コロナ禍で一変した音楽ライブ文化 進む「声出し緩和」でどう変わるか
私たちの様々な生活様式を変えてしまった新型コロナウイルス。国内の初感染から3年が経ち、5月8日から季節性インフルエンザ同等の「5類」への移行が予定されています。いよいよ“脱コロナ”に向けた日常へと戻そうとする動きが進んでいます。
コロナ禍で一変したライブ興行
コロナ禍で大きく変わってしまったものの一つに、音楽などにおけるライブ文化があります。それまで音楽ライブにおいては、出演者に対して声援を送ったり、特に観客が「コール」と呼ばれる声を一体となって出したりすることで、共にライブの演出を作り上げていた歴史がありました。
コロナ禍初期の2020年は多くのライブが中止や延期、無観客での開催を余儀なくされました。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置期間の合間を縫うような形でライブの開催ができたとしても、ライブ中の観客の発声は禁止。また、隣の観客の席と一席をあけるなどし、会場の収容定員の半分しか動員してはならないといったような様々な制約がありました。
その後、ワクチン接種が進みライブ会場の収容定員の上限については緩和され、観客の声出しについては依然自粛の流れが続いてしましたが、2022年秋以降、ライブ中の観客の声出し緩和が進んでいます。音楽グループの「Perfume」が10月7日(金)に仙台市の宮城セキスイハイムスーパーアリーナで、声出しライブを開催しました。収容定員1万人前後のアリーナ規模での音楽ライブではコロナ禍以降初といわれています。
続く11月13日(日)には埼玉県所沢市のベルーナドームで、総合エンターテイメント企業のブシロードが主催する「ブシロード15周年記念ライブ in ベルーナドーム」が声出し可能なライブとして開催されました。数万人収容可能なドーム規模のライブとしては初の試みです。
コロナ禍で隆盛したクラップ(手拍手)文化
コロナ禍で声が出せなくなるまで、ライブ会場で観客と出演者とのコミュニケーションは声援によるものが主でした。例えばアンコールの前には、観客席から「アンコール」と合唱していましたし、ライブで演者が自己紹介などする時には、観客と一体となって行われる「コールアンドレスポンス」という声の掛け合いがありました。
他にも、音楽のジャンルによっても異なりますが、サビのフレーズの一部を一緒に歌ったり、演奏後に歓声を送ったり、また声優やアイドル系のライブを中心に「コール」という掛け声をしたりする光景が当たり前でした。
ところがコロナ禍により大きな声が出せなくなると、こうしたファン主体となって作り出されていた文化もできなくなってしまいました。そこで代わりにわき起こってきたのが、手を叩くことで演者とコミュニケーションを取ろうという動きです。
例えば先述の「コールアンドレスポンス」は、観客席側は声出しではなく手拍手で応える形に変わりました。また、演奏中には「Aメロ」と呼ばれる楽曲の出だしの部分や、「サビ」の前の部分などで曲のテンポに合わせてクラップ(手拍手)を入れるようになりました。曲中のどこでクラップを入れるかは曲調によって異なり、会場のその場の空気感によって変わることも多いです。また、コールが全くない曲もあったのと同様、クラップが全く入らない曲もあります。
こうしたライブ文化の変化は、楽曲の作り手側にも大きな影響を与えています。特にアイドル系の楽曲だと、コロナ禍以前はサビで演者と掛け合いできるようなフレーズを入れることも珍しくなかったのですが、コロナ禍以降の楽曲ではあまり見られなくなりました。 その代わりに見られるようになったのが、クラップで会場が盛り上がれるような曲です。
もちろんこうしたライブ中の文化はアーティストによって異なる部分も大きいです。ただ、観客側も楽曲の作り手側も、コールの代わりにクラップが強く意識されるようになったところは共通しているといえるでしょう。
約3年ぶりに湧いたファンの歓声
こうしたライブ文化の変容があった中、アニメ業界の大規模ライブとしては初の声出し可能ライブとなる「ブシロード15周年記念ライブ in ベルーナドーム」が開かれました。ブシロードが関わるライブのうち、発声可能なライブが開催されるのは2020年2月以来で、実に2年9ヶ月ぶりになります。
このライブはブシロードの設立15周年を記念したライブで、これまでブシロードが関わってきた作品の声優やアーティストが一同に集い、楽曲を披露するというものです。作品は『BanG Dream!』(バンドリ!)や『ラブライブ!シリーズ』、『D4DJ』や『探偵オペラミルキィホームズ』など、2000年代以降のコンテンツが勢揃いした格好になりました。
観客の大半にとっても約3年ぶりの声出しあのライブということで、冒頭からドーム内は歓声に包まれ、現地にいた筆者としても「ライブってこうだったんだよな」という感覚を取り戻させられました。
コロナ禍前の楽曲も少なくなかったことから、サビで入れられる「フワフワ」と呼ばれる定番のコールをはじめ、様々な声援が復活し、まさにかつての日常を思い起こさせるような光景がそこにありました。一方でコロナ禍以降に作られた曲を中心にクラップで盛り上がる文化も健在で、まさに「コール文化」と「クラップ文化」が融合し、今後の音楽ライブ文化のあり方を予見させるものでもありました。
2つの文化がどう融合していくのか
一方で、楽曲側もここ1年くらいはアフターコロナの「声出し解禁」を見据えたかのように、かつてのような観客が声で合いの手を入れられるような曲も増え始めています。
新型コロナウイルスは社会の様々なあり方を変えました。音楽ライブ興行でも、例えばコロナ禍前はオンラインによるライブ配信は技術的には可能だったものの一般的ではなく、むしろタブー視されていたところもありました。
ところかコロナ禍になり一変、それが当たり前となりました。これによって観客側にとっても、例えば2日間の公演のうち、片方は現地で観覧し、もう片方の日は自宅で酒と料理をたしなみながらオンラインで楽しむといったように、新しいライブの楽しみ方が生まれています。
コロナ禍で新たなライブ文化が誕生していることから、「コロナが明けてもライブのオンライン配信は続ける」と明言している興行主もいます。こうした動きと同じように、コロナ禍で生まれた「クラップ文化」もなくなることもないでしょう。
「5類」移行で急速に進む声出し緩和の動き
そして今年に入り1月27日、政府は5月8日から「5類」へ移行することを発表しました。そして同時に発表されたのが、この1月27日のこの発表をもって、感染対策を行えば定員100%でも大声で発声可能なライブを可能にする内容です。
この発表をもとに声出し再開の動きが急速に進んでいます。ブシロードグループでは1月30日、同社主催のライブイベントにて、不織布マスク着用での声出しを解禁すると発表しました。また2月2日には、バンダイナムコグループやブシロードなどが参画する『ラブライブ!シリーズ』のライブ興行も、声出しを解禁する方針を出しました。
早速2月4日(土)と5日(日)のライブでも声出し解禁の動きが進んでいます。例えば両日都内で開催された『バンドリ!』のライブ「BanG Dream! 11th☆LIVE」や、『ラブライブ!シリーズ』のライブ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 UNIT LIVE!」が全編声出しOKで公演されています。
実際に筆者も4日、「BanG Dream! 11th☆LIVE」を現地で観ましたが、会場は「コール」と「クラップ」が入り交じる熱気に包まれました。自宅でもライブを楽しめる選択肢が増えたことからも、コロナ禍でライブの楽しみ方の幅が広がったと実感しています。
初めて歓声を聞くグループも
また、これに伴い初めて観客の歓声を聞くグループもいます。その一つが、『ラブライブ!シリーズ』の4作目で、オールメディアで展開するプロジェクト『ラブライブ!スーパースター!!』に登場するスクールアイドルグループ「Liella!」(リエラ)です。
「Liella!」は2021年4月にデビューし、コロナ禍以降に活動開始したスクールアイドルグループです。そのため単独でも既に40公演以上のライブを重ねていますが、一度も観客の歓声を聞いたことがありません。演奏中のペンライトの色替えやその振り方、クラップの入れ方などで独自の文化が生まれていますが、ここにどのように「コール文化」が入っていくのか注目されます。
「Liella!」初の声出しライブは、3月4日(土)と5日(日)に埼玉県所沢市のベルーナドームでの「ラブライブ!スーパースター!! Liella! 3rd LoveLive! Tour ~WE WILL!!~」で開かれる予定です。
コロナ禍で醸成された「クラップ文化」に対し、今後どのように「コール文化」が復活し、融合していくのか。これからの音楽ライブ文化がどのように変わっていくのかが期待されます。
(ライブ公演中の写真はブシロードミュージック提供)
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