「阪神タイガースジュニア2024」玉置隆監督、岩本輝コーチ、森田一成コーチ、それぞれの思いとは
■阪神タイガースジュニアの首脳陣
新しいセレクション方法で、阪神タイガースジュニア2024の16人が決定した。(セレクションについての詳細記事⇒「野球振興に力を入れる阪神タイガース。タイガースジュニアのセレクションで見えた新たな取り組みとは」)
では、今年のタイガースジュニアを指導する首脳陣を紹介しよう。監督は玉置隆氏。昨年は投手コーチだったが、今年はチームをまとめ、率いる。
投手コーチは2020年からの3年間もジュニアのコーチを務めていた、ジュニアトーナメントを最もよく知る岩本輝氏だ。
そして野手コーチは、昨年に続いて2年目となる森田一成氏である。
3氏ともタイガースアカデミーでコーチも務めているが、現役時代、同じ釜の飯を食った仲間でもある。
そんな3氏にジュニアチームへの思いなど、最終セレクション終了直後にさまざま聞いた。
■玉置隆監督
――昨年はコーチで今年は監督になった
「去年一番感じたのは、『勝たせてあげたい』ということ。負けたときの子どもたちの泣いた顔とか今も思い出すし、僕ら自身もあの悔しさはもう経験したくないと思いましたね。
優勝するためには厳しさも必要で、チームの結束力ということも踏まえて、今年は昨年より厳しい目をもってやらせていただこうと思っています」
――監督のオファーをどう感じたか
「監督だからといって、僕が名采配で勝利に導けるわけでもないし、先見の明があって(セレクションで)すごい選手を見抜いて獲れるとか、そんな力もない。それよりも自分のいいものってなんだろうとって考えたときに、やっぱり周りを巻き込んで、みんなの意見を聞いて、その意見を反映していくっていうところだなと。だから、自分の意見はほんとに最後でいいなと思っている。
森田コーチ、岩本コーチを本当に信頼しているんで、2人にはどんどん見てもらって、どういう目、どういう意見があるのかなと吸収しながら最終セレクションまできたような感じ。僕一人で決めることは何もない。中村代表も浅沼次長も、みんなの意見が欲しい」
――今年はセレクションに時間をかけた
「まだ小学生なんで日々、感情も変りますし、体の状態も変ります。短いセレクションの中では性格や良さをハッキリ見ることができずに印象で獲ってしまう。でも長くやっていくと、『あれ?先週はよかったのに、今週はちょっと…』という子もいれば、逆に『先週あまりよくなかったのに、今日すごいな』という子もいて、ほんとに変わるんで。
だから長い目で見れば、その子の本当のよさ、逆に悪さも見えるんで、より慎重に見ることができたというのがあった。個々の“振り幅”がよく見えました」
――今年の受験者の印象は
「毎年、素晴らしい選手が最終まで残るんですけど、今年はちょっと体の大きい子が多いのかなというイメージがありますね。圧とか迫力があるというか、一発の魅力というか。毎年1人2人なのが、今年はとくに多いかな。
体の大きい子を残したのではない。『当たったら飛ぶぞ』ではなく、そこにちゃんとしたミート技術があったり、守備の柔らかさがあったり、送球の安定さがあったり、そういうのを兼ね備えた子の、体が大きかった」
――子ども同士仲よくもなり、ここから16人を選ぶのは心苦しい
「めちゃめちゃ酷ですね。もう、今でもしんどい(笑)。親御さんの気持ちもありますし、子どもの熱い思いもある。そういうのって練習を見ていると伝わるんですよ。声の出し方とかね。情を入れちゃダメだなってわかっているけど、情を入れてもいい部分もあると思っている。そこって難しい」
――このセレクションの場が、子どもたちにとって財産になった
「チャレンジすることもそうだし、受かっていく段階で成長する子もいれば、落ちて『もっと頑張ろう』という経験になる子もいる。
僕が子どもたちに伝えていることがあります。このセレクションはあくまでも小学6年生の段階での評価で、ジュニアに入れたらプロ野球選手になれるわけでもない。ここから体が大きくなって、どんどん成長する子もいる。だから、受かった子も落ちた子も、『明日からまた前を向いて頑張ってください』と伝えていますね」
■岩本輝コーチ
――2年ぶりのジュニアのコーチだが、あらためてジュニアとはどう向き合うか
「勝ちたい!」(即答で一言)
――セレクションではどこに主眼を置いて見ていたのか
「全部ソツなくこなせるのがいいし、何か一つ抜けているものがあれば目に入るし、っていうのが30人くらいのところまでは入れる。そこからはポジションごとに埋めていって、かぶらないように見ていくというのが、一番難しいところではあります。
ピッチャーだけできてもダメ。16人しかいないので、他のポジションもできないと。そういう適性、能力も見ています」
