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『NHK紅白歌合戦』の着こなし技を解説 取り入れたい2021年春夏トレンドはコレ!

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
第71回NHK紅白歌合戦で多かったアシンメトリールック(写真:IMAXtree/アフロ)

第71回の『NHK紅白歌合戦』はファッションの面でも見どころがいっぱいでした。2021年春夏シーズンのトレンドが先取りされていて、出場者や司会の装いを読み解けば、新年の着こなしにも役立ちそう。今回の『紅白』を振り返りながら、21年のコーディネートに使える注目のファッショントレンドをご紹介します。キーワードは「アシンメトリー」「ヘルシー」「ジェンダーミックス」「ナチュラル×ポジティブ」です。(文中敬称略)

LOUIS VUITTON 2021年春夏 コレクション
LOUIS VUITTON 2021年春夏 コレクション写真:IMAXtree/アフロ

アシンメトリーで装いにリズムを乗せて

今回の『紅白』で、最も目に付いたのは、前後や左右で不ぞろいの「アシンメトリー(非対称)」です。たとえば、「櫻坂46」が着ていたロング丈のライダースジャケット・ドレスは白をベースにしつつ、右側は赤で、左右で異なるシルエット。靴も左右で赤と白をはいて、『紅白』らしい演出を取り入れています。東京ブランド「KEISUKEYOSHIDA(ケイスケヨシダ)」の服がベースになりました。

「Little Glee Monster」は淡いグリーンのサテン系ドレスという点は統一しながらも、4人それぞれに襟や袖などのディテールを変えました。グループ全体としてはアシンメトリーになっています。全く同じではないけれど、生地や柄のどこかをそろえるという「リンクコーディネート」の一種でもあります。カップルや家族の装いでも人気のスタイリングです。

白組でも「関ジャニ∞」は左右で生地や柄が異なる「オッドパターン」のパンツ・セットアップで登場。ネオンカラーやピンバッジも左右非対称で配して、動きを加えました。アシンメトリーの効果が生きて、振り付けがいっそう躍動的に映っていました。

「GENERATIONS」の応援MCとして出演したお笑いコンビ「EXIT」は現代アーティストのジャクソン・ポロックやジャン・ミシェル・バスキアを思わせる、グラフィカルな色柄が不規則に躍る装いで登場しました。

MIU MIU 2021年春夏 コレクション
MIU MIU 2021年春夏 コレクション提供:Miu Miu/IMAXtree/アフロ

ヘルシーな肌見せでフレッシュに演出

「ヘルシー」トレンドを象徴するのは、キュートでロマンティックな雰囲気の装いです。「NiziU」はミニスカートやショートパンツの若々しい衣装を披露しました。腹見せや肩出しでさりげなく肌見せする演出は、21春夏シーズンに注目を集めそう。透けるシアー生地やシャイニーなつやめき素材を使って、ほのかなシースルーも取り入れています。

ワインレッドのミニスカートやショートパンツで出演したのは、「乃木坂46」の面々。ジャケットの袖を透けさせ、あちこちにフリルをあしらって、愛らしい着映えに。一方、ジャケット裾にも張り出したペプラム(飾り裾)を盛って、動きを添えました。

「日向坂46」も伸びやかな脚線美を強調。白いショートパンツの上から斜めに流れ落ちるラッフルを重ねて、アクティブとロマンティックを響き合わせました。足元は衣装と同じ白のショートブーツでそろえ、軽やかに見せました。

JIL SANDER 2021年春夏 コレクション
JIL SANDER 2021年春夏 コレクション提供:IMAXtree/アフロ

オーバーサイズやストリート風味でジェンダーミックスに

いかにもセレモニー向きのスーツ姿は減り、着る人それぞれの主張やキャラクターを写し込んだ着こなしが主流になってきました。たとえば、あいみょんはオーバーサイズのジャケットとパンツのセットアップで出演。気負わないスタンスを装いでも示しています。

紅組司会の二階堂ふみは赤のパンツ・セットアップや、端正な黒のジャンプスーツ(オールインワン)を披露。司会にふさわしいきちんと感を備えながらも、パンツ裾のスリットや、紅一点の赤シューズで、クールな表情を添えていました。

JUJUはマニッシュなダブルブレスト・ジャケットに特大のヘッドアクセサリーとハイヒールでフェミニンを薫らせ、ジェンダーミックスなムード。松任谷由実はプロジェクトに参加した子どもが描いたファニーフェイスのイラストを黒のタキシードスーツのインナーに迎え、『守ってあげたい』を歌い上げました。

