野球振興に力を入れる阪神タイガース。タイガースジュニアのセレクションで見えた新たな取り組みとは
■20年目の「NPB12球団ジュニアトーナメント」
今年もジュニアたちの熱い季節がやってくる。
野球少年少女の憧れの舞台である「NPB12球団ジュニアトーナメント」。この大会を経験した選手のプロ入りは年々増え、注目度は年を経るごとに高まっている。
「子どもたちがプロ野球への夢を身近に持てるように」と2005年にスタートし、今年は20回目の節目を迎える。記念の年として12球団に4球団を加えて開催されるが、その4球団とはファームリーグに加盟したオイシックス新潟アルビレックスとくふうハヤテベンチャーズ静岡、そして独立リーグから四国アイランドリーグplusとルートインBCリーグだ。
16球団のジュニアたちがプロと同じユニフォームを着て、プロ野球OBの指導を受けながら、頂点を目指して戦いを繰り広げる。もはや年末の風物詩ともなっている大会だ。
■阪神タイガースは新しいやり方でのセレクション
阪神タイガースジュニアのこれまでの戦績は優勝が1回(2022年)、準優勝が2回(2016年、2017年)だ。タイガースジュニアからNPBのプロ野球選手になったのは5人、他球団のジュニアからタイガースに入団したのは7人。タイガースジュニアから虎戦士になったのは、佐藤輝明選手ただひとりである。
大会に向けて、今年もタイガースジュニアのセレクションが開催された。球団として野球振興に力を入れているタイガースは今年、セレクションのやり方をこれまでと変えた。
そのセレクションについて中村泰広代表が説明する。
「これまではビデオ審査のあと、実際にグラウンドで実技を3日やって決めていましたが、今年は1カ月ほどかけて長い期間、見せてもらいました」。
実技に1カ月間とは!
6月下旬に受け付けが始まった動画選考には約300人が応募してきた。これは例年と変わらない。そこから8月10日の基本的な実技に進んだのが113人。ここで通過した58人が11日に臨み、シートノックやシートバッティングで40人が選ばれた。
翌週の17日は紅白戦とフリーバッティングなどで28人に絞られ、24日のセレクションではさらに21人になった。31日は台風の接近で中止となり、9月7日の最終セレクションで21人が16コの椅子をかけて紅白戦に挑んだ。
そして翌日の肩肘検診を経て、いよいよ16人のちびっこ虎戦士が決定した(メンバーは追って紹介)。
こんなにも時間をかけてセレクションをしたのは、タイガースジュニア史上初めてのことである。
■1カ月間にわたるセレクション期間
1カ月間もの長きにわたるセレクションを開催した意図を、中村代表はこう明かす。
「いろんなポジションを試すことも必要だし、可能性の高い子はいろんなところで見ていきたいというのがある。今までのように3日間だと、なかなか見られない部分もあったので、そういう反省を生かそうと考えました」。
たとえば、「この子はこのポジションじゃ力を発揮できていないけど、違うポジションだったら可能性が広がるんじゃないか」などと、“プロの目”で適性を見抜くのだ。
そもそも「外野手」で応募してくる選手は少ないという。能力の高い選手は、たいていは自チームでピッチャー、キャッチャー、ショートに就いている。そういう選手たちでチームを作るとなると、その中から最低でも「3人の外野手」を作り出さねばならず、その適正を探るためにも外野を守らせてみるのだ。となると、時間が必要だ。
また、中村代表はこうも話す。
「初日に力が出せなくても、ひょっとしたら…というのがある。長い期間の中のどこかでベストパフォーマンスが出てくれたら。確率のスポーツなんでね」。
せっかくの機会だ。何年も前からジュニアを目指している子もいる。今日は結果が出なくても次回は見せてくれるかもしれない。その可能性を見抜くのもまた、プロの目だ。
