熱いお風呂は危ない!入浴関連死を防ぎましょう
近年、入浴関連死に関する啓発が積極的にされています。入浴関連死とは、その名の通り入浴中に死に至ってしまうものを指します。人口動態統計によると、浴槽内での溺死及び溺水は、2019年に5166件ありました。ただ、死因が溺水とされる場合だけでなく、入浴中に内因性疾患で死亡する場合もあるため、入浴関連死としては年間1万9000件ほどあると推計されています[1]。
入浴関連死は高齢者で圧倒的に多く、自宅で発生し、冬季に多発します[2]。下のグラフは浴槽内での溺死及び溺水の年齢別発生件数ですが、圧倒的に高齢者で多いことがわかります。ステイホームが呼びかけられる年末年始ですが、自宅に潜む危険、入浴関連死について知っていただければと思います。
入浴関連死の原因は?
入浴関連死は冬に増加することから、様々な原因が考えられています。一つは、温度変化に伴う血管収縮と拡張の影響から臓器虚血に至るのではないかというものです。高齢で動脈硬化を合併していると、血行動態に大きく影響するかもしれません。また、冬季は心筋梗塞や脳梗塞、脳出血などの血管病変が多くなってくる時期です。入浴中にこれらの急性疾患を発症して死に至るということも考えられます。ただ、入浴中に心停止に至らず救急搬送されてくる方も多数おり、そういった方々を診察していると、入浴関連死の別な病態が見えてきます。
入浴中に救急搬送される方は、「意識障害」を呈しているか、「脱力」のため動けなくなったということが多いです。頭蓋内出血などがあれば早急に対応しなくてはならないのですが、そうした内因性疾患が特になくても同様の症状を呈し、院内で経過観察をしていると症状は改善していくことをよく経験します。これは何が起こっているのでしょうか?
真冬の熱中症
入浴中に救急搬送される方は、浴槽内で発見された時には高体温になっており、体温が低下すると症状も改善していきます。夏に多く経験する熱中症と同様の病態です。入浴という暑熱環境で体温が上昇し、熱中症となり、脱力したり失神したりして溺れてしまうというのが入浴関連死の病態と考えられます。実際のところ、浴室内死亡はお風呂の設定温度が42度を超えると増加します。
寒い時期は特に、熱いお風呂につかりたくなりますよね。気持ちはとてもよく理解できますが、温度設定を見直していただければと思います。何度だったら大丈夫なのかという疑問がわくと思いますが、41度のお湯であれば、10分間入っても体温は38度以下に保たれるようです[1]。風呂の温度を42度以上にするときは、入浴時間を短時間にするなど考えた方がよさそうです。
家族に高齢者がいる人は特に、今晩から設定温度を見直してみてください。遠方に高齢の家族がいる人は、ぜひ連絡を取って注意喚起してあげてください。お湯の温度設定ができない場合は、温度計を用いて湯の温度を気にしていただければ幸いです。また、長風呂をしているなと思った場合には、様子を見にいきましょう。心停止前に、異変に気づいていただければありがたく思います。
それから、脱水も熱中症のハイリスク因子なので、入浴前のアルコール摂取や入浴中のアルコール摂取もほどほどにしていただければと思います。
コロナ禍での入浴関連事故
最近、発熱患者さんの救急搬送先が見つかりにくい状況になってきております。受け入れ側は発熱患者さんに、最大限の感染予防策を敷いた上で対応することになります。さらに、コロナ対応で病床も人も取られている施設では、新たな受け入れに慎重にならざるを得ない背景もあります。長風呂で具合が悪くなった結果、搬送先が見つからないという事態が発生するのではないかと、本気で危惧しています。軽症の熱中症であれば冷涼な環境と時間が解決してくれますが、内因性疾患がある場合には命に関わります。避けられるリスクは避けていただければと思います。
まとめ
入浴中に溺水する人が冬季は増加する
お湯が42度以上にならないように要注意
参考文献
1) 堀 進悟他 入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究 厚生労働省;2014.
2) Hideto Suzuki,et al. J Epidemiol. 2015; 25: 126–32.