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「恐竜」を食べていた「白亜紀の哺乳類」とは

石田雅彦科学ジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 ジュラ紀や白亜紀の哺乳類は、恐竜におびえながら暮らしていたという従来の考え方を覆す論文が出た。当時の哺乳類は生態系の中で必ずしも捕食される側だけではなかったという。

恐竜の時代の哺乳類

 我々ヒトの先祖をたどると約3億年前の石炭紀後期に誕生した哺乳類にいたるが、直接の先祖は約2億年前から約1億4500万年前までのジュラ紀に出現したと考えられている。ジュラ紀と言えばその後の白亜紀(約1億4500万年前から約6600万年前)にかけて恐竜や爬虫類が生態系を支配する時代だった。

 だが、ジュラ紀から白亜紀の哺乳類は、脳と嗅覚を進化させ、夜行性に特化することで恐竜や爬虫類からの捕食を逃れ、当時の生態系の中で一定の存在を占めていた(※1)。ネズミのように小さく、恐竜におびえながら夜間だけ活動する生態系の弱者という考え方は、最近の研究から否定されつつある(※2)。

 例えば、ジュラ紀にはビーバーのように水辺に進出したり、ムササビのように空中を滑空する哺乳類が出現し、白亜紀後期にはアナグマのような雑食性で体長も1メートルを超えるような哺乳類も現れている(※3)。そして、その中には逆に恐竜を捕食するものもいたが、まだその証拠は少ない(※4)。

 そうした中、最近になって中国の研究グループが、白亜紀の哺乳類が恐竜を捕食していたという論文を発表した(※5)。

 この哺乳類はレペノマムス・ロブストゥス(Repenomamus robustus)といい、2000年代の初めに中国で発見された、頭骨の全長が約10センチメートルという白亜紀の哺乳類では大型に属する種類だ(※6)。この仲間(亜種)のレペノマムス・ギガンティカス(Repenomamus giganticus)は体長1メートルを超え、体重は12キログラムから14キログラム、現在のコヨーテかタスマニアデビルのような生物だったと考えられている(※4-1)。

レペノマムスの頭骨。Via: Ll Jinling, et al., 2001
レペノマムスの頭骨。Via: Ll Jinling, et al., 2001

捕食者か腐肉あさりか

 最初にレペノマムスの化石が発見された際、骨格の胃にあたる位置に小さな骨や歯の欠片があることが確認され、それらは孵化した直後のプシッタコサウルス(Psittacosaurus lujiatunensis)の幼体(赤ん坊)だったことがわかった(※4-1)。プシッタコサウルスは、二足歩行の小型草食恐竜で、トリケラトプス(Triceratops)の仲間だ。

 ただ、この化石では、レペノマムスが単にプシッタコサウルスの死骸をあさって食べていただけかもしれない。哺乳類が恐竜の幼体を襲っていたかどうかはわからなかった。

 今回の論文では、2015年5月に中国の遼寧省、瀋陽市の西の盧家屯という白亜紀前期(約1億2500万年前)の発掘サイトから、レペノマムス・ロブストゥスとプシッタコサウルスが戦う状態のまま発見された化石について報告している。レペノマムスの体長は約46.7センチメートル、プシッタコサウルスは全長119.6センチメートル。どちらも幼体ではないが、成熟する直前の成長段階と考えられている。

 この化石でプシッタコサウルスは腹ばい状態で、レペノマムスはその上におおいかぶさった状態になっている。また、レペノマムスの左手がプシッタコサウルスの下顎をつかみ、その歯がプシッタコサウルスの胸に食い込んでいることが示唆されるとしている。

 この2頭の姿勢やレペノマムスの歯のあとの他にプシッタコサウルスの骨に損傷がないことから、この2頭が格闘し、レペノマムスが草食恐竜のプシッタコサウルスを捕食しようとしていたと推測される。

 同研究グループは、レペノマムスとプシッタコサウルスは格闘しているまさにそのとき、火山の噴火に襲われて化石化したと考えている。この発掘サイトからは、この他にも多くの化石が発見されているが、今回の化石のように生態系のその瞬間がタイムマシンのように残っている可能性があると述べている。

※1-1:Timothy B. Rowe, et al., "Fossil Evidence on Origin of the Mammalian Brain" Science, Vol.332, Issue6032, 20, May, 2011

※1-2:Nuria Melisa Morales-Garcia, et al., "Jaw shape and mechanical advantage are indicative of diet in Mesozoic mammals" communications biology, 4, Article number: 242, 23, February, 2021

※2:Jeff Hecht, "Big, bad and furry" New Scientist, Vol.193, 32-35, 2007

※3-1:Qiang Ji, et al., "A Swimming Mammaliaform from the Middle Jurassic and Ecomorphological Diversification of Early Mammals" Science, Vol.311, Issue5764, 24, February, 2006

※3-2:Jin Meng, et al., "A Mesozoic gliding mammal from northeastern China" nature, Vol.444, doi:10.1038/nature05234, 14, December, 2006

※3-3:Leandro C. Gaetano, Guillermo W. Rougier, "New materials of Argentoconodon fariasorum (Mammaliaformes, Triconodontidae) from the Jurassic of Argentina and its bearing on triconodont phylogeny" Journal of Vertebrate Paleontology, Vol.31, Issue4, 11, July, 2011

※4-1:Yaoming Hu, et al., "Large Mesozoic mammals fed on young dinosaurs" nature, Vol.433, 13, January, 2005

※4-2:Andreas Johann Lang, et al., "Dental topographic and three-demensional geometric morphometric analysis of carnassialization in defferent clades of carnivorous mammals(Dasyuromorphia, Carnivora, Hyaenodonta" Journal of Morphology, Vol.283, Issue1, 1-143, January, 2022

※5:Gang Han, et al., "An extraordinary fossil captures the struggle for existence during the Mesozoic" scientific reports, 13, Article number:11221, 18, July, 2023

※6:Ll Jinling, et al., "A new family of primitive mammal from the Mesozoic of western Liaoning, China" Chinese Science Bulletin, Vol.46(9), 782-785, 2001

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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