東日本大震災の被災地に学ぶ研修ツアー 戦略や情熱地域の財産 コロナ禍のビジネスパーソンを奮い立たせる
震災直後の被災地で仕事 忘れられない光景
もうすぐ2011年3月11日に発生した東日本大震災から12年になる。史上まれにみる大災害により壊滅的な打撃を受けた各地の復興に対しては、直後から政府や地方自治体、民間企業やボランティア団体など様々な組織や人々が積極的なサポートを行いながら、活性化を促してきた。
私自身、政府から要請を受け震災翌月に福島県に行き、半年後には中小企業団体から依頼を受け同県に講演に行き、翌年は宮城県のNPOからの依頼で何度か出張相談に行かせてもらったが、がれきの山と化した町で、厳しい状況の中でも復興に向け情熱を燃やす現地の人たちの様子は忘れられない。
しばらく間があき震災から8年がたった年、宮城県気仙沼市役所からの依頼で、同市の中小企業や起業家を前に講演をさせてもらったのをきっかけに頻繁に訪問することとなり、気仙沼ビズ(2021年6月開設)の立ち上げもお手伝いした。
その関係で気仙沼市の多くの中小企業の相談を受けたのだが、被災後の様々な課題が改めて浮き彫りになってきた。特に観光業は新型コロナウィルス感染症拡大の影響で深刻さは突出していた。しかし私はこのような時代だからこそ、新たな観光振興の可能性があるはず、と、具体的なビジネス化のチャンスをうかがっていた。
コロナ禍の課題 被災地から学べる事がある
そんな折の昨年1月、大阪府岸和田市のキシビズで、同市に拠点を置く観光事業者株式会社トラベルウェーヴ関西本店の谷川店長が相談に見え、お話を聞くことになった。
これまで団体旅行を中心に取り扱ってきた同社はコロナ禍で厳しい状況におかれ、「防災」をテーマとして新たなツアーを組めないか検討したいという。私は、防災は、視察や教育の切り口で既に数多く行われている事、行政関係、ボランティア、NPOが主催する防災テーマの学びは無料のものが多く、また参加者もそれを前提とする方々が多い事などから、収益性の高い商品になりにくい環境ではないかと考えた。
そこでひらめいて提案した代替案が、気仙沼市で、東日本大震災により壊滅的な打撃を受けた企業の現場をみながら再生の道筋と戦略、経営者や従業員の信念や熱意を学ぶという企業経営者向け研修ツアーだった。
東京等で行われる宿泊型の経営者向け研修は2日〜3日間で参加費が30〜40万円ほどのものが多く見られる。私も何度かその講師をさせてもらったが、全国各地から中堅、中小企業の経営者や幹部が数多く参加し熱心に受講している様子が大変に印象的だった。
また、10年前に当時運営していた中小企業支援施設で、全国的に評価される新たなビジネスモデルを作り出した地域の3社を巡りそれぞれの経営者に現場を見せてもらいながら講演も聞くツアーを地元ホテルの新たな企画商品として提案・実施したところ、高額な商品であるにもかかわらず募集1週間で満員となり大成功したことが今回の提案の「おさえ」でもあった。
全国紙夕刊一面で報じられたパイロット企画
被災地を対象とするこのような目的の研修ツアーはこれまでほとんどなくオリジナリティがあり、トラベルウェーヴ関西にとっても新たな事業分野として「研修事業」が確立できる可能性がある。私はさっそく気仙沼市役所に依頼し、研修先候補となる企業を10数社選定してもらい、その上でトラベルウェーヴ関西が3社に絞り商品化、まずはパイロット企画として7月下旬に開催した。毎日新聞はこの取り組みを夕刊一面でも報じ、社会の関心の高さも確認できたし、参加企業の反応も上々だった。
昨年12月に行われた第2弾は今年1月21日の産経新聞夕刊一面で報じられ、取材にこたえたある参加企業の代表は、7月の企画に参加し感銘を受け、今回は社員を連れて再び気仙沼を訪れたという。ツアーを経て現場の社員も次にどうするかを考えるようになったと社内の意識に変化を感じたそうだ。
気仙沼市にとってみると、これまで歴史や自然、食が主たる観光資源だった中で、震災後に復活した企業の取り組みや、経営者・従業員の皆さんのパワーもまちの貴重で魅力的な財産として位置づけられ、全国のビジネスエリアの人たちにとって学びを得られる対象と確認できた事はとても大きいはずだ。地域の観光活性化を考えている皆さんは、こうした視点で改めて可能性を見つけてみてはどうか。チャンスはまだまだある。