はこだわらなくてもいいのではないかと思ってしまいがちですが、実は、日本人が納得する本物さこそが、海外でヒットする上で重要なポイントと言えるわけです。

自国でヒットするからこそのグローバルのヒット

実は、Netflixアジアの製作トップを務めるキム・ミニョンさんが、ビジネスインサイダーのインタビューで、自国でヒットすることが重要だという話をされていました。

グローバルな視聴者のためのグローバルな番組は存在しないので、まずは日本人が日本ローカルでリアルに感じ、インパクトのある作品を作ることが重要ということだそうです。

参考:ヒット連発、Netflixアジアの制作トップは韓国人女性。成功の理由は「世界を目指さない」こと

そうした作品であれば、言語が違っていてもNetflixのようなグローバルプラットフォームを通じて海外にファンをひろげることができる時代であると言えます。

そう考えると、実は日本のテレビ局や映画会社が製作するドラマや映画にも同じ可能性があるはずです。

実際に、東宝が製作した映画「ゴジラ-1.0」が、戦後の日本を舞台にしているのに米国でヒットしたことが1つのシンボルであると言えるでしょう。

すでに日本のテレビ局も、自社のテレビドラマをNetflixのような動画配信サービスで配信したり、海外のテレビ局に販売したりという活動を活発化していますが、こうした活動の中から、日本を舞台にした日本のテレビ局のドラマが、海外でヒットする事例が生まれる可能性も当然あるはずです。

「忍びの家」「SHOGUN」そして、「TOKYO VICE」のヒットにみられるように、今、日本を舞台にしたドラマが世界中で見られる時代になっていることは間違いありません。

こうした成功に刺激を受けて、さらに多くの映像会社やクリエイターの方々が、日本を舞台にした作品で、世界中で活躍してくれることを楽しみにしたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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