勝利への困難な旅!藤井聡太七冠に勝つための"3つの険しい山"
7月26日に2日目が指し継がれた伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦七番勝負第3局は、藤井聡太王位(21)が挑戦者の佐々木大地七段(28)に131手で勝利し、通算成績を3勝0敗としました。
7月23日にYahoo!ニュースに記事を掲載しました。
ダブルタイトル戦で同時進行された、藤井棋聖と佐々木七段による第94期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負の振り返り記事です。
この記事では、藤井王位に勝つ難しさ、そして先手番の藤井王位に勝つ厳しさについて解説しました。
本局は藤井王位の先手番で、結果的にはその厳しさが表れた一局となりました。
「右玉」で1つ目の山をクリア
先手番の藤井王位が角換わりを志向し、佐々木七段は真っ向から迎え撃ちました。
佐々木七段は棋聖戦では藤井棋聖の角換わりを2度受けて立ち、2度ともチャンスなく敗れていました。
しかし、本局ではその経験を生かすことに成功しました。
本局では、佐々木七段は「右玉」を採用しました。「右玉」とは、(後手側から見て)本来左方向に動くはずの玉が右方向に動く形で、昔からある作戦ですが、変化球と見られて主流になったことのない形でした。
しかし、数ヶ月前くらいから急速に流行しており、公式戦での採用は多くはありませんが、水面下で研究が進んでいる形です。
筆者も練習将棋でよく指されて、対策に苦慮しています。
最初の図は棋聖戦第3局における佐々木七段の「右玉」の形。次の図は本局の形です。
佐々木七段は玉金銀の位置を微妙にずらす工夫をしました。
そして、この工夫が功を奏しました。
深い研究で知られる藤井王位の角換わりに対し、その研究を外すのは大変です。しかし本局では藤井王位は研究から外れた形で仕掛けることになったようで、佐々木七段はその試みに成功しました。
さらに、将棋AIはその仕掛けをあまり良い手と見ていなかったため、佐々木七段の作戦も成功したと言えます。
佐々木七段は1つ目の険しい山をクリアしたのです。
クリアできなかった2つ目の山
駒がぶつかってからは、均衡のとれた見応えのある戦いが続きました。
藤井王位がひたすら攻め続けますが、玉と反対側を攻める展開になったため、佐々木七段に大きなダメージを与えることができません。
一方、藤井王位の玉も囲いに収まっており、佐々木七段はなかなか反撃に移ることができず、耐える時間が続きました。
ようやく佐々木七段に反撃のチャンスがめぐってきた時、形勢の針もほぼ中央にありました。
どちらが勝ってもおかしくない、そういう状況です。
しかし、佐々木七段に生じたわずかなスキを藤井王位は逃しませんでした。香をタダで捨てて相手陣を崩壊に追い込み、一気に勝ちを引き寄せたのです。
佐々木七