天才投資家ジム・ロジャーズが日本株を再び買った理由
ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。前回に引き続き、『ジム・ロジャーズ 大予測:激動する世界の見方(東洋経済新報社)』に加え、出版後に追加で聞いたエピソードもお伝えします。
相場と経済は完全に別の生き物
多くの方がなぜ実体経済がこんなに酷いのに、株式市場は最悪の状態から回復をしているのか不思議に思うようです。しかし、ロジャーズ氏は「相場と経済は完全に別の生き物」だと言います。
「相場は過去最高を到達できるだろう。すでにしているところもある。私は日本のETFを最近買った。理由は日銀がお金を擦り続けているからだ。日銀は私よりもずっとお金を持っている。借金を作ることは日本国民にとって非常に悪いことだが、投資家やブローカーにとっては都合のよいことだ。」
ロジャーズ氏は全米でのデモはもうすでに下がっている会社の収益性を更に下げると指摘します。「もう人生で一番ひどい不況は到来しており、世界のどこにいても、窓の外を見れば分かる」と言います。
筆者とロジャーズ氏が住んでいるシンガポールでは、経済開放を非常に慎重に行っており、3段階に分けて開放をしている段階です。ようやく散髪に行けたのですが、多くの店は閉まっているためにモールに人気はありません。多くの人が職を心配しているにも関わらず、株価の回復は非常に早いです。多くの国で同じことが起きており、相場と実体経済は別の動きをすると考えた方がよいでしょう。
投資で成功する方法 懸命に働いて資産をつくること
ロジャーズ氏のようにチャンスが到来したら逃さずに引っ捕えるためには投資家はどのような行動をすればよいのでしょうか。
「まずは貯金をして、資産を築くことだ。誰もが最初から資産を持っているわけではない。特に若い人はそう多くの資産を持っていないだろう。だからこそ、まずは、仕事で成功して資産をつくることだ。」
コロナショックの最中(およそ3ヶ月の間)に米国の富裕層の資産が約62兆円増えていたということがシンクタンクの調査で分かり、CNNによって報道されています。報告書によると、感染拡大初期から富裕層の資産は約20%増加し、アマゾンのジェフ・べゾフ氏の資産だけでも4兆円程度上昇しているということです。
シンガポールのOCBC銀行の調査でも、3人に2人の人が6か月以上の貯蓄を持っていないと言う結果が出たものの、5%は貯金が20%以上増加したとも述べています。
つまり、まずは元手をしっかりと確保をすることが大切なことが分かります。元手があれば、レバレッジをかけて投資をする必要性もありません。レバレッジをかけると、相場が逆方向に向かった場合に追証が発生したり、強制決済されることもあります。そのようなメカニズムで3月中旬の相場では全ての資産が売られました。金など上昇している資産であっても、換金をして追証を払うなどの必要性に迫られた投資家もいたからでしょう。
お金を持っていればそうした底で買いにいけます。金銭的な理由で手放さなければならない投資家の資産を大バーゲンで買うことができるからです。また、上がり始めると相場の戻りは非常に早いためにある程度元手がないと素早く一気に購入することができません。
毎月「1万円ずつ」など一定金額の株式を買っていき、株価が高いときは少ししか買えず、安い時はたくさん買える「ドル・コスト平均法」という投資の手法があります。一般に一気にたくさん買った場合に比べるとリスクを軽減することができると言います。投資初心者には有効な方法なのですが、中上級者は安い時に一気に買いたいという人も多いです。ロジャーズ氏も「安く買って、高く売る」と繰り返し言いますが、「ドル・コスト平均法」という言葉は出てきたことがありません。
「もし、あなたが人生の中で20回しか投資ができないと言われたら、投資について慎重になり、あちこち軽率に投資することはなくなるだろう。自分で絶対に正しいと思うまで徹底的に調べ上げ、そこから慎重に投資するに違いない。成功する投資とは、まさしくそういうものなのだ。」
機会が来たら集中投資をするというのがロジャーズ氏流ですが、もちろんその時に元手がないと大きな勝負ができません。
経済危機が起きる時は、雇用も不安定になるので手元に3〜6ヶ月分程度置いておくキャッシュも必要です。自営業者や経営者ほど手元の流動資金は必要になります。そんな中で安く買うためには好景気の時でも日々努力をして貯金に励む必要があるのです。
不況になって危機感から節約や貯金ができたという人も多いでしょうが、好況の時から収入の1/4など一定額を貯金に回すのは忍耐と仕組みが必要です。
人生と投資で成功したければ世界を知り、歴史と哲学を学ぶこと
ロジャーズ氏はオックスフォード大学で哲学を学んでいますが、一緒にクォンタム・ファンドを設立したジョージ・ソロスも哲学の博士号を取得しています。哲学は投資家にとって大きな武器になるとロジャーズ氏は言っています。
観察した事実から結論を導く帰納法と、論理を元に結論を導く演繹法は大切な考え方だと言います。哲学を学ぶことで、多数派に流されることもなく、正しく思考をする癖が身につくと言うのです。
バフェット氏が航空会社株を売却した中、ロジャーズ氏は推奨しており、驚いた人も多かったです。しかし、ANAやシンガポールエアラインなどの株価も大きく反転しています。確かに、タイ航空や豪ヴァージンが破綻した時に、生き残った航空会社の株価は1度目の底をつけていました。
「過去の出来事を知っていれば、将来に備えることができる。多くの場合、未来は現在の延長線上にあるが、突如として断絶するときがある。そういったときに、歴史を知っていることが強みになる。歴史を知ることは人間を知ること、そして危機を知ることなのだ。」
ロジャーズ氏に取材に行くと、繰り返し、「歴史は韻を踏む」と言いますが、成功する投資家になるためには、自分の人生よりもずっと長い、人類の歴史から学ぶ必要が大きいです。
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