一方、男性陣は、星野源がブルゾン風のCPOシャツに黒パンツという飾らないルックで、足元もスニーカーをチョイス。ステイホームに誘う楽曲ともなじんでいました。瑛人はパーカ、オーバーオールの上にジャケットを羽織り、靴はスニーカーという、ストリートミックスで登場。ウィメンズがタキシードを着用するのとは逆に、Kis-My-Ft2は総花柄のパンツスーツに足元はローラースケートという出で立ち。ハッピー感を求める気持ちを追い風に、21春夏はメンズにも花柄が広がってきそうです。

VERSACE 2021年春夏 コレクション
VERSACE 2021年春夏 コレクション提供:IMAXtree/アフロ

自然界や宇宙を思わせるナチュラル×ポジティブ

自然界や宇宙を思わせるナチュラルな雰囲気に、ポジティブな華やかさをミックスした装いも盛り上がりました。裾がはるかに広がる、水森かおりの極大衣装は篠原ともえが手がけました。ブルーのフリルドレスはまるで大海原のよう。一方、氷川きよしは映画『スター・ウォーズ』に出てきそうな宇宙服のような白の装いから、赤と黒のフェティッシュな姿へ早変わり。最後はゴールドに身を包んで宙を舞いました。郷ひろみもレオパード柄タキシードにラメ入りネクタイでパンチを利かせていました。

ポジティブ感を際立たせたのは、スパンコールやラメなど、まばゆい素材を生かした装いです。きらめきディテールをカジュアルミックスしたスタイリングは「Hey!Say!JUMP」や「SixTONES」などの男性グループが採用。「GENERATIONS」の凜々しいナポレオンジャケットと、MISIAのボリュームたっぷりなドレスはどちらもゴールドが印象的でした。「純烈」はハート形のビッグモチーフを衣装と髪に施し、ハッピームードを打ち出しました。

二階堂ふみがフィナーレの装いに選んだのは、英国ブランド「Stella McCartney(ステラ マッカートニー)」のドレス。馬や人のカラフルな柄が全体にあしらわれたデザインは、楽観やサステナビリティー、多様性など、様々なテーマを織り込んだよう。デザイナーと過去に対談したこともあって、お気に入りのブランドと見えます。

自分らしいおしゃれを楽しめる時代が到来

世の中のムードが沈むと、ファッションで気分を盛り上げようという動きが強まります。今回の『紅白』では、この傾向が出ていて、つやめき素材のほか、明るい色、花柄、飾り襟・袖などが出場者の衣装を華やがせ、私たち観る側に夢や希望を画面越しに届けてくれるかのようでした。

コロナ禍になる前から、環境問題に向き合うサステナブルな取り組みがファッション界でも広がっていました。大量生産・消費を前提としてきた旧来のファッションを見直す動きも起きています。愛着を持って、お気に入りの服を長く着続けるといったスローファッションも支持を広げつつあります。

これまでは人に見せる服という意識が強かったのに対して、もっと自分らしい装いを楽しみたいという流れに変化し始めたのはよいことだったと思います。衣装博覧会のような印象があった『紅白』でさえ、今回は自前の普段着風での出演が相次ぎました。そういった「他人目線」にとらわれないファッションは心を健やかにしてくれる働きもありそうです。これからは心身の「健康」がファッションのキーワードになっていく兆しが見えています。

女性の権利や、人種差別、格差などの課題について、改善を求めるような取り組みへのメッセージを、服に込めるような装いも勢いづき始めました。性別をイメージさせる『紅白』にも、あえて赤と白を交ぜたり交差させたりするジェンダーフリュイド(流動的)の装いが持ち込まれました。前向きに生きていこうという呼びかけや、お互いをいつくしみ合う働きかけも目立った今回の『紅白』でした。

毎年、注目を集める『紅白』だけに、出場者の装いは旬のトレンドをとらえていたり、メッセージ性も感じさせたりするコーデが多く、おしゃれのお手本としても参考にしたくなるポイントがたくさんありました。「ヘルシー」「アシンメトリー」「ジェンダーミックス」「ナチュラル×ポジティブ」のキーワードを参考に、21年は自分らしい着こなしで気持ちを盛り上げてみてはいかがでしょうか。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

(関連サイト)

第71回NHK紅白歌合戦

ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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