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「起床後すぐタバコ」で跳ね上がる慢性閉塞性肺疾患リスク

石田雅彦科学ジャーナリスト
韓国の禁煙テレビキャンペーンのCOPD患者。提供:韓国健康増進公団

 喫煙はまさに万病の元だが、タバコを吸うと特に肺がんを含む呼吸器系の病気に罹りやすくなる。ニコチン依存症の喫煙者の場合、目覚めてから最初1本目のタバコに手を伸ばす時間が短いほど依存度は高い。目覚めの1本を早く吸う喫煙者ほど、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease、以下、COPD)のリスクが高くなるという研究論文が、これまでいくつか出されている。

気付かないうちに重症化するCOPD

 駅の階段などを上り下りするときに息切れしたり、咳や痰が多くなったりするといった症状が出るのがCOPDだ。慢性気管支炎と慢性肺気腫のどちらかか両方による呼吸器系の病気で、喫煙が原因の場合が多い。COPD患者の90%以上が、現在タバコを吸っているか過去に吸っていた元喫煙者だ。

 COPDによって気管支や肺の機能が減退し、重症になると正常な呼吸ができなくなり、酸素ボンベと鼻チューブを手放せない生活になる。これらの機能は一度失われると元に戻らない不可逆なもので、効果的な治療薬も次第に出てきてはいるが、基本的な治療は症状を悪化させないようにするしかない。

 厚生労働省の人口動態調査によれば、2016年のCOPDによる死亡者数は1万5686人だった。男性のCOPDによる死亡順位は第8位だが、喫煙率が高かった世代の高齢化から、この順位は今後上がっていくと考えられている。

 過去の疫学調査(※1)では日本人のCOPDの有病率は8.4〜8.6%(40歳以上)とされ、それによって計算すると日本人の患者数は500数十万人になるはずだ。しかし、COPDと診断された患者数は実際には約26万人でしかなく、患者の多くは自分がCOPDと思っていない可能性が高い。また、これまで心不全や肺炎などで死亡した人の中に、実際にはCOPDによるものが少なくない数、含まれていると考えられている。

 喫煙原因のCOPDの重症化は20〜30年のスパンをかけて次第に進行するということもあるが、受診率や診断精度が上がることでCOPD原因による死亡が増えていくかもしれない。これまで息切れや咳・痰の自覚症状を加齢によるものと判断する人も多かった。喫煙者や元喫煙者の高齢化とともに受診した人がCOPDと診断されるケースが増えていく可能性もある。

ニコチン依存度は起床後の1本目から

 ところで、タバコから吸収するニコチンにより、喫煙者のほとんどはニコチン中毒になりニコチン依存症となってタバコを止められなくなる。だが、どんなに強いニコチン依存症の喫煙者もさすがに寝ている間はタバコを吸えない。

 体内のニコチン量が減ってくると、ニコチン依存症の喫煙者はタバコを吸ってニコチンを吸収しようとするので、就寝中に少なくなったニコチンを起床後に補充しようとする。そのため、起きてから最初の1本目を吸うまでの時間(Time to first cigarette、以下、TTFC)により、ニコチン依存度を推測することができる(※2)。

 これまで、がん、心血管疾患、糖尿病などのタバコ関連疾患とTTFCとの間のつながりについて多くの研究がなされてきた。もちろん、呼吸器系の病気、特にCOPDとの関係にはいくつかの論文が出されている。

 米国で行われた大規模な臨床調査であるPLCO試験(前立腺がん、肺がん、大腸がん、卵巣がんのスクリーニング試験、全米10カ所、55〜74歳の男女約15万人、1993〜2001年)のアンケート調査を利用した米国国立衛生研究所(National Institutes of Health、NIH)による研究(※3)によれば、TTFCが短くなればなるほどCOPDのリスクが上がることがわかった。

 この研究によれば、TTFCが60分以上の喫煙者を1とした場合の各リスク(調整オッズ比、OR)は、5分以内2.18、6〜30分1.64、31〜60分1.48となった。1日の喫煙量を調整して比較しても同じ結果が出たことで、研究者は起床後すぐの喫煙はCOPDのリスクを上げると結論づけている。

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起床後最初の喫煙までの時間(TTFC)と各リスクの違いを病気(慢性気管支炎と慢性肺気腫のどちらかか両方)、年齢、1日の喫煙本数、これまでの喫煙総量(Pack-Years)、喫煙年数で比べた。TTFCが短くなるほどリスクが上がることがわかる。Via:Kristin A. Guertin, et al., "Time to First Morning Cigarette and Risk of Chronic Obstructive Pulmonary Disease: Smokers in the PLCO Cancer Screening Trial." PLOS ONE, 2015

