ジム・ロジャーズ大予測 ベア相場が株式市場を支配する
ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。前回に引き続き、『ジム・ロジャーズ 大予測:激動する世界の見方』(東洋経済新報社) から世界経済と日本経済の行方をお伝えしたいと思います。
「恐怖」に支配された 相場、経済に打つ手なし
新型コロナウィルスの影響で、アメリカの失業件数は非常事態を宣言した3月中旬から、4週間で申請数は2200万件を突破しています。実に8人に1人もの人が職を失ったことになります。アメリカでは3兆ドル(330兆円)にも及ぶ経済対策がなされていますが、約13万円の現金給付も焼け石に水です。水道も止められている世帯も多いという報道も出ています。
「リーマンショック時は、まず金融危機が起こり、その後、金融から製造(2次産業、生産)、そしてサービス(3次産業、消費)という流れで経済が悪化した。最初に金融危機が発生したことでお金がまわらなくなり製造業が危機に陥った。生産が落ち込んだことで消費が悪化、サービス業も打撃を受けた。今回の経済危機は、それとは逆の流れで危機が広がっていくだろう。まず消費やサービスが落ち込み、企業業績が悪化、それが金融不安につながっていく。」
ロジャーズ氏は金融危機から株式が再暴落した場合、しばらく元には戻らないだろうと言います。
「一番の問題は、次のブル相場がいつ来るかは予想できないことだ。それは今年かもしれない、あるいは君のまだ生まれていない子供が大人になった40年先になるかもしれない。」
アメリカが3兆ドル(約330兆円)、ドイツが1兆1000億ユーロ(約130兆円)、そして日本も108兆円もの大型規模の政府支出を決め、中央銀行も無制限に金融緩和を続けています。ロジャーズ氏は中央銀行の政策に警告を鳴らします。
「仮に、ラリーが起こったとしても、それはきわめて人工的に作られたもので、最終的には事態を悪化させるだけのひどい政策だ。根本的な解決を後回しにして、債務は増える一方。実態のない投資マネーだけがどんどん膨張し、最悪な結末になることは目に見えている。政治家はメディアに悪く言われたくない、来週の演説や次の選挙にしか興味がない。これが最大の問題なのだ。」
ロックダウンが長引けば 財政政策をしても焼け石に水
ロジャーズ氏はロックダウンが長期化すれば経営危機に陥る企業は間違えなく増え、日本企業も例外ではないと言います。政府が企業向けや個人向けに行っている財政政策は綱渡りでしかなく、限度があるからです。
「こういった状況で一番弱い企業は債務の多い企業だ。逆にキャッシュに余裕のある会社は、生き延びることができる。テクノロジー産業など、比較的新しい産業は債務が少ない。」
ロジャーズ氏は続けます。
「日本では、当初、中国との関係が深い企業が受けるダメージが大きいと思われていた。ユニクロや無印良品など、小売りや飲食店などで中国に進出している企業は、現地店舗が休業を余儀なくされた。また、観光やインバウンドで好調だった企業も大きな痛手を受けている。訪日客の減少は、ホテルチェーンや百貨店、ドラッグストア、化粧品業界などにも影響している。しかし、いまや混乱は中国にとどまらず全世界に拡大している。痛手を被る企業の範囲は広がっている。」
シンガポールでは自粛が6月1日まで延長されましたが、このままの状況では日本の多くの自治体で緊急事態宣言も延長される可能性は非常に高いでしょう。
「自粛がいつまで続くのか、先が見えない状況では、やはり債務の少ない企業ほど生き残る可能性は大きいが、それにも限度がある。
さらに、ここへ来て、一連の危機はサービス業から製造業にも広がっている。その象徴が自動車産業だ。中国から始まった危機は、アメリカやヨーロッパ全域、東南アジア、アフリカなど全世界に拡大。各地で経済活動を停止させ、日本を代表する産業である自動車産業も深刻な影響を及ぼし始めている。」
世界最大の市場である中国でも自動車が売れるような状況ではないと言います。また、日本の自動車産業にとって最重要な米国市場が立ち直らないとメーカーに与える影響は深刻なものになります。
「自動車は裾野が広く、就業者数の面からも日本経済を支える産業だ。自動車メーカーの業績が落ち込めば、その下請けや周辺産業を含めた国内の雇用に大きな悪影響が及んでしまう。」
このように、経済がバブルから突然急停止し、真っ逆さまに急降下しました。危機の収束が1年2年と続けば、実体経済への影響は多大なものとなり、金融危機を引き起こすリスクも高くなります。ベア相場が長く続き、株価は当面停滞するというシナリオも考えられるのです。