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老後資産をインフレや暴落から守る4つのファクター/人生後半を備えるために知っておきたい投資の大原則

花輪陽子シンガポール在住FP(CFPⓇ・1級FP 技能士)

シンガポール在住FPの花輪陽子です。

「大暴落で老後資金の大部分がなくなりました」-リーマンショックの際や8月上旬の大暴落などの際に資産を大きく減らしてしまう方が少なからずいます。

私はリーマンショック後にFPとして独立をしたのですが、「退職金でまとめて買った投資信託が半分になってしまった」といった相談を当時は何度も受けたことがありました。

かといって減らない預貯金や現金にしておけば、インフレでお金は目減りしていく一方です。老後資産を大暴落やインフレからどのように守ればよいのでしょうか。

世界標準の資産の増やし方: 豊かに生きるための投資の大原則(東洋経済新報社)』から考察していきます。

インフレが進めば老後資金2000 万円を現預金で置いておくだけでは不十分な可能性があります。インフレ経済で一番ダメージを被るのは、インフレに伴って増加する可能性の高い賃金を得ていない年金生活者だからです。

給与所得者の場合、物価上昇は、タイムラグはあっても、賃金にある程度 反映されると考えられます。年金は物価や賃金の変動率のほかに、マクロ経済スライドによる調整が行われています。しかし、現金で持っている2000万円インフレ調整は行われませんから、現金の価値が目減りする分、老後資金が不足するわけです。

インフレの影響をもう一度振り返っておきましょう。毎年 3%ずつ物価が 上昇した場合、現在 100 円の物は、5 年間で約 116 円まで上がります。5 年 後の現金 100 円の実質的な価値は、現在の約 84 円(100 ÷ 116 × 100)まで 目減りすることになります。 物価がこのまま 20 年間、毎年 3%ずつ上昇した場合はどうなるでしょうか。

100 円の物の値段は約 180 円となり、現金の 100 円の実質的価値は、約 55円まで目減りします。40 年後は、物の値段は約 326 円まで上昇し、現金の 価値は約 30 円まで目減りする計算です。つまり、頑張って老後資金 2000 万 円を貯めたとしても、20 年後の実質的な価値は約 1100 万円、40 年後の価値 は約 600 万円ということになります(図表 4 - 11)。

『世界標準の資産の増やし方』(東洋経済新報社)
『世界標準の資産の増やし方』(東洋経済新報社)

老後資金を減らさずに、いかにしてインフレから資産を守ることができるか

それでは、どうすればインフレ時代に老後のために蓄えてきたお金の価値を、大きく減らすことなく守ることができるのでしょうか。

現在の資産を守るためには資産運用をして、インフレ率以上のリターンを目指す必要があります。例えば、現役時代は 7%というインフレに負けないリターンを目指すなどです。インフレ率が 3%なら、7%リターンで、実質リターンは 4%です。

7%リターンを実現させるには、預金や債券だけでは不十分でどうしても株式などをポートフォリオに入れて運用をする必要があります。また、運用益が非課税になればリターンが削られません。NISA や iDeCo などの非課税制 度を積極的に活用したいところです。

『世界標準の資産の増やし方』(東洋経済新報社)

約20%税金を取られると、7%のリターンが単純計算で 5.6% に削られます。3%のインフレを考慮すると、実質リターンは 4%から 2.6%に低下するからです。

また、税引き後で 7%を達成しようとすると、8.75%というさらに高いリターンを目指す必要が出てくるため、さらにハイリスクの 運用が必要になってしまいます。限度額があるとはいうものの、現在の NISA や iDeCo は年金だけでは不足する部分を平均的に見て、自助努力でいくら積み上げる必要があるかという観点からよく考えられている制度です。 利用できる範囲で積極的に活用したいものです。

『世界標準の資産の増やし方』(東洋経済新報社)

既にリタイアしている世帯は守りの運用を心がける

『世界標準の資産の増やし方』(東洋経済新報社)
『世界標準の資産の増やし方』(東洋経済新報社)

リタイア後も運用をしながら取り崩していけば、お金の寿命を延ばすことができます。インフレ率が 3%であれば、3%以上のリターンを出せばお金の目減りを阻止することができます。

