ウクライナ軍がストームシャドウ巡航ミサイルをルガンスク市への攻撃に使用か
5月13日、ロシアに一方的に併合されたウクライナ東部の自称・ルガンスク人民共和国のルガンスク側の共同管理調整センター(JCCC)代表部は、12日夕方(現地時間)に行われたウクライナ軍によるルガンスク市への長距離攻撃について、ストームシャドウ巡航ミサイルが使用されたと発表しました。
「ストームシャドウ」巡航ミサイル(英仏共同開発)が2発、「ADM-160B MALD」防空対策ミサイル(アメリカ製)が1発使用されたとしています。どちらも戦闘機に搭載して運用する空中発射式です。ルガンスク側の当初発表では「グロム2」短距離弾道ミサイル(ウクライナ製)による攻撃とされていましたが、訂正されました。ただし公開された5月12日夕の攻撃での残骸は細かい断片で、ストームシャドウかどうかは見ただけでははっきりとはよく分かりません。
追記:5月13日朝の新たな攻撃で回収された部品に「STORM SHADOW」と書かれてある物を発見。
なおロシア語の防空対策ミサイルとは敵防空網を撹乱させる目的の電子妨害・囮弾のことです。「ADM-160B MALD」は小型の巡航ミサイルのような形状で射程が長くスタンドオフ運用で発射できます。ストームシャドウと同時使用されたADM-160Bについては比較的大きな残骸の部品が見つかっており、機種が特定されています。
関連:スタンドオフデコイジャマー「ADM-160B MALD」をウクライナ軍が使用、アメリカが極秘に供与(2023年5月13日)
ウクライナ軍は2種類の新装備を供与されて、電子妨害・囮弾と巡航ミサイルの同時併用による敵防空網の突破・長距離攻撃という新たな戦術を取れるようになりました。十分な供給数があれば戦局を好転させる可能性を有しています。
イギリスが5月11日にウクライナに巡航ミサイル「ストームシャドウ」を提供すると発表してから翌日にはもう攻撃に投入したことになります。ウクライナ空軍の東側製の戦闘機にこれら西側の兵器を実装できるように改修する時間を考えると、実際の供与の決定は何カ月も前に行われていたのでしょう。
ストームシャドウの実際の射程は560km以上
実は一般に知れ渡っているストームシャドウの射程250kmとは輸出仕様のことで、本国版は射程560km以上(300nm+)を発揮可能だとイギリス空軍の公式サイトに過去に明記されていました。ただしイギリスはストームシャドウの提供にあたって使用をウクライナ領内に止めるように要請しており、ロシア領内への敵基地攻撃には投入されない方針のようです。
すると焦点としてはクリミア大橋(ケルチ大橋)への攻撃にストームシャドウを投入するかどうかです。このミサイルが搭載している弾頭重量450kgの二重貫通弾頭「BROACH」は成形炸薬弾+徹甲榴弾の構成です。もしも橋を狙った攻撃を実行する場合は橋桁では貫通し過ぎて効果が薄いので、橋脚を狙って破壊することになるでしょう。この場合は破壊されると修復がかなり困難になります。ただし政治的にロシアを刺激し過ぎないようにとイギリス側が考えた場合は、使用が制限される可能性があります。