気になったら早めに受診を

 また、最近になって呼気流量と肺気量(肺活量)の測定(肺機能検査、Pulmonary Function Test、PFT)を使ってCOPDの診断を実際に行い、それとTTFCとの関係を調べたという論文(※4)も出されている。これは韓国の翰林大学病院の研究者によるもので、喫煙者392人(すべて男性、平均年齢45.3歳)を対象に調べた。

 肺活量による評価では、息を深く吸い込んでから最後まで吐き出しつくした肺活量で、最初の1秒間に吐き出す量の占める割合(1秒率)が70%以下の場合、COPDと診断したという。その結果、TTFCが60分以上を1とした場合のリスク(オッズ比、OR)は、5分以下7.338、6〜30分1.85、31〜60分1.82となった。

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実際に肺活量によってCOPDを診断し、その喫煙者が起床後どれだけの時間で1本目を吸うかとの関係を調べた。TTFC5分以下の信頼区間(CI)バラツキが大きいことがわかる。いずれにせよ、TTFCが短いほどCOPDのリスクが上がるのは間違いない。Via:Geonhyeok Kim, et al., "Association of Time to First Morning Cigarette and Chronic Obstructive Pulmonary Disease Measured by Spirometry in Current Smokers." Korean Journal of Family Medicine, 2018

 なぜ、TTFCが短いほどCOPDを含む喫煙関連疾患のリスクが高くなるか、よくわかっていないが、血中ニコチン濃度が高くなるから(※3)とも、より深くタバコ煙を吸い込む(※5)からとも、TTFCが短い喫煙者の遺伝的特性(※6)からともいわれている。一方、日本人の膵臓がんとTTFCとの関係を調べた研究では、TTFCの短さは膵臓がんの発症リスクに関係していない、という論文(※7)もある。

 いずれにせよ、COPDは自覚症状がないことが多いため、喫煙者の受診率が低く発見が遅れることも考えられる。朝起きてから寝床ですぐ1本目を吸わないと落ち着かない喫煙者は、息切れがひどくなったり咳や痰が多くなってきたと感じたら、早めに医療機関を受診し、肺機能の検査や胸部CT検査をするほうがいいだろう。

※1-1:Yoshinosuke Fukuchi, et al., "COPD in Japan: the Nippon COPD Epidemiology study." Respirology, Vol.9, No.4, 458-465, 2004

※1-2:Koichiro Matsumoto, et al., "Prevalence of asthma with airflow limitation, COPD, and COPD with variable airflow limitation in older subjects in a general Japanese population: The Hisayama Study." Respiratory Investigation, Vol.53, Issue1, 22-29, 2015

※2:Joshua E. Muscat, et al., "Time to First Cigarette after Waking Predicts Cotinine Levels." Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention, Vol.18, Issue12, 2009

※3:Kristin A. Guertin, et al., "Time to First Morning Cigarette and Risk of Chronic Obstructive Pulmonary Disease: Smokers in the PLCO Cancer Screening Trial." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0125973, 2015

※4:Geonhyeok Kim, et al., "Association of Time to First Morning Cigarette and Chronic Obstructive Pulmonary Disease Measured by Spirometry in Current Smokers." Korean Journal of Family Medicine, Vol.39, 67-73, 2018

※5:Carlos A. Jimenez-Ruiz, et al., "Smoking Characteristics." CHEST Journal, Vol.119, Issue5, 1365-1370, 2001

※6:Joshua E. Muscat, et al., "The nicotine dependence phenotype, time to first cigarette, and larynx cancer risk." Cancer Causes Control, Vol.23(3), 497-503, 2012

※7:Makoto Nakao, et al., "Cigarette Smoking and Pancreatic Cancer Risk: A Revisit with an Assessment of the Nicotine Dependence Phenotype." Asian Pacific Journal of Cancer Prevention, Vol.14, Issue7, 4409-4413, 2013

※2018/04/09:9:39:「なぜ、TTFCが短いほどCOPDを含む喫煙関連疾患のリスクが高くなるか、よくわかっていないが、血中ニコチン濃度が高くなるから(※3)とも、より深くタバコ煙を吸い込む(※5)からとも、TTFCが短い喫煙者の遺伝的特性(※6)からともいわれている。一方、日本人の膵臓がんとTTFCとの関係を調べた研究では、TTFCの短さは膵臓がんの発症リスクに関係していない、という論文(※7)もある。」のパラグラフを追加した。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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