スタンドオフデコイジャマー「ADM-160B MALD」をウクライナ軍が使用、アメリカが極秘に供与
5月12日夕方6時ごろ(現地時間)、ウクライナ東部のロシア支配領域であるルガンスク(ルハンシク)市でウクライナ軍の長距離攻撃があり、工場が炎上しました。最前線からの距離は80~90kmほどでHIMARSのM30/M31ロケット弾でぎりぎり届く距離だったのですが、使用されたのは別の兵器である可能性が出ています。
アメリカ製の空中発射式スタンドオフデコイジャマー「ADM-160B MALD」の残骸が発見されています。MALD(ミニチュア空中発射デコイの略)は小型の巡航ミサイルのような形状で、敵防空システムの射程外から発射(スタンドオフ)される、電子妨害能力(ジャマー)を持つ囮弾(デコイ)です。
アメリカはADM-160Bのウクライナ供与を発表しておらず、秘密裏に送られていた事になります。実戦投入した以上はウクライナ空軍の東側製戦闘機から発射できるように改修済みなので、ずっと以前から供与計画は進んでいたのでしょう。
使用方法はスタンドオフデコイジャマーを放ち敵防空網を撹乱して、その隙に本命のミサイル攻撃ないし航空攻撃を行う流れになります。ルガンスク内務省は「攻撃にはグロムが使われた」としていますが、ウクライナ軍のグロム2(フリム2)弾道ミサイルは1年前の開戦時点で開発中の兵器で、完成したとはまだ聞きません。
また亜音速で飛行するADM-160Bとマッハ5~6で飛行するグロム2では速度差があり過ぎるので協調攻撃が難しく、実際に攻撃担当で使用されたのはイギリスからウクライナへの供与が発表されたばかりの空中発射巡航ミサイル「ストームシャドウ」である可能性があります。ただしストームシャドウの残骸はまだ発見されていません。
追記1:ルガンスク側は「5月12日夕にストームシャドウとADM-16Bで攻撃された」と発表を訂正。
追記2:5月13日朝の攻撃で回収された破片に「STORM SHADOW(ストームシャドウ)」と書かれてある部品を発見。
※日付けは現地時間。
ADM-16Bは亜音速で飛行し、重量は115kg(250ポンド)と軽量。飛行可能距離は1000km近くありますが、目標の周囲で囮として蛇行飛行を繰り返す想定なので、実運用での最大有効射程は数百km程度になります。