例えば、20歳から毎月10万円を7%複利で運用できたとすると、60歳時点で元本は約2億6248万円になります。しかし、3%のインフレが続いていたとすると、物価は今より約226%上昇していますので、現在の価値で言うと約7874 万円 になります。この7874万円を元本にして3%で運用すると、運用からの収益が約 236 万円出ます。ここから年 360 万円を取り崩すと、元本は約 7750 万円に減ります。このペースで取り崩しを続けると 96 歳になると蓄えが底を突くことになります。

『世界標準の資産の増やし方』(東洋経済新報社)
『世界標準の資産の増やし方』(東洋経済新報社)

しかし、取り崩しを定率の 4%に維持することによって、お金が減るスピードを抑制できます。例えば、60 歳で金融資産 7874 万円、運用利回り 3%で、毎年 4%ずつ取り崩す場合、40 年後の 100 歳になってもお金は底を尽きません(図表 4- 14)。7874 万円の 4%は約 315 万円なので、1 年目は先ほどの定額と比べると 45 万円の差です。

この分を節約するか、公的年金や労働など他の収入で補うことができると老後計画も立てやすくなるでしょう。 実際には老後の生活費もインフレの影響を受けると仮定すると、上昇します が、年齢を重ねることによって支出が減るのが普通です。計算が複雑になる ので、ここでは支出額は定額、もしくは定率という前提で説明しています。

全体のまとめとして、リタイアをする上でキーとなる係数は次の 4 つです。 元本の額(1.元手)、取り崩す割合(2.生活費、3.収入)、運用リターン (4.運用)です。定年までにできるだけ多くの元本を確保し、取り崩す割合 を定率にする、運用リターンを無理のない範囲で維持することが重要です。 その際に非課税の恩恵を受けられると手取りが増えるので NISA を活用するべきと、繰り返し述べてきました。できれば 100 歳まで資産残高が底を突くことなく、それまでに蓄えた資金を無理なく取り崩していけるプランを立てたいところです。

『世界標準の資産の増やし方』(東洋経済新報社)

「株などのリスク資産に投資をしたら値下がりリスクもある?」

「株などのリスク資産に投資をしたら値下がりリスクもある?」のではないでしょうか。著者の河北博光さんに追加で聞きました。

株式などに投資すると短期的な値下がりは避けられません。しかし、現在の株価が適正であれば、長期では企業の利益成長に合わせて、株価も上昇していく事が期待されます。短期間の値下がりで生活に影響が出ない様に、余裕資金を置いておいたうえで、インフレヘッジ機能のある株式などに投資する事が必要と考えられます。

ファミリーオフィスの資産運用でもポートフォリオには一定の割合で株式を組み入れることが一般的です。投資の世界では「100から自分の年齢を引いた数字を株式の割合(パーセント)にする」のが目安とよく言われています。70歳であれば株式の割合を3割までにするなどに抑えれば、ある程度リスクを限定させることができます。

シンガポール在住FP(CFPⓇ・1級FP 技能士)

外資系投資銀行を経て、スイスのファミリーオフィスでウェルスマネジメントに従事。日本人の海外移住や資産運用、海外富裕層の日本移住のサポートも。著書に『世界標準の資産の増やし方』(東洋経済新報社)、世界三大投資家のジム・ロジャーズ氏の翻訳書を多数出版、『ホンマでっか⁈TV』等TV出演多数 お仕事の依頼は fp@yokohanawa.com へお願いします。花輪陽子のシンガポール富裕層の教え https://www.mag2.com/m/0001687882.html 花輪陽子のnote https://note.com/yokohanawa 

アジア富裕層から学ぶお金が貯まる習慣

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著者が住むシンガポールには世界中から超富裕層が集まります。特に中華系やインド系はお金の使い方全てが投資目線で、余分な支出を体脂肪率に例えるとゼロに近い! 彼らから学んだ、普通の人から富裕層にジャンプアップする考え方や技とは? 日本には将来が不安でお金を使えない人が多いのですが、お金は有効活用して初めて増えるもの。収入、支出、資産運用(不動産、金融)など、楽しみながら自然とお金が貯まるように指南します。

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