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地方創生のために東京23区の大学を制限する前に、地方国立大の中心部移転が先ではないか(東日本編)

藤代裕之ジャーナリスト
町の中心部だけでなく駅からも遠いキャンパスに未来はあるのでしょうか…

東京圏への一極集中を是正するため東京23区内の大学の定員増を原則として認めないという方針を政府が打ち出しています。この方針は、6月9日に決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2017」や5月1日に公開された「地方創生に資する大学改革に向けた中間報告(案)」でも触れられています。これに対して、日本私立大学連盟は「学問の自由や教育を受ける権利に対する重大な制約になりうる」「国力そのものを弱めることになりかねない」との声明を公表。東京の大学に対する規制をいくら強化しても、問題の本質的な解決にはならない、という批判も起きています。

東京には中心部に多数の大学がある

筆者は広島大在学中に、キャンパスの郊外移転を経験したこともあり、地方都市における大学キャンパスの立地に関心を持ってきました。東京に来て驚くのは中心部にある大学の多さです。山手線エリアだけでも、東京大やお茶の水女子大といった国立大学、早稲田大、慶応大、上智大、立教大、明治大、法政大、学習院大、青山学院大、東京理科大…などなど、多数の私大が存在しています。これは東京の競争力に大きな影響を与えているのではないでしょうか。

大学は住宅、消費、アルバイトなど経済活動にも影響があります。何よりいいのは、若者が定期的に入れ替わることです。人口が少ない地方都市にとってはその影響は東京よりはるかに大きい、にも関わらず郊外にあるとしたら…活力が失われるのは当然でしょう。23区の大学を制限する前に地方国立大の中心部移転が先ではないかと考え、主な大学キャンパスと駅の距離がどのくらいあるのか調べてみました。

まず、「まち・ひと・しごと創生基本方針2017」の該当部分について確認しておきます(一部抜粋)。地方創生に資する大学改革の概要は以下の通りです。そもそも、大学の特色づくりが十分ではない話が是正されていないのに、なぜ23区はという話は割愛し、先に進みます。

地方創生の実現に当たり、大学の果たすべき役割は大きいが、大学の特色作りが十分でない、また、地域の産業構造への変化に対応できていないとの指摘もある。そのため、地域に真に必要な特色ある大学の取組が推進されるよう、産官学連携の下、地域の中核的な産業の振興とその専門人材育成等に向けた優れた地方大学の取組に対して重点的に支援する。

また、今後18 歳人口が大幅に減少する中、学生が過度に東京へ集中している状況を踏まえ、東京(23 区)の大学の学部・学科の新増設を抑制することとし、そのための制度や仕組みについて具体的な検討を行い、年内に成案を得る。東京圏の大学の地方へのサテライトキャンパスの設置や、学生の地方圏と東京圏の対流・還流を推進することにより、若者の流動性を高め、地方と触れ合う機会を拡充する。

出典:まち・ひと・しごと創生基本方針2017

大学キャンパスと駅からの距離(東日本編)

駅は地域で中心となる駅を選択。なお駅の周囲が繁華街とは限りませんが、他地域からのアクセス等も重要と考えて駅としています。距離はGoogleMapsの測定機能を利用し、駅と大学名の直線距離としました。

大学キャンパスと駅からの距離(東日本編)
大学キャンパスと駅からの距離(東日本編)

駅徒歩圏内が多い(北海道・東北エリア)

北海道大は、札幌駅の北側に広大なキャンパスを有しています。観光スポットとして有名なクラーク像まで、駅から直線距離で600mしかありません。同じく旧帝国大学の東北大も仙台市に広大なキャンパスを有していますが、最も近い片平キャンパス以外は地下鉄での移動が必要な距離になっています。片平キャンパスの一部を東北学院大に売却しています。

弘前、岩手、秋田、山形は県の中心となる駅から概ね2キロ以内(弘前は青森ではないが…)です。2キロは徒歩約25分でギリギリ徒歩圏内といえるでしょう。地方都市の学生の主要交通手段の自転車では十分カバーできる距離です。

