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冬の入浴はヒートショックに注意!!

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
(写真:イメージマート)

俳優の佐藤蛾次郎さんが、亡くなったというニュースがありました。自宅の浴槽で、動かなくなっているところを発見されたということです。この件に関して、何が起こったのかコメントできる立場にはないのですが、自宅浴槽で亡くなる方は、毎年いらっしゃいます。これからの季節、特に事故が増えるので、今回は冬の入浴の注意点についてまとめます。

入浴関連死

以前も、入浴関連死についての記事を書きました。入浴関連死とは、その名の通り入浴中に死に至ってしまうものを指します。2021年の人口動態統計によると、浴槽内での溺死及び溺水は、年間4997件ということです。ただ、死因が溺水とされる場合だけでなく、入浴中に内因性疾患で死亡する場合もあるため、入浴関連死としては年間1万9000件ほどあると推計されています[1]。

入浴関連死は高齢者で圧倒的に多く、自宅で発生し、冬季に多発します[2]。下のグラフは浴槽内での溺死及び溺水の年齢別発生件数ですが、圧倒的に高齢者で多いことがわかります。かなり寒くなってきましたし、浴室から心停止状態で救急搬送されることも増えて参りました。今回は改めて入浴関連死、そしてヒートショックについて知っていただければと思います。

入浴中の死亡 年齢層別グラフ(人口動態統計を元に著者作成)
入浴中の死亡 年齢層別グラフ(人口動態統計を元に著者作成)

ヒートショック

入浴関連死は冬に増加することから、寒さが原因の一つと考えられています。これは温度変化に伴う血管収縮と拡張の影響から臓器虚血に至るのではないかというもので、ヒートショックと呼ばれています。

冬は夏に比べて血圧が高くなります。これは、気温が下がって寒さを感じると、体温が下がらないよう、皮膚の血管が収縮して皮膚へ行く血流を減らすことによります。血液の熱が皮膚を通して外気に逃げてしまわないようにするのです。一方、血管が収縮すると血液が流れにくくなり、心臓も血液を送りだそうと働くため血圧が高くなります。暖かいところから寒いところへ移動すると、この変化が一気に起こります。一般的に脱衣所は寒いです。暖かいリビングから寒い脱衣所に移動すると、血圧が上昇するのです。

では、浴室に入るとどうでしょう?お湯につかると、体温が上昇して今度は血管が拡張して急に血圧が下がります。この急激な血圧低下によって脳血流まで低下し、意識を失うこともあると考えられています。これがヒートショックです。

さらに、高齢で動脈硬化を合併していると、血行動態に大きく影響します。心筋梗塞や脳梗塞、脳出血などにつながり、入浴中にこれらの急性疾患を発症してしまうかもしれません。意識が落ちて、そのまま溺水につながってしまいます。

入浴と熱中症

さて、心停止に至らなくても、入浴中に救急搬送される方はいらっしゃいます。「意識障害」を呈することもありますし、「脱力」のため動けなくなったということも多いです。頭蓋内出血などがあれば早急に対応しなくてはならないのですが、そうした内因性疾患が特になくても同様の症状を呈し、院内で経過観察をしていると症状は改善していくことをよく経験します。これは何が起こっているのでしょうか?

入浴中に救急搬送される方は、浴槽内で発見された時には高体温になっており、体温が低下すると症状も改善していきます。これは夏に多く経験する熱中症と同様の病態です。入浴という暑熱環境で体温が上昇し、熱中症となり、脱力したり失神したりして溺れてしまうというのが入浴関連死の一因と考えられます。実際のところ、浴室内死亡はお風呂の設定温度が42度を超えると増加します。

寒い時期は特に、熱いお風呂が気持ち良いです。日本人としてとてもよく理解できますが、温度設定を見直していただければと思います。何度だったら安全かという線引きは難しいですが、41度のお湯であれば、10分間入っても体温は38度以下に保たれるようです[1]。風呂の温度を42度以上にするときは、入浴時間を短時間にするなど考えた方がよさそうです。

冬の入浴の注意点【傾向と再策】

①脱衣所の温度管理

暖かい部屋から脱衣所に移動した際の温度変化を軽減するために、暖房器具を置くなどの工夫をしましょう。浴槽に蓋をすると浴室内の温度も下がりがちですが、蓋を開けてしばらくしてから入浴すれば、浴室内をある程度暖かくできます。

②浴槽の温度は低めに

前述の通り、42度以上にすると危険です。温度設定が可能であれば41度までにしておき、設定が難しければ水温計をおき、浴槽内が高温にならないようにしましょう。

③上がる時はゆっくり

浴槽から立ち上がる時も注意が必要です。体温が上昇して血管が開いており、脳血流は低下するかもしれません。一気に立ち上がると、重力にまけて脳に血流がいかず、その場で失神したり、ふらついて転倒し、外傷を負うかもしれません。ゆっくり立ち上がり、めまいを自覚するなどあれば、その場にしゃがみ、休みながら上がるか、即時助けを呼びましょう。

④長時間の入浴は避ける

高齢の方は特にですが、もし家族が入浴して10-15分以上音沙汰がなければ、 できる限り様子を見に行きましょう。風呂の外からで大丈夫かと声掛けをしておくと良いです。

⑤飲酒後の入浴は避ける

飲酒により、血管拡張を助長して血圧低下したり、浴槽で寝てしまったりという危険があります。深酒している時は特に、入浴を避けたいところです。

参考文献

[1] 堀 進悟他 入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究 厚生労働省;2014.

[2] Hideto Suzuki,et al. J Epidemiol. 2015; 25: 126–32.

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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