――通算4年になるが、年によって受験選手の違いはあるか
「昨年は(コーチを)やってないので、一昨年を例に挙げると、ピッチャーはけっこうコントロールがよかったので、そこに困ることはなかった。今年は球の速い子が多いですね。一昨年は110キロから115キロの間のピッチャーが多くて、1人だけ120キロの子がいたけど、今年は115キロから120キロを超える子が多い。全体のレベルが上がっているのか、今年がそういう年なのかはわからないですけど。
ただ、速くても打たれるんですよ。だから、ピッチングができているかなというところは見ますね」
――2年ぶりにジュニアを担当するが
「一昨年、いい思いをしたんで、今年もさせてやりたいなと思った。予選敗退、予選敗退できて優勝したので、両方の気持ちがわかっている。やっぱり勝って終われるって、そんないいことはないので」
――ジュニアトーナメントの戦い方も熟知している
「取れるアウトを確実に取るとか、当たり前のことが当たり前にできるということが一番。ビッグプレーのビッグエラーより、普通が一番。計算できるアウトが取れないのが、綻びとして出る。
なんでもないアウトが取れないとか、四球とか、これは小学生じゃなくても中学、高校になってもそれは出てくるので、そこは今、徹底させたい。だからといって、こじんまりさせるわけじゃないですよ」
――今年のセレクションは長い期間をかけた
「いいところも悪いところも見えるので、どれくらいできるかがわかりやすいですね。“たまたま”が通用しない。逆に言えば、可能性を秘めていれば1度ダメでも次に進める。それはいいと思います」
――どんなチームにしたいか
「それはここからですね。選んだ選手は選ばれたことに自信をもって、自分の持っているものをだしてくれれば。僕らも引き出さないといけないですけどね」
――一方で、落ちた選手には
「ここからどうなるかはわからないわけです。落ちたからって、そんなに気にすることはない。逆にこれをきっかけに、より一生懸命やってくれたらいいかな。
(教え子の)アカデミー生も何人も落ちているし。誰かと比べるわけじゃないけど、自分よりすごい人を見つけて、それ以上になるよう目指してほしい。
それに、成長なんていつするかわからない。高校1年かもしれないし、25歳で成長するかもしれない。僕なんて球速が速くなったのは、福井(ミラクルエレファンツ=独立リーグ。タイガースを退団後、2017年に入団した)に行ってからだから」
――150キロを超えるようになり、2018年にオリックス・バファローズに入団
「タイガースが終わって野球を辞めていたら、それはなかったわけだから。きっかけを掴むのが、どのタイミングかだけなんで」
――このセレクションがきっかけになる子もいるかもしれない
「そうです、そうです。だから自分が成長できるようにやっていけば。今回ダメでも中学は中学で、高校は高校でレベルの高いところにって挑んでほしい。
諦めたら終わりやし、諦めるくらいやったら、それまで。落ちて悔しいのは、頑張っている証拠です」
――今年のチームに対して
「毎回、不安と楽しみがありますね。不安は、うまく力を引き出せるかなということ。
楽しみは、やっぱり優勝ですかね。『負けたけどいい経験できた』とか、そんなの優勝に比べたら全然いい経験じゃないから」
――優勝を経験したからこそ、それがわかる
「ほんとそう。勝ってナンボ。勝つ経験とか優勝する経験って、なかなか人生であるようでない。だから一生懸命に狙って、いい思いをしてほしい。負けたらせつないっすからねぇ」
■森田一成コーチ
――ジュニアのコーチは2年目。昨年を踏まえて、今年はどう取り組むのか
「変わらず。野球以外のところもしっかり見る。オンとオフのメリハリをつけて、やりたい。あとは、持てる力を出せるか」
――セレクションを見て
「日数が多かったから、毎週評価が変わる子もいれば、ずっといいという子もいる。出しきれる子は、本戦に行っても出せるのかなと思いますね」
――どういうところを見ているのか
「あいさつとか、ちゃんと返事できるとか、そういうのも大事にしている。できる子は野球の神様が最後は味方してくれるって、俺は思うタイプやから。
俺が一番かわいがっていた後輩のフミ(原口文仁選手)なんか、そういう選手。寮にいるときもゴミがあったら拾うし、あいさつもちゃんと立ち止まってやる。チャンスを掴めたのも、そういうのが絶対にあると思うから」
――厳しく言う
「普通にやっとったら甘くはならんから。負けたら終わりやからね。負けたときに『これだけやった』と思わせるくらい、やりたい。負けて『あれしとけばよかった、これしとけばよかった』ってならんように。
