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ジグザグ天気のおしゃれ術 秋冬の正解コーデは「夏が基本」

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
シアー素材を使って様々なレイヤードスタイルを提案(写真:REX/アフロ)

「長すぎて暑すぎる夏」が日本の当たり前になってきました。体調管理が難しくなったのに加えて、ファッションの面でも悩ましい事態です。しかも近ごろは気温が日ごとに波打つ「ジグザグ天気」も増えています。暑かったかと思ったら翌日は冷え込むことも。春夏秋冬の季節感に沿ったこれまでの着こなしが不都合になった今にふさわしい「服との付き合い方」をレクチャーします。

薄手アイテムを重ねるレイヤードスタイルが人気

かつては春夏と秋冬の境目に「衣替え」という習慣が当たり前にありました。しかし、近年は衣替えを見合わせる家庭が増えているそうです。春夏物の活躍する期間が長くなり、逆に秋冬物は出番が減る傾向になっているからです。そうした流れを受けて人気が高まったのは、薄いアイテムを重ねるレイヤード。ウエアのタイプでも近年は透けるシアー服が長期トレンドになり、ほとんど通年で店頭に並んでいます。こうした状況は「装いは夏をメインにすべし」という、新たな共通認識を生みつつあります。

アパレル企業は既に「四季」という考え方を捨て始めています。たとえば、コートで有名な三陽商会は年間を「五季」ととらえた商品企画に動いているそうです。従来の「夏」を盛夏と晩夏に分けました。一方、百貨店の高島屋は四季を半分に減らす形で「二季」を軸に据えていると伝えられました。どちらの取り組みも、夏が年間の「主役」になったことを示しています。

暖冬に向けたコート 「サンヨーコート」の新提案

暖冬に向けた新商品「100年コート ショートトレンチモデル」 (出典:prtimes.jp)
暖冬に向けた新商品「100年コート ショートトレンチモデル」 (出典:prtimes.jp)

「100年コート」で有名な、三陽商会が展開するコート専業ブランド「SANYOCOAT(サンヨーコート)」ショートトレンチモデルを発売しました。「100年コート」の中で最も着丈の短いモデルです。

本格的なトレンチコートのディテールは受け継ぎつつ、ライナー(裏地)を省いた仕様です。着丈が短めなのに加え、本格的に寒くなる前の時期から着やすい、軽やかな仕立て。男女問わず着られるデザインです。

コートに代表される秋冬アウターには「防寒」のイメージが強くあります。しかし、「地球沸騰」の時代を迎えて事情は様変わり。日本も「ほとんど亜熱帯」と呼ばれるほどの暑さが続き、暖冬傾向は長期化。防寒機能を重んじた従来タイプのコートは出番が減る傾向にあります。サンヨーコートの新提案はこうした変化に対応したものといえるでしょう。

人気の東京ブランドも「春・夏・夏」を提案

FUMIE TANAKA 2025年春夏コレクション (出典:fashion bible)
FUMIE TANAKA 2025年春夏コレクション (出典:fashion bible)

モード系ブランドでも天候の「ニューノーマル」に向き合う動きが目立ち始めました。たとえば、人気東京ブランド「FUMIE TANAKA(フミエ タナカ)」は2025年春夏コレクションで「SSS(Spring Summer Summer)」をテーマに据えました。「四季から二季へと変わりつつある地球で 我々にできること」を掘り下げています。

従来の春夏の延長線上にもうひとつの「サマー」を加え、新しい季節観を打ち出しました。スリットやカットアウト、シアー素材を多用して、見た目も実際にも涼しい装いを提案。機能性素材も取り入れて、厳しい暑さの中でもスタイリッシュなおしゃれを楽しめる装いを用意しました。

「空調服」とのコラボで「涼しいレザージャケット」

「Mode Motorization」 (出典:fashion bible)
「Mode Motorization」 (出典:fashion bible)

機能面でリアルな清涼感を盛り込むアイテムも登場しています。小型のファン(扇風機)を組み込んだ服で有名な「空調服」とのコラボレーションを続けているのは、ロック感の高いレザーアイテムで人気のブランド「blackmeans(ブラックミーンズ)」「空調服」と組んだ「Mode Motorization」をこの秋冬に売り出しました。

