冬のアウトドアレジャーに役立つ!山岳ガイドの重点チェックポイント 服装編
12月に入り、西から移動してきた低気圧が日本列島を横切り三陸沖に抜ける冬型気圧配置となる場合が増えてきました。日本海側気候エリアに住む方は雪対策グッズのチェックも済んでいる頃ですが、東京や大阪といった太平洋側気候エリアに住む人にとってはまだピンとこないかもしれません。
冬の屋外スポーツや雪山を目指す登山者として、必ずチェックしておきたいポイントがあります。
それはユーラシア大陸北方から流れ込む寒気の強さです。高層天気の情報から上空850ヘクトパスカルでのマイナス6度の等温度線をチェックしておきましょう。気象全般の詳しい気象予報士の解説を聞く時は「日本上空に流れ込む寒気の強さ」です。登山者なら覚えておきたいポイントです。特に山岳地帯においては低気圧通過後の天候悪化に要注意です。
850ヘクトパスカル(凡そ上空1500メートル付近)におけるマイナス6度の冷たい空気が中国四国九州などを覆うようになると平地でも雪がちらつき、1000メートルに満たない山々に雪が積もります。低い山でも霧氷が楽しめるチャンス到来でもあります。
冬のアクティビティ、雪山登山を楽しめる季節の到来です。
ところで、あたたかい雪と冷たい雪、乾いた雪と湿った雪など様々なタイプがあるのをご存知でしょうか。
日本海側気候の標高の低い山々で降る雪はベタベタと衣服を濡らし、地表にある構造物や電線などに団子のように付着することもあります。これが湿雪です。
北国や標高が高い山岳では雪の結晶が明瞭でサラサラとした乾いた雪が積もります。一度地表に舞い降りた雪も風で吹き飛ばされ、風下に吹きだまります。乾いた雪も寒暖の差や太陽の熱でさまざまに変化していくので、登山中に出会う雪は一定であることはありません。
前置きが少し長くなりました!これからの季節、服装で押さえておきたいポイントを冬の雪が無い低山、雪の積もった低山、樹林帯の雪山、森林限界を超える氷雪の雪山に分けてご紹介します。
グローブの記事はこちら⇒冬のアウトドアレジャーに欠かせないグローブ 山岳ガイドが後悔しないポイントを解説します。
1:雪が無い冬の低山
太平洋側気候で冬晴れが多い関東から九州までの1500メートル程度の山々です。晴れて風がなければ落葉広葉樹林の木漏れ日ハイキングを楽しめることでしょう。澄んだ冬の空気のおかげで遠くの街や山々がすっきり見えるのもこの季節です。
綿・セルロース由来素材の混紡ウェアは避けてください。普段使いでは快適な綿製品も冬のアウトドアではデメリットが目立ってきます。立ち止まっているときに暖かいほどのぶ厚いダウンジャケットは行動には不向きです。薄手のコンパクトタイプをリュックサックに忍ばせておきます。
綿のデメリットとは⇒汗(水分)が乾きにくく、濡れたウェアは体温を奪います。
ポリエステル素材でできた薄手のニットを着用して肌を露出しないようにします。行動中の体温上昇と発汗を考慮しながら、重ね着したウェアを脱ぎ着するようにします。
重要な脳がある頭部と頸部(首回り)は血流が多く、熱放散が起きやすい部位です。コンパクトなニット帽とネックゲーターでこまめに着脱して調整をします。
休憩中と強風時、早朝夕方に着用できる防風性のあるウェアを着用します。⇒レインウェアは防風性と防水性を兼ね備えています。リュックサックのすぐに取り出しやすい場所に入れておきます。
2:雪が積もった冬の低山
日本海側気候の影響で積雪がある九州から中国、北陸の1000メートル程度の山々と1月から2月にかけて、冷たい寒気を伴った南岸低気圧が通過した時の関東の山々です。
気温は標高を100メートル上がると凡そ6.5度下がります。1000m前後の山々には湿った重たい雪が多く積ることもあります。
登山靴やシェルウェアに付着した雪は自分自身の体温で融け、雨と同様に衣類を濡らしてしまいます。
基本の考え方は1と同様ですが、防水バックに手袋と靴下の予備を必ず追加します。
肌に触れるアンダーウェアには撥水メッシュ素材の着用を検討してみてください。その上に濡れても冷たく感じにくいメリノウールや吸湿吸水速乾加工されたポリエステル製ニットウェアを重ね着するようにします。
シェル素材と登山靴の表面素材の撥水処理に念を入れるようにしましょう。生地表面に付着した雪は融けていきます。撥水性(生地表面で水滴となって弾く性能)はとても重要です。
3:厳冬期の雪が積もった樹林帯の山
中部山岳の前衛にある2000メートル程度以下、緯度の高い東北の山々です。森林に覆われた山々です。雪山登山だけでなく、山岳スキーも楽しむこともできます。登山口までのアプローチ(林道など)の通行止めもあり、入山できる山岳も限定的になってきます。
のんびり登山とはいかず、運動負荷が高い登山行動になります。厳冬であっても大量の発汗が伴います。行動と休憩における運動負荷の大きな変化に対応できる2のレイヤリングは必携です。
強い寒気が日本列島に流入する状態ではマイナス15度と極低温も想定内とした厚手のグローブ、フリースやダウンジャケット、ニット帽子や目出し帽とネックゲーターは素早く着用できる準備をしておきましょう。凍傷の危険性が増えてきます。
4:森林限界を超え、強風に曝される氷雪の山
年間営業のロープウェイ利用できる山岳もありますが、氷雪の山々へは長い低~中間エリアの雪山登山を経て到達するため、長時間夏山とは比べようのない重さの荷物を背負っての体力が必要です。極端な低温と強風に耐えられる服装装備は必要です。
この領域は冬山登山を目指す方向けになるので詳しくは別の機会にお話ししたいと思いますが、装備面で特に重視してほしいのは手足指先の末梢を凍傷から防ぐグローブと登山靴です。
良く耳にする機会が増えた「低体温症」は全ての山岳で身近に潜んでいます。山岳ガイドは何に注意しているかは次回以降に書きます。
コロナ災禍の終息見通しは明瞭ではありませんが、日本の豊かな自然を余裕をもって楽しむ山歩きは体力向上とストレス解消、免疫力低下防止に必ず役に立つと確信しています。
低山であっても十分な登山計画と登山届、山岳保険に加入してお出かけください。
⇒インタネット登山届「山と自然ネットワーク コンパス」
良い年末に向けて健康的な日々をお過ごしください!