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窒息に対する菓子袋の注意書きへの注文

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 数日前、3時のおやつとして、3歳の孫がおいしそうにグミキャンディを食べているのを見ていた。孫におねだりして、グミキャンディを一つもらって食べてみた。弾力があって、噛み応えがあり、ほんのり甘くて、なかなかおいしい。口の中で溶けることはなく、よく噛まないとなかなかつぶれない。

 傍らに、グミキャンディが入っていた袋が置かれていた。何気なく見ていたら、袋の裏面の右下に、黄色のバックに赤い字で「のどにつまらせないようにご注意ください。」と記載されていた。表の面は、子どもたちの興味を引くようなアニメのキャラクターが描かれており、裏面には、成分や注意書き、製造所、販売者名などが小さな文字で書かれている。そのため、右下の黄色のバックに赤い字の表記はよく目立っている。

包装袋に書かれた注意書き。筆者撮影。
包装袋に書かれた注意書き。筆者撮影。

「のどにつまらせないように注意」とは?

 この表記を読むと、いろいろな疑問が湧く。

・こう書いてあるということは、つまった子どもがいたということか?

・つまらせないように注意するとは、具体的に、どう注意すればいいのだろうか? 

 大人が脇で見ているだけでは、つまることを防ぐことはできない。小さな子どもに、つまらせない食べ方を指導することもうまくできない。具体的にどうしたらいいのか、まったくわからない。

 このような注意書きを書いておけば、窒息事故が起こった時、「袋に、事前に注意を明記しているのにつまったのは、注意していなかった消費者の責任である。当社には責任はない」ということのために記載されているのだろうか。

 これまで、グミキャンディで窒息死したという話を聞いたことはないが、つまる可能性はあると思った。調べてみると、消費者庁からのニュースに事故例が出ていた。

消費者庁 News Release 平成29年3月15日

食品による子供の窒息事故に御注意ください!〜6歳以下の子供の窒息死事故が多数発生しています〜

■事例5(一口の量が多かった事例)

グミ(1cm×1cm×1.5cm)を 10個ほど一気に食べて喉に詰まらせて意識が

混濁し、顔面蒼白になってきたため、救急車を要請した。 (医療機関ネットワーク、受診年月:平成27年3月、3歳、中等症)

 メーカーも、窒息の可能性を危惧しているからこの記載をしたのだと思う。窒息は、突然に発症し、気道を閉塞した状態が5分以上続くと、時には死亡する。一旦、ものが気道にはまり込むと、それを解除することはたいへんむずかしい。「のどにつまらせないように注意する」といっても、一般の人にできることは「食べさせないこと」くらいしかない。このような表記には実質的な効果はなく、責任逃れと言われても仕方がないのではないか。

望ましい表記は?

 食べ物による窒息は、乳幼児、高齢者、嚥下に障害を持った人に多い。自然食品であるミニトマト、大粒のぶどうなど、つまりやすい自然食品を乳幼児等に食べさせるときは、4つに切る必要がある。加工食品の場合は、成分や形、大きさ、硬度を調整することができるので、窒息死が起こった食品の場合は製品を改良する必要がある。

 もし私が窒息の危険性が高い製品の注意書きを書くとしたら、以下のような表記にする。

「この製品が、のどにつまった、つまりそうになった場合は、下記に詳しい状況を知らせてください。連絡先:○○○○」

 どのような症状があった時に情報提供をお願いするかについては、乳幼児突発性危急事態(Apparent Life Threatening Event:ALTE)の定義を参考にするとよい。ALTEとは、「呼吸の異常、皮膚色の変化、筋緊張の異常、意識状態の変化のうちの1つ以上が突然発症し、児が死亡するのではないかと観察者に思わしめるエピソードで、回復のための刺激の手段・強弱の有無、および原因の有無を問わない徴候」と定義されているので、このようなエピソードを経験した場合は、情報提供してもらい、そのデータを分析して、窒息の危険性を評価し、製品の改善に活かすことが、具体的な食品による窒息予防となる。

 連絡先をメーカーにすると、「注意書きで指摘している。注意しなかったのは消費者の責任。よそのメーカーも同じものを出しており、うちだけの責任ではない」という対応が多く、時には情報を隠ぺいされることもある。NPO法人 Safe Kids Japanのホームページの「聞かせてください」に連絡をいただけば、再発予防に向けた対応することができると思う。

 食べ物がのどにつまる頻度は高くはないが、人は、一日3回以上、食べ物を飲み込んでおり、窒息はいつ発生してもおかしくない。すでに、つまりやすい食べ物はよく知られており、窒息を予防するための方策もわかっている。茫漠と「つまらせないよう注意」など、何をしたらいいのかわからないことを指摘するのではなく、つまった時の情報を集め、それを分析して、つまりにくい製品に改良していく必要がある。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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