涼風のもたらすリアルなクールさと、レザーウエア特有の見た目のクールさが響き合う提案です。秋冬に人気のレザーウエアを機能面でバージョンアップ。近年の気温変動に対応した機能性も兼ね備えています。空調ファンが涼しさを吹き込んでくれるおかげで、気温や季節を気にせず、快適にレザーファッションを楽しめそうです。

「イッセイ ミヤケ」は涼しい「和紙」素材に着目

ISSEY MIYAKE 2025年春夏コレクション (出典:fashion bible)
ISSEY MIYAKE 2025年春夏コレクション (出典:fashion bible)

さわやかに過ごしやすい素材の開発が勢いづいてきました。世界的ブランド「ISSEY MIYAKE(イッセイ ミヤケ)」は2025年春夏パリ・コレクションで「The Beauty of Paper」と銘打った、和紙を用いたコレクションを発表。紙にまつわる素材に着目しています。象徴的なアイテムは、麻の細かい繊維でできた麻紙(まし)による紙衣(かみこ)。古くから日本人の生活に根付いた和紙の歴史を表現しています。

箱や折り紙のように、布に折り目を入れて立体化させたタイプは肌離れに優れ、快適に過ごしやすそう。大麻(おおあさ、ヘンプ)繊維を使った服も涼しげ。プリーツやたるみを適度にまとわせた、風通しのよいウエアも目立ちました。

「アンダーカバー」はメンズスカートで涼しい装い

UNDERCOVER 2025年春夏メンズコレクション (出典:fashion bible)
UNDERCOVER 2025年春夏メンズコレクション (出典:fashion bible)

ウィメンズのワンピースやスカートは、真夏でも風が通って涼しく、暑い季節を快適に過ごせるアイテムです。最近ではメンズ向けのスカートも有名ブランドから続々と提案されています。

日本を代表するブランドの「UNDERCOVER(アンダーカバー)」はパリ・メンズファッションウィークで発表した2025年春夏メンズコレクションで、エアリーなスカートを披露しました。「架空の民族」をスパイスに、着やすさと軽さを追求。中性的なイメージに整えています。

ドレーピーなふんわりスカートはジャケットとの相性も抜群。布をたっぷり使ったウエアは風をはらんでエアリーなたたずまい。高橋盾デザイナーの油彩絵画が涼しげにルックを彩り、独自の世界観を印象付けています。

秋冬の寒暖差に対応 快適な着こなしの選択肢

ファーのストールでスタイリングにめりはりを 
ファーのストールでスタイリングにめりはりを 写真:IMAXtree/アフロ

秋冬に暑さを遠ざける着こなしの基本は「薄着のレイヤード」です。詰め物入りの分厚いアウターは本気の防寒では役立ちますが、細かい温度調節に不向き。暖房のよく効いた室内で大汗をかくようなことを避けるには、軽い羽織り物が重宝です。

アイテムで頼もしいのはジレ(ベスト)。身頃部分は暖かく、両袖はかさばらないので、レイヤードに便利です。アウターやトップスと色を変えて、立体感やめりはりを出すのにも役立ちます。

コートの代わりに役立てたいのはジャケットやブルゾンです。着丈がコートより短いので、熱がこもりにくく、重ね着をしても快適に過ごせます。オーバーサイズを選べば、さらに風通しが良好に。ベストとの重ね着でもかさばりにくくなります。

防寒面が心配なら、小物類を活用しましょう。マフラーやスヌード、ストールなどの巻物を取り入れれば、細かい温度変化に対応しやすくなります。服は着ぶくれを避けつつ、防寒はニット帽、手袋、ブーツなども組み入れた「小物チーム」に任せるスタイリングを試すといいでしょう。

「都市サバイバル」がおしゃれの新たなテーマに

これからの着こなしでは、不愉快な高温、蒸し暑さのしのぎ方が主なテーマになるでしょう。ジグザグ天気も視野に入れると、急な温度変化や悪天候にも備えが欠かせません。そういう意味ではキャンプや登山のようなアウトドアの装いに似ています。つまり、一種の「都市サバイバル」がおしゃれの新たな軸になるわけです。悩ましいジグザグ天気はまだ続きそうですが、着こなしバリエーションを増やすきっかけにもなるから、スタイリングに新発想を取り入れて、1年を自分好みの装いで楽しんでみてはいかがでしょうか。

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(関連サイト)

blackmeans

FUMIE TANAKA

ISSEY MIYAKE

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UNDERCOVER

ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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