地方創生のために東京23区の大学を制限する前に、地方国立大の中心部移転が先ではないか(西日本編)
東京圏への一極集中を是正するため東京23区内の大学の定員増を原則認めないという方針を政府が打ち出しています。しかしながら、地方大学の立地については議論が乏しい状況にあります。23区の大学を制限する前に、地方国立大の中心部移転が先ではないかという疑問から、主な大学キャンパスと駅の距離がどのくらいあるのか調べてみる試み。西日本編を公開します。筆者の問題意識や政府の考えなどは(東日本編)の記事をご覧ください。
大学キャンパスと駅からの距離(西日本編)
まずは一覧表から、広島大の遠さが際立ちます。九州エリアにも中心駅から遠い大学があります。駅の周囲が繁華街とは限りませんが、参考としてご覧下さい。距離はGoogleMapsの測定機能を利用し、駅と大学名の直線距離としました。
立地が大きく異る京大と阪大(近畿エリア)
近畿エリアの旧帝国大学、京都大と大阪大は、立地では状況が異なります。
京大は鴨川の東側に広大なキャンパスを有しています。研究所が集約された宇治キャンパスは京阪宇治線黄檗駅から徒歩約6分、物理系の桂キャンパスは阪急京都線桂駅からバス約12分です。京大の学生は2.2万人(大学院生9千、学部生1.3万)で、桂キャンパスは工学系の一部研究科にとどまり、大半の学生が吉田キャンパスに集まっています。
一方、阪大は大阪・梅田の北側千里丘陵に3キャンパスが分散しています。文系が集まる豊中キャンパスは伊丹空港近く、医歯薬・工学系の吹田キャンパスは万博公園に隣接しています。阪大の学生は2.3万人(大学院生8千、学部生1.5万)で、豊中、吹田に分かれ、大阪外国語大学の統合時に加わった箕面キャンパスにも3千人が学びます。なお、箕面キャンパスは、北大阪急行を延伸した「(仮称)箕面船場駅」に移転する予定です。新キャンパスは豊中と吹田の中間にあり、連携を進める構想です。が、新キャンパスが出来ても大阪・梅田からは10キロ以上離れています。
山にある神戸大と和歌山大。六甲山の裾野にある神戸大は、表には三宮からの直線距離を掲載していますが、阪急神戸線六甲駅が最寄りでアクセスは良好で、駅から先はどの施設に行くかで異なります。一方、和歌山大は1986年に郊外にある栄谷地区に移転統合しました。2012年に開業した南海本線和歌山大学前駅から徒歩で約20分と、かなり不便です。
駅から2キロ圏内なのは三重大と滋賀大。三重大は、津駅からバスで約10分、近鉄名古屋線江戸橋駅から徒歩約15分。滋賀大は経済・本部を置く彦根と教育の大津の2学部体制。彦根キャンパスは直線で1.6キロですが、彦根城を迂回するため徒歩では約30分です。
広島大の遠さは異常(中国・四国エリア)
我が母校の広島大ですが、大半の学部がある東広島キャンパスは、広島駅からJR山陽本線西条駅まで鉄道で37分。西条駅からバスで約20分。高速バスで約60分(高速バスなんてあったのか!)。山陽新幹線の東広島駅からバスで約15分とはいえ、こだまが1時間に1本程度。広島空港は地図上では近くに見えますが、公共交通機関を使うと鉄道とバスを乗り継いで45分です…
鳥取大は鳥取駅からはタクシーで約15分。JR山陰本線鳥取大学前駅から徒歩3分、列車は1時間に2本程度です。島根大は松江駅からバスで約15分。岡山大は、岡山駅からバスで約10分、JR津山線法界院駅から徒歩約10分です。山口大はJR山口線湯田温泉駅から徒歩25分、工学部は宇部市の常磐キャンパスにあります。
広島大、岡山大はいずれも学部生が1万を超え。広島大は1.5万人(大学院生4千、学部生1.1万)、岡山大は1.3万(大学院生3千、学部生1万)です。