俺も戦力外って言われたときも、後悔はなかった。それくらいやったつもりだから。子どもも、後悔がないようにやってほしい」
――週に1度だが、そこまで思えるくらいにやる
「そう。数をやらせたい。メニューとかは基本的に岩本コーチに任せる方向だけど、数はやらせます」
――昨年のセレクションとの違いはあったか
「去年は初めてで何もわからなかったけど、今年はちょっと余裕をもって見られたかな。玉置監督がやりやすい雰囲気を出してくれるのもあると思います」
――選手を番号でなく下の名前で呼んでいたのが、彼らの緊張をほぐしていた
「上より下の名前で呼んだほうがいいかなと。深い意図はないけど」
――セレクションを見ての感想は
「レベルが高いと思います。今年はよりいい子が揃っているのかなと。逆にプレッシャーになるなぁ(笑)」
――落ちた選手へ
「ここが最後じゃないんで、落ちても別にね。甲子園が目標ならそこを目指せばいいし、プロを目指すなら、焦って硬式に行かなくても軟式からでもいいし、その子に合ったことをしていけばいいと思います。どこに目標設定をしていくかだから。
ジュニアに絶対受かりたい、これでもう野球を辞めるっていうのなら残念だけど、ここで落ちても恥ずかしいことでもなんでもない」
――大会ではコーチとしても昨年の悔しさがある
「去年も言ったけど、嫌われてもいいから厳しく、うるさくやるつもりです。そんな怒鳴ったりはしないけど。野球以外のチームの決めごとを決めたら、全員でやる。やってなかったら言う、根気よくね。
たとえば牽制で『バック』とか、打って走らなくて『走れ』とか、俺が言う前に言うようになってほしい。それでチームが一つになれるかなと思います」
■“新戦力”の浅沼亮氏と角菜帆氏
今年新たに加わったのが、浅沼亮氏だ。球団の振興部兼事業統括次長で、ジュニアチームでは運営統括だ。さらにアカデミーコーチの角菜帆氏がマネージャーを担当する。
子どもたちに交じって泥んこになって奮闘している浅沼氏は、「小学6年生の軟式野球のプレーをまじまじと見たことないんですけど、この子たちはうまい子の集まりだなというのは、見ていてよくわかりました」と、セレクションでの選手たちの野球レベルの高さに目を丸くしていた。
「いろんな地域からタイガースジュニアを目指してきてくれている。とくに動画で意気込みを語ってくれているのを見ると、子どもたちの目標になるこういうチームがあるって、本当にいいなと思います」。
8月の暑い日差しをものともせず、セレクション中も笑顔が絶えなかった浅沼氏だが、チーム結成を心待ちにしている。
「いろんなチームの子が集まって、そこからチームワークが生まれたりするのもすごく楽しみだし、その子たちがまた、ジュニアで学んだことを自チームに持ち帰ってくれるのも嬉しい。過去のジュニアのOBが甲子園に出たりしているのを見ても、ジュニアから巣立ってそういうところを目指して頑張っているんだなと、それもまたいいなと思います」。
セレクションではきびきびと積極的に動きまわっていたが、「みんな、すごく刺激になったって言っています。自分の県では見られない子たちがいっぱいいるからって」と、選手の声もしっかり“取材”していたようだ。選手たちも話しやすい雰囲気を感じていたのだろう。
「僕は元プロではないので、技術面は教えられないけど、何かできることをやって、子どもたちのいい思い出になるように頑張りたいですね」。
「運営統括」というポジションで、チームを支えていく。
また、紅一点の角氏は元女子硬式野球選手で、セレクションでも打撃投手をはじめ、さまざまなサポートを行っていた。角氏についてはまた別の記事で詳しく紹介したい。
球団も非常に力を入れている「NPB12球団ジュニアトーナメント」。2022年以来、2年ぶりの頂点に立てるのか。
今後、晴れてメンバーになった16選手の紹介や、本大会に向けての頑張りなど詳報していく。
(撮影はすべて筆者)
【阪神タイガースの大会経験選手】
髙山俊 千葉ロッテマリーンズジュニア(2005年)
髙濱祐仁 福岡ソフトバンクホークスジュニア(2008年)
豊田寛 横浜DeNAベイスターズジュニア(2009年)
浜地真澄 福岡ソフトバンクホークスジュニア(2010年)
佐藤輝明 阪神タイガースジュニア(2010年)
及川雅貴 千葉ロッテマリーンズジュニア(2013年)
門別啓人 北海道日本ハムファイターズジュニア(2016年)
【阪神タイガースジュニアのOB選手】
佐藤輝明 阪神タイガース(2010年)
安田尚徳 千葉ロッテマリーンズ(2011年)
林晃汰 広島東洋カープ(2012年)
内星龍 東北楽天ゴールデンイーグルス(2014年)
嘉手苅浩太 東京ヤクルトスワローズ(2014年)