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うっかりミスの代表「左右の靴バラバラ」今やおしゃれテク、じわり人気に

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
左右が別の歴代「CAMPER TWINS」(画像協力:カンペール)

「靴が左右でバラバラ」は、うっかりミスの代表例といわれてきましたが、近頃はおしゃれなスタイリングとして見直されるようになってきました。語源ははっきりしないのですが、“ネガティブ履き”とも呼ばれ、日本でも数年前から試す人が増えています。同じデザインの色違いを買って、左右をばらして履くのが一般的ですが、最初から左右が別デザインのタイプも登場しています。

むしろ、自分らしいアレンジの「ポジティブ履き」とも呼べそうな、この履き方をずっと前から提案しているのが、スペイン生まれのシューズブランド「CAMPER(カンペール)」です。今回は「左右バラバラ靴」の先駆けともいえるカンペールを通して“ネガティブ履き”の魅力をご紹介します。

左右の見え具合を変えることによって、足元にイレギュラーな雰囲気を呼び込めます。海外ではこういうずらしを靴下で取り入れることがあり、「odd socks」と呼ばれます。ほとんどの人の靴は左右がそろっているから、ちょっと色や柄をずらすだけで、見た目のインパクトは大。色使いが異なる場合は、さらに弾むようなカラフルでポジティブなシューズ姿を印象づけられます。

まるで「間違い探しのよう」? 大胆でありながら、統一感があるのがポイント

縦縞と横縞が左右で逆になったスタイリッシュなデザイン(ウィメンズ)。内側も色違いになっている。 2021年春夏コレクション (画像協力:カンペール)
縦縞と横縞が左右で逆になったスタイリッシュなデザイン(ウィメンズ)。内側も色違いになっている。 2021年春夏コレクション (画像協力:カンペール)

ただ、やりすぎは禁物。右は紳士風の革靴で、左はロングブーツといった、あまりに表情の異なる組み合わせは、とっちらかった印象を与えてしまい、本気の間違いと誤解されかねません。異なる靴の場合、ソール高や履き心地も違うので、歩きにくくなってしまいそう。同じタイプの靴で試すのが基本の取り入れ方になります。

余計なリスクを避けつつ、程々の意外感を示しやすいのは、やはり「同じモデルの色・柄違い」です。「カンペール」の「TWINS(ツインズ)」シリーズはこの基本線に沿って、ウィットフルなデザインを、1988年から30年以上も提案し続けてきました。名前の通り、双子のようでありながら、色・柄をずらしたデザインです。

足の甲を彩るストラップの配色が左右で異なるフェミニンなデザイン(ウィメンズ)。 2021年春夏コレクション (画像協力:カンペール)
足の甲を彩るストラップの配色が左右で異なるフェミニンなデザイン(ウィメンズ)。 2021年春夏コレクション (画像協力:カンペール)

「ツインズ」のデザインは、左右がそれぞれ異なる見え方でありながら、両足がそろうと、完璧なペアになるというコンセプトに基づいています。それはまるで「間違い探し」のよう。素材、配色などで遊び心を効かせた左右非対称のコンビネーションはユニークでアイキャッチーです。

靴が目立ちやすい春夏は“ネガティブ履き”を取り入れやすいシーズンです。たとえば、サンダルのストラップの配色が左右で異なっていれば、素足で履いたとき、肌の上に左右で異なる色が乗るので、足元に動きが加わります。薄着になり、さっぱりしがちな夏ルックでも、しっかりアクセントになり、足元のおしゃれを演出できます。

エスプリの利いたアーティストとのコラボは「アートをまとう」感覚で

鈴木マサル氏とのコラボ(メンズ)は柄の配置・カラーリングが別。アートライクなムードが漂う。 2021年春夏コレクション (画像協力:カンペール)
鈴木マサル氏とのコラボ(メンズ)は柄の配置・カラーリングが別。アートライクなムードが漂う。 2021年春夏コレクション (画像協力:カンペール)

2021年春夏コレクションではテキスタイルデザイナーの鈴木マサル氏とコラボレーションし、「ツインズ」シリーズにも鈴木氏のアイデアが生かされました。アーティストとのコラボならではの型破りなデザインが誕生しています。

白をベースにしたスニーカーに、左右で異なるモチーフが大胆にあしらわれ、朗らかでファニーな表情に仕上がりました。爪先に配した柄からして色が違うから、見た目ですぐにアシンメトリー(不ぞろい)だと気づいてもらえる仕掛け。アッパーやかかとのパターンも異なるので、どのアングルから眺めても、左右非対称の面白さを感じ取ってもらえそうです。

メンズはマルチカラーで彩られ、アクティブでユーモラスな見え具合。ウィメンズは色数を抑えて、スタリッシュにまとめながら、不ぞろいのトリッキー感はしっかり伝わってくるデザインです。キッズはゾウをはじめとする動物モチーフを盛り込んで、元気感の高い、プレイフルな足元に仕上げています。

歴代の「ツインズ」を振り返ると、左右にまたがるモチーフや、猫と犬のコンビ、履き口・タッセルの色違いなど、様々なアイデアが盛り込まれています。いずれも微笑を誘うようなエスプリが感じられ、コミュニケーションのきっかけになってもらえそうです。

足元からワクワク感!自分流の「ポジティブ履き」を

日本でも支持が広がってきた“ネガティブ履き”はスニーカー好きの間から広まったとみられています。目を引くスニーカーを、着こなしのキーアイテムと位置づけるストリートスタイルから派生。男女を問わず、スニーカー人気を追い風に浸透していきました。

2020年末の『NHK紅白歌合戦』でも、左右で異なる靴を履いた出場者が目につきました。たとえば、櫻坂46はドレスの左右を、番組にふさわしく紅白に分け、靴も左右で赤と白の不ぞろいに。ダンスの動きを際立たせていました。

左右非対称のアシンメトリー服が人気を得たのを受けて、靴に限らず、イヤリングやソックスなどの小物でも「左右バラバラ」を見かけるようになってきました。コロナ禍の影響で、ファッションにハッピー感や面白みを求めたくなる気分も追い風になっているようです。

「ツインズ」は1988年、カンペールが 「靴は右足と左足のデザインが同じでなくてはならない」 という常識にとらわれることなく、右足と左足をそれぞれ違うデザインにし、両足がそろうことでデザインとして完成させるというチャレンジから始まりました。ファッションは常にこうした「常識を疑う」という試みから表現が広がってきました。

自分らしい着こなしを求める気分がこれまで以上に強まっている中、“ネガティブ履き”はむしろ自分流の「ポジティブ履き」として生かせるアレンジかもしれません。

(画像協力)

カンペール

https://www.camper.com/ja_JP/

ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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