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達意の脚本で着地した『和田家の男たち』最終回

碓井広義メディア文化評論家
番組サイトより (C) テレビ朝日

10日夜、ドラマ『和田家の男たち』(テレビ朝日系)が最終回を迎えました。

(ということで、この記事、ネタバレを含みます。以下、ご注意ください)

和田寛(段田安則)は新聞社の元社長。

息子の秀平(佐々木蔵之介)は報道番組のプロデューサー。

秀平とは血のつながらない父子である優(相葉雅紀)は、ネットニュースの記者です。

新聞、テレビ、ネットと、和田家の男たちのキャリアは「メディアの歴史」そのもの。

世の中に対する見方や考え方だけでなく、人生観や仕事観も異なる男たちが、ひとつ屋根の下で暮らしている。その設定が秀逸でした。

そして物語の重低音としてあったのが、優の母で、秀平の妻だった、りえ(小池栄子)の「死の真相」です。

26年前、りえが亡くなったのは、事故ではなかった。現在は国土開発大臣となっている、清宮(高橋光臣)の犯行だったことを、秀平がつきとめます。

自分の番組の中で、清宮の秘書の証言VTRを流し、世間に訴えようと決意する秀平。返り血をあびる覚悟で、オンエアの日を迎えました。

ところが直前になって、秀平を慕う部下の判断によって阻止されてしまいます。清宮に関するニュースは流れませんでした。

ここは、秀平が放ったスクープで巨悪が倒れる、という展開もあったはずです。

しかし、大石静さんと田中眞一さんによる脚本は、そうしなかった。

テレビ報道に携わる秀平に、公共の電波を使って“私怨を晴らした”と言われかねない行為を、あえてさせなかった。

これは正解だと思うのです。

当日の夜、やや肩を落として坂道を上がってくる秀平。

門の外に、優が立っています。

「おかえりなさい」

「ただいま」

画面は、優のウエスト・ショット。

「何してんの?」

「そろそろ帰ってくる頃かなあと思って」

「それで出て来たの?」

「うん」

秀平の背中がフレームインしてきます。その表情は見えません。

「こういう時は、そっとしとくのが大人の対応だろう。わかってないな」

「そうだよね。わかってないよね」

「まあ、いいけどさ」

そう言いながら、嬉しくないはずはない秀平。表情は見えなくても、佐々木さんの声のトーンが心地いい。

2人は肩を並べて坂道を上がっていきます。血はつながらなくても、確かに父と息子の背中です。

このドラマの相葉さんはずっとそうだったのですが、リキまない演技とセリフ回しが優のキャラクターにぴったりで、このシーンでも強く印象に残りました。

局に辞表を出した秀平。

秀平が部下に託した映像で、政治家としての悪事を暴露され、失脚した清宮。

――1年後、3人は自分たちで立ち上げたWEBサイトに、それぞれ記事を書いています。

すでに多くの読者を獲得しているこのサイト、名称は「和田家―マスじゃない新しいメディア」。

いわば、”自前のメディア”であり、確かに今は、これが出来る時代なんですよね。

さらに優は、新進小説家としても活動中。

そして和田家の男たちは、相変わらず、ひとつ屋根の下で暮らしている。

「いつかまた、この3人に会いたいなあ」と思わせるラストに、拍手でした。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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