徳島大、香川大は町中と言って良い立地。徳島大の常三島地区は徳島駅まで徒歩約30分、バス約20分。香川大は高松駅から車で約5分、徒歩は約20分です。香川大は工学系の林町キャンパス、三木町の農学部キャンパスと県内にキャンパスが分散しています。愛媛大学は中心となる城北キャンパスは松山駅から路面電車で20分、赤十字病院前駅から徒歩約2〜5分。高知大学は高知駅からバスで約25分、路面電車で約30分、JR土讃線朝倉駅から徒歩3分。地方都市ではかなりの遠さになります。
中心から遠ざかる大学(九州・沖縄エリア)
九州地区では、大分大、宮崎大が郊外に立地しています。大分大は、1969年に旦野原地区に統合移転を完了。大分駅からJR豊肥本線で15分、大分大学前駅から徒歩約5分です。宮崎大は、宮崎学園都市の主要施設として木花地区に移転・統合。1989年に移転完了記念式典が行われています。宮崎駅からバスで約50分、JR日南線木花駅からはタクシーです。
長崎大は1950・60年代にキャンパスの移転・統合が行われ、大半が文教キャンパスで学びます。長崎駅から長崎電気軌道の路面電車で約20分、経済学部は片淵キャンパスにあります。佐賀大は佐賀駅からバスで約15分ですが、佐賀城の西側にあります。熊本大は中心となる黒髪北・南地区まで熊本駅からバスで約26分。鹿児島大は、鹿児島中央から鹿児島市交通局の路面電車で約10分です。琉球大は那覇バスターミナルから約40分、以前は首里城にありました。
いままさに移転中なのが九州大。箱崎地区、六本松地区、原町地区から、糸島半島へ。移転の背景やスケジュールをまとめた伊都新キャンパスのサイトも用意されています。サイトによると工学部からスタートした移転は現在最終の第三ステージ。伊都キャンパスまでは、博多駅から地下鉄乗り入れJR筑肥線で九大学研都市まで約30分、そこからバスで13分です。なお、九大の学生数は1.8万人(大学院生7千、学部生1.1万)です。
大学が移転した跡に大学が…
ちなみに郊外に移転したキャンパスの跡地は何に利用されているのでしょうか。宮崎大教育学部の跡地には宮崎公立大が開学、農学部跡は美術館などがある公園になっています。宮崎公立大は宮崎駅まで1.7キロです。首里城にあった琉球大のグラウンドは、沖縄芸術大に譲渡されています。
旧大分大学学芸学部は土地区画整理事業として宅地に。広島大の本部跡地(東千田キャンパス)は被爆建築物の理学部1号館を除いて、マンションやシニア向け住宅などに。そして、九大六本松キャンパス跡は、科学館、有料老人ホーム、分譲マンション、蔦屋書店などへ。箱崎キャンパスは、「スマートコミュニティー」を目指す方針が示され、福岡経済同友会は政府機関や企業オフィスの集積を求めています。老人ホームはニーズがあるのでしょうが、これでは町中から若者は減る一方です。
この記事では、各地の中心となる駅とキャンパスの直線距離という指標を使いましたが、町ごとに状況は異なります。駅が中心部から外れていてたり、市街地が広く広がっているケースもあり一概に言えないのは多くの方のご指摘の通りです。ただ、大学の立地問題が23区制限にフォーカスされ、ひとまとめに東京と地方とくくられがちな中、個別の地方大学の立地に目を向けて頂き、議論するための出発点としては役割を果たしたのではないかと考えています。「うちの大学も大変」と個別大学名で反応頂いた方、ありがとうございました。
移転にはさまざまな理由があり(工業場等制限法、学習環境の改善、タコ足キャンパスの統合、学園紛争対策など)、各大学と地域によって事情が異なります。また、中心部に再移転すると言っても、国立大学の財政状況を考えると一筋縄ではいかないでしょう。しかし、2050年には人口が1億人を切り、2060年までに毎年100万人が減少、高齢人口が4割になると予想される、待ったなしの状況で、若者が一定数集積する大学への投資は非常に重要です。地方創生も大切ですが、人口減と国際的な競争力を考えれば、23区内にさらに大学を集積したほうがいいとの考えもありそうです。その時、地方大学はどうすればいいのか… 引き続き考えます。