ただし、山形大は、小白川キャンパス(本部・人文系や理学部)、飯田キャンパス(医学)だけでなく、米沢キャンパス(工学)、鶴岡キャンパス(農学)と県内に分散しています。福島大はJR東北本線「金谷川駅」下車、徒歩10分で、市中心部からかなり離れています。地方都市で7キロは相当痛いです…

多くがバス利用の必要あり(関東エリア)

筑波大を東京駅から60キロとしたのは、郊外移転の大学の代表例です。前身の東京教育大学は、東京都文京区にキャンパスがあり(現在の大塚キャンパス)ここだと東京駅から5キロでしたが、筑波研究学園都市構想に合わせて茨城県へ。筑波エクスプレスができて、秋葉原から約1時間とアクセスが向上しました。

茨城大は水戸駅から約25分。群馬大は前橋駅から約28分。宇都宮大は、峰キャンパスは約15分、陽東キャンパスは約20分。埼玉大学は、北浦和駅から約15分、南与野駅から約10分。これはいずれもバス利用です。

鉄道利用できるのは、千葉大と横浜国立大。千葉大は、西千葉駅から南門まで徒歩約2分。横浜市営地下鉄を利用して三ッ沢上町駅まで4分、そこから徒歩約16分となっています。

中心から大学を失った新潟と金沢(中部エリア)

新潟大と金沢大は中心部からかなり離れています。

新潟大の五十嵐キャンパスは、新潟駅からJR越後線で20分、新潟大学前駅から約徒歩15分。点在していたキャンパスを集約し、1982年に完了しました。金沢大は旧キャンパスは金沢城址という町のど真ん中にあり「城内キャンパス」とも呼ばれていましたが、1989年から郊外の角間キャンパスに移転を進め、JR金沢駅からバスで約40分もかかります。

移転が早かったのは名古屋大。名古屋城の敷地の中に名城キャンパスにあった本部が、郊外の東山キャンパスに移転したのが1964年。キャンパス内に名古屋市営地下鉄名城線の名古屋大学駅があります。

富山、福井、信州は駅から2キロ弱。富山大の五福キャンパスには富山地方鉄道の路面電車が出来、富山駅から約15分。福井大もえちぜん鉄道で福井駅から約10分です。鉄道があると便利です。長野県の信州大は県内にキャンパスが分散、長野市に長野(教育)キャンパスと長野(工学)キャンパス、上田市に上田キャンパス、松本市に松本キャンパス、南箕輪村に伊那キャンパスがあります。

バスで20-30分の距離にあるのが静岡と岐阜。静岡大は、人文系の静岡キャンパスと情報と工学系の浜松キャンパスがあり、どちらもバスで約20-25分。岐阜大も直行バスで約25分。岐阜大学が統合移転したのは1984年です。徒歩が可能なのは山梨大でJR甲府駅から徒歩約15分です。

もっと地方国立大をまち中へ

まちの中心部から遠い新潟大は学生数が1万人を超え、トップ10レベル。金沢大だと8000人弱です。地方都市でこれだけの学生が郊外に動くと影響は大きいのは明らかです。金沢大学資料館による「[file:///Users/fujisiro/Downloads/%E5%BD%B0%E5%BE%80%E5%AF%9F%E6%9D%A5%E5%9B%B3%E9%8C%B2.pdf 彰往察来 : 20年目の角間キャンパスから城内を想う]」には、「学生が消えた?」というコラムがあり、「金沢市内から学生が姿を消して久しい」「金沢が「学都」として若者をひきつけるためには、若者・学生が住める町でなければならない」と書かれています。23区の大学を制限する前にやることがあるような気がするのですが…

ちなみに筆者が勤務する法政大学社会学部メディア社会学科は東京駅から42キロ。JR中央線を利用すると新宿駅から快速で54分(特別快速で42分)、西八王子駅下車してバスで約22分。どう見ても自分の大学が一番やばかったですね…地方国立大を心配している場合ではありません。「東京圏の大学の地方へのサテライトキャンパスの設置」を利用して地方に打って出るか… 個人的には横浜キャンパス移転をイチオシしております。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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