■セレクションが、すなわち野球振興
日を追うにつれ、だんだんと人数は絞られてくる。残っていく選手はさすがにみんな能力が高く、自チームでは突出した力がある強者(つわもの)ばかりだ。いわゆる“お山の大将”ってやつである。
そういう選手たちがセレクションの場で、初めて「すごい」と認められる相手に出会い、己の“現在地”を知る。そして、そんなレベルの高い選手同士が切磋琢磨する。選手たちは、それが楽しくてしかたないようだ。
セレクションで自分なりに課題を見出し、必死に練習をしてまた翌週のセレクションにやってくる。前回は発揮できなかった力を今回は出せるようにと、子どもなりに考えてもくる。選手たちがそれぞれ自主的に取り組んでいるのが、見てとれる。
このセレクション期間中に「こんなにも成長するなんて」と、我が子の姿に驚いておられる親御さんもいた。
選手同士もだんだんと打ち解けあい、いつの間にか名前で呼び合うようになっていった。16人の枠を競うライバルでもあるのだが、そんなことは度外視して、一つの目標に向かう“同志”としてまとまりだしたのだ。紅白戦などでは声を出し合い、励まし合い、助言し合い、すでにワンチームのようになっていた。
とくに最終まで残っていた選手たちは、親御さんともども「こんな環境でやらせてもらって幸せです。セレクションだけど、レベルの高い子たちと一緒に練習できて、プロの方に声もかけてもらえて、毎週通ってくるのが楽しみでした」と、充実した表情だった。
球団としても、これだけの長い期間の開催となると、当然のことながら経費や手間、マンパワーが割かれるわけだ。しかし、ずっとジュニアに携わってきた経験から、中村代表には「よりいいチームにしたい」という強い思いがある。そこで、今回の方法を実施したのだが、まさにそれこそが野球振興になっているのだ。
セレクションに集まった選手たちは、よりうまくなりたいと必死になり、より野球が好きになったと話していた。
「遠いところから来られている方は、何度も通うのは大変だったかもしれないけど、今まで知らなかったレベルの高い子たちと野球をやる、いい機会と受け止めていただけたら」と中村代表が語るように、野球教室などでは味わえないような“真剣勝負”の場で己を磨くことができたわけだ。
自分でも未知の能力に気づいたり、優秀な子を見て自分に足りないものがわかったり、そんな新発見があったと選手たちは口をそろえ、自身の野球とじっくり向き合える期間になった。
残念ながら16人には入れなかった選手たちも、この経験はかけがえのないものになったはずだ。きっと自らの野球人生の糧になるだろう。
そして決定した16人のメンバーは、さっそく今日14日に初練習を行う。ちびっこ虎戦士たちの輝く笑顔に会えるのが楽しみだ。
では次回は、今年の首脳陣である玉置隆監督、岩本輝投手コーチ、森田一成野手コーチを紹介する。さらに今年加わった“新戦力”も…。(記事⇒「阪神タイガースジュニア2024」玉置隆監督、岩本輝コーチ、森田一成コーチ、それぞれの思いとは」)
(表記のない写真の撮影は筆者)
【阪神タイガースの大会経験選手】
髙山俊 千葉ロッテマリーンズジュニア(2005年)
髙濱祐仁 福岡ソフトバンクホークスジュニア(2008年)
豊田寛 横浜DeNAベイスターズジュニア(2009年)
浜地真澄 福岡ソフトバンクホークスジュニア(2010年)
佐藤輝明 阪神タイガースジュニア(2010年)
及川雅貴 千葉ロッテマリーンズジュニア(2013年)
門別啓人 北海道日本ハムファイターズジュニア(2016年)
【阪神タイガースジュニアのOB選手】
佐藤輝明 阪神タイガース(2010年)
安田尚徳 千葉ロッテマリーンズ(2011年)
林晃汰 広島東洋カープ(2012年)
内星龍 東北楽天ゴールデンイーグルス(2014年)
嘉手苅浩太 東京ヤクルトスワローズ(2014年)