Yahoo!ニュース

古着の「染め直し」がブームに。ユニクロ、無印良品、H&Mも“サステナの新流儀”

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
UNIQLO古着プロジェクト(筆者撮影)

衣服のリユースやリサイクルといえば古着のイメージが強いですが、近ごろは「染め直し」という選択肢が加わりました。「ユニクロ(UNIQLO)」や「無印良品」「H&M」など、大手ファッション企業が相次いでプロジェクトを立ち上げ、勢いが加速。サステナビリティーに配慮したおしゃれとして選びやすくなってきました。

「COS x TABATA SHIBORI」(出典:fashion bible)
「COS x TABATA SHIBORI」(出典:fashion bible)

ロンドン発のファッションブランド「COS(コス)」は、京都の絞り染め職人・田端和樹氏による伝統工芸「絞り染め」から着想を得たカプセルコレクション「COS x TABATA SHIBORI」を6月に発表し、話題を集めました。日本の服飾文化を彩ってきた染め物の技術は、いま海外からも高い関心を寄せられています。

■ユニクロ RE.UNIQLO(リ・ユニクロ)

RE.UNIQLO(リ・ユニクロ)(筆者撮影)
RE.UNIQLO(リ・ユニクロ)(筆者撮影)

ユニクロは循環型社会を目指す「RE.UNIQLO(リ・ユニクロ)」を続けています。その多彩な試みのうちの一つが「UNIQLO古着プロジェクト」。回収した衣料に手を加えて販売する取り組みです。回収したユニクロの衣料に染めと洗い加工を施し、ヴィンテージのような風合いにリメイクした古着も販売しています。

染める加工にあたっては、石川県に本社を構える小松マテーレの高品質な加工技術を用いています。独自の染色技術と高圧染色機「染料役者」を使って、自然なヴィンテージ感を引き出しています。

小松マテーレが製品染めの本場イタリアの同業者とアライアンスを結び、約20年にも及ぶ技術連携によって磨きをかけてきた技術です。洗いざらしたような風合いが備わり、一般的なユーズド古着とはひと味違う質感に仕上がります。

また、もともとの衣料の色とは異なる色で染めることで、本来の色に新色が加わって、味わいの深い色味が生まれます。ピカピカの新品とは別物のこなれた風情が備わるのも、上乗せで染める技法の面白いところです。

染めてリメイクされた古着は半袖シャツ、長袖シャツ、スウェットシャツ、Tシャツ(半袖/長袖)の4アイテムです。色は「05GRAY/11PINK/59DARK GREEN/68BLUE」の4色が用意されました。いずれもヴィンテージ感を印象付ける少しさめたトーンで、装いに穏やかな雰囲気を添えてくれそうです。

このプロジェクトから生まれた染め直しアイテムは、ユニクロ世田谷千歳台店とユニクロ天神店の2店舗にて、8月31日までの期間限定で販売されています。また、染色加工を施しリメイクした古着のほかに、洗浄済みのリユース古着も販売されています。古着販売による売り上げの一部は寄付される予定です。

1点物を探すような感覚で、今までのユニクロの商品とは違った買い方が楽しめるのも新しい体験です。「これは何年代のユニクロのアイテムだ」と気づくような、知る人ぞ知る長年のユニクロファンならではの発見もありそうです。

■無印良品 ReMUJI(リムジ)

ReMUJI(リムジ)(筆者撮影)
ReMUJI(リムジ)(筆者撮影)

無印良品は服を回収し、別の色に染めることによって新たな商品に再生させた「染めなおした服」を2015年から販売しています。服の再生を試みる「ReMUJI」の一環です。きれいに洗浄した古着の「洗いなおした服」、つなぎ合わせてリメイクした「つながる服」も取り扱ってきました。

染めに用いた色は藍色系の3色です。藍色は日本が伝統的に強みを持つ色で、藍染めの歴史も長く技術も独自の進歩を遂げており、日本の染色技術の高さを感じられるカラーチョイスとなっています。

「ReMUJI」の取り扱い店舗は全国で25を超えていて、手に取りやすくなっています。日本では古くから服を縫い直したり染め直したりして大事に着るという文化があり、無印良品のプロジェクトもそうした日本的な服飾文化の現代版といえそうです。

スタート時期の早さからもわかる通り、無印良品は循環型の取り組みでは国内の先駆け的な存在です。服だけではなく、ライフスタイル全般にわたって改修や再生の試みを続けています。

■H&M 京都紋付「黒染め」サービス

H&Mと京都紋付がコラボレーションする黒染めサービス(出典:prtimes.jp)
H&Mと京都紋付がコラボレーションする黒染めサービス(出典:prtimes.jp)

日本が育んできた染めの技術に、欧米のファッションブランドも強く関心を示すようになってきました。H&Mは京都紋付とコラボレーションした黒染めサービスを2024年6月5日~12月5日の期間限定で提供しています。国内のH&Mメンバー会員向けの優待価格を用意しました。新たな循環型ファッションサービスという位置付けです。

1915年創業の京都紋付は100年以上の歴史を持つ、正装の黒紋付を染め続けてきた老舗です。品格を印象付ける黒への染め替えサービスを提供。サステナブルなおしゃれの選択肢を増やしています。

通常の黒染めを行った後に天日干しして、さらに独自の「深黒加工」を施します。染め上がった後の黒は洗濯をしても色落ちしないそうです。高い技術を信頼して、ファッション企業のアーバンリサーチや古着ショップのセカンドストリートなども京都紋付と連携。黒染めのサービスを案内しています。

日本の服飾文化を彩ってきた染め物の技術を、手持ちの古着を染め直してもらうことであらためて実感できます。服を無駄にしない点でソーシャルグッドな体験ともいえそう。染色によってお気に入りの服から新たな表情を引き出せれば、さらに愛着がわくかもしれません。

■新品にはない魅力 装いのこなれ感アップにも

古着やヴィンテージ人気が広がり、新品にはない魅力にひかれる人が日本でも増えています。服の選び方、買い方、着こなし方も変わりつつあります。全身を一つのムードにまとめないで、新品と古着を合わせたり、きれいめとカジュアルのテイストをミックスしたりといったアレンジが支持されている今、こなれた雰囲気が備わる「染め」は魅力的な技法と言えるでしょう。古着に「染め」を施した再生服は、自分らしい着こなしに役立つ新たなアイテムとしてさらに人気を集めそうです。

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

(関連サイト)

RE.UNIQLO(リ・ユニクロ)

ReMUJI(リムジ)

H&M 京都紋付「黒染め」サービス

COS x TABATA SHIBORI

(関連記事)

ファッションは「性別不問」時代へ ジェンダーレスな服装が流行

衣替えしないが当たり前に? ”通年着回し”が支持を集める理由

ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

宮田理江の最近の記事