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「インテンシティ不足」という便利ワード(マンチェスターC対レアル・マドリー分析)

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
クルトワでなければあと3点は入っていた(写真:ロイター/アフロ)

「インテンシティ不足が敗因」という典型的な試合だった。便利に使われる言葉だが、具体的に何が足りなかったのか?

ほとんどの敗因は「インテンシティ不足」で説明が足りる。監督もよく口にするし、この言葉さえ使っておけば、何となく分析できたような気になってしまう。

インテンシティ不足とは「運動量で下回る」とか、「球際のアグレッシブさで下回る」とか、「前へ出る勢いで下回る」と同義。よって、「一方的に攻め込まれる」とか、「ボールを奪い返せない」とか、「相手ボールを追わされる」という結果をもたらす。点取りゲームのサッカーでこれでは勝てない。

では、レアル・マドリーに具体的に何が足りなかったのか?

■インテンシティ不足とは?

1:バックパス時のライン上げの鈍さ

マンチェスター・シティはボールを支配することで相手を崩そうとする。支配のためには当然、バックパスが必要だ。

ボールホルダーと守備者が1対1なら仕掛ける。そうでなければ、後ろにボールを戻して作り直す。不利な状況で強引に仕掛けてボールロストするよりも、作り直してボールを別の場所へ動かし、守備の綻びを待つのがグアルディオラ監督、というかすべてのポゼッションスタイルのやり方だ。

人間の集中力と体力は永遠に続かない。ボールを追わされるのは相手のアクションに対するリアクションであり、一歩遅れる運命なので、特に消耗が激しい。必ずマークミスや寄せのミス、前で出るか下がるかの判断ミスなどが起こる。

なので、シティはバックパスを多用する。問題はこの時のレアル・マドリーの対応だ。

ミリトンのオウンゴールは低調なパフォーマンスの象徴
ミリトンのオウンゴールは低調なパフォーマンスの象徴写真:ロイター/アフロ

バックパスに対してはラインを上げる、が最も有効な守備戦術だ。ラインを上げれば相手のスペースがなくなり、相手へのプレスが掛け易くなり、うっかりしている相手をオフサイドにできる。

1週間前の第一レグではこれができていた。だが、昨夜の第二レグではできていなかった。

なので、バックパスの次のパスを簡単に有効に通された。

このライン上げの鈍さは、試合開始当初からだったので疲労のせいではない。インテンシティ不足のせいだ。十分なアグレッシブさで試合に入っていけてなかった。

2:イーブンボールに競り負ける

これは1に関連している。ラインを素早く上げられない→出足が鈍い→スペースが間延びしたまま→イーブンボールに届かない→ボールを奪えない。

イーブンボールはことごとくシティ側にこぼれるか、ぶつかり合いではレアル・マドリー側のファウルになった。シティの選手が先にボールを触れていたことによる、当然の帰結である。

いつものビニシウス頼みもシティには通用せず
いつものビニシウス頼みもシティには通用せず写真:ロイター/アフロ

3:3トップのボールをもらいに来る意識の低さ

1と2がチームの責任なのに対し、この3は個人の責任である。

ビニシウス、ベンゼマ、ロドリゴはそろってインテンシティが足りなかった。具体的には下がってボールをもらいに来る動きが足りず、パス待ち→裏抜けの姿勢に終始した。

1と2の理由でチームが押し込まれている。そんな状態でやっとボールを回復したのに、前を向いても3トップがいない。相手DFの後ろに隠れている。仕方なくロングボールを放り込むのだが、相手が前を向いて対処するのに対して、こちらは背中を向けて対処するのだから勝ち目はほぼない。

シティは前に人数を割いているから、レアル・マドリーの3トップは相手と1対1になっている。この1対1に勝てれば相手GKとの1対1になる。

この状況を利用するには、相手の守備ラインを揺さぶらなければならない。誰かが下がり、誰かが上がり、誰かがサイドへ流れる。3トップが動けば相手はついて来るので前後左右に揺さぶることができ、揺さぶればギャップができる。

特に、ボールをもらいに下がって来る動きは、キープを助けて味方に息をつく時間とラインを上げる時間を与えられるのだから必須である。

ベンゼマが下がってボールを触り、前を向いた味方に戻した瞬間に、ロドリゴとビニシウスが裏へ抜ける――なんてシンプルなコンビネーションでも勝率はとてつもなく上がる。

この下がってボールを受けるプレーも1週間前の第一レグではできていた。なぜ、昨夜できていなかったのか不思議である。

4:個人のイージーなミス

こんなに悪いモドリッチは記憶にない
こんなに悪いモドリッチは記憶にない写真:ロイター/アフロ

これはインテンシティには関係ない。

モドリッチはイージーなトラップミス、パスミスを連発した。「シティの圧力で平常心を失った」という説明は一応できるのだが、ミスは試合開始当初から出ていた。ベンゼマやロドリゴ、クロースにも普段は出ないミスがあった。

■シティの必殺連係プレー

最後に、シティの勝因も紹介しておく。典型的な攻略法は次の通り。

グリーリッシュとベルナルド・シウバが1対1を仕掛ける。

SBのカルバハルとカマビンガが対応のためサイドへ引き出される。

SBとCBの間にスペースができる。

このスペースにギュンドアンとデ・ブルイネが入ってフィニッシュへ。

SBとCBの間にスペースができるのは、ハーランドにはCB二枚(ミリトンとアラバ)で対応せざるを得ないため(第一レグに出たリュドガーは1対1で対応し完封していた。なぜミリトン先発だったのかは疑問)。

スペースに入ったギュンドアンとデ・ブルイネがキーマンとなった。

彼らを経由することでエリア内へパスを通せる。ハーランドがノートラップでシュートを打てるパスが出せ、サイドを深くえぐるパスも出せる。つまり、フィニッシュが確実に行える。

第一レグで大活躍のカマビンガもしっかり対策されていた
第一レグで大活躍のカマビンガもしっかり対策されていた写真:ロイター/アフロ

第一レグ、グリーリッシュとベルナルド・シウバは1対1を仕掛けなかった。これは今から考えると“死んだふり”だったのかもしれない。

マンチェスター・シティがボールを支配する、レアル・マドリーが下がってカウンターを狙うという構図は、第一レグと同じだった。この試合を優勢に終えていたことで、レアル・マドリーは自信を持っていた。しかし、シティはギアを上げてきた(=インテンシティとアグレッシブさを上げてきた)。死んだふりに騙された。

ゲームプランの失敗ということで、スペインではアンチェロッティ監督の今季限り説が強くなっている。

結局はこの人がさすがだった
結局はこの人がさすがだった写真:ロイター/アフロ

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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