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「禁煙」を成功させる「極意」とは

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 簡単にタバコをやめられる喫煙者がいる反面、何度も挑戦しても失敗する喫煙者もいる。禁煙を成功させるためにはどうすればいいのだろうか。この記事では、主に心理的なタバコ依存に関する考え方を紹介する。

増える禁煙志望者

 2020年4月1日から受動喫煙防止を含む改正健康増進法が全面施行される。飲食店を含む多数の人が集まる場所は基本的に禁煙だ。タバコを吸える場所がどんどん少なくなっているが、この状況で禁煙を意識しない喫煙者はあまりいないのではないだろうか。

 タバコを吸う行為は、お金もかかるし、周囲の目も気になる。タバコを吸えないというストレスも半端ないが、何より健康に害があり、家族からも禁煙しろとうるさくいわれる。

 タバコをやめようと決意する喫煙者は多い。2018年の国民健康・栄養調査によると現在習慣的な喫煙者の中でタバコをやめたいと思う人の割合は全体で32.4%(男性30.6%、女性38.0%)だ。この割合は特に男性で増えてきている。

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タバコの値段が上がると禁煙指向が高まる傾向があるが、ここ数年は横ばいから上昇している。特に男性でタバコをやめたいと思う割合が増えてきていることがわかる。Via:2018年の国民健康・栄養調査より

 だが、禁煙は簡単ではない。タバコを止められない人は、ニコチン依存症という身体的な依存状態になっているのと同時に、喫煙習慣に対する心理的な依存に陥っているからだ。

 タバコをやめてしばらくしてからや禁煙治療をした後にタバコを再開してしまう喫煙者も多い。ニコチンが体内になくなって身体的な依存がないのに心理的な依存が残っていてついついタバコに手を伸ばしてしまうのだ。

厄介な心理的な依存

 個人差があるが、ニコチン依存はタバコを吸い始めて1箱でなってしまう反面、ニコチンという薬物に対する渇望自体は3日ほどでほとんどなくなる。だが、この心理的な依存がやっかいだ。

 ニコチンという薬物依存には、禁煙外来などの医療機関で処方されるニコチン代替薬、ニコチンガムやニコチンパッチによる禁煙補助薬といったニコチン代替療法が有効となる(※1)。

 一方、長期的な禁煙を実現するためには、継続的な心理サポートやカウンセリングも必要だ。禁煙治療でも医師によるアドバイスが効果的だとされ、ニコチン代替療法と心理的なアドバイスの併用が禁煙の継続率を高めることが知られている(※2)。

 ニコチン依存という身体的な依存状態に対しては禁煙外来の受診が最も効果的だが、この記事では主に心理的な依存状態からいかに離れて禁煙できるようになるのかについて考えてみたい。

 喫煙者の多くは、自分が心理的に依存状態にあることをなかなか認めたがらない。タバコに限らず、依存症は「否認の病」であり、依存は本人にも納得のできない病的な状態だからだ。自分が依存症と認めないからどんどん深みにはまっていく。

 まず自分がタバコやニコチンに依存していると自覚することが必要だが、そうした状態から自ら離脱したいと思えるかどうかが重要となる。逆にいえば、自分の喫煙行動を客観的にみて否定できるかどうかだ。

 喫煙はニコチン中毒というストレスを生む。タバコを吸うとストレスが解消されるのではなく、単にニコチン切れがなくなるだけで、それをストレス解消と勘違いしているだけだ。

 ほかのストレスは全く解消されていないから、喫煙者はモヤモヤした状態になる。だが、否認の病といわれるだけに、自らそれに目を向けず、気付かないふりを続ける。

禁煙を決断する

 喫煙者は、タバコはいいもので喫煙にメリットがあると考えている。一方で、禁煙してタバコを取り上げられてしまうことを内心で恐れている。

 思い当たることはないだろうか。このタバコに対する期待と禁煙への恐怖をぬぐい去ることが重要で、そのためには喫煙者自身の気づきがなければならない。

 喫煙者は密かに自分で調べ、タバコが健康にどんな悪影響を与えるかをよく知っているものだ。その知識は正確とは言えないことも多いが、そうした知識によって本心から禁煙の効果を確信したとき、喫煙者はタバコをやめる行動に移す。

 これをヘルス・ビリーフ・モデル(Health Beliief Model)というが、生活習慣病や依存症の治療は、何よりも患者が自らの考えで自身の行動を「変容」させることが大事なのだ。

 こうして禁煙を本心から決意した後、再びタバコを吸ってしまうのではないかという不安感を乗り越え、禁煙の継続に自信を持つようになっても喫煙者の気持ちは揺れ動く。そこで重要になるのは、医療関係者と特に家族からの精神的なサポートで、依存症からの回復にはこうした周囲の支えがあることが大切だ(※3)。

環境を変えていく

 日本の場合、コンビニに行けばレジの背後にタバコが並び、街のあちこちに喫煙所があるような状況では難しいかもしれないが、ライターや灰皿などのタバコにまつわる道具を周囲から取り除き、環境的にも喫煙をイメージするものを排除し、再喫煙のトリガーになることを防ぐことも必要となる(※4)。

 若年層が喫煙を始めることを防ぐためにも、そして禁煙に努力している喫煙者のためにも、街中からタバコに関する広告などを排除し、テレビなどでの喫煙シーンをなくしていくべきだ。

 タバコをやめるのは難しい。だが、タバコの害を自覚し、ニコチン依存には禁煙外来へ行くなどしてニコチン代替療法を受診し、心理的な依存には家族などからのサポートを得て生活習慣や環境を変えていくことができれば必ず成功する。

 受動喫煙防止対策が本格化し、喫煙者には厳しい時代になってきた。ニコチンという薬物の依存はすぐに消える。心理的な依存も克服可能だ。この際、加熱式タバコを含めたタバコをやめてみたらどうだろうか。

※1:C Silagy, et al., "Nicotine replacement therapy for smoking cessation (Cochrane Review)." The Cochrane Library, Issue4, 2003

※2:T Lancaster, et al., "Physician advice for smoking cessation." The Cochrane Database of Systematic Reviews, 2004

※3:Shu-Hong Zhu, et al., "Smoking cessation with and without assistance." American Journal of Preventive Medicine, Vol.18, Issue4, 305-311, 2000

※4:Matthew M. Engelhard, et al., "Identifying Smoking Environments From Images of Daily Life With Deep Learning." JAMA Network Open, Vol.2(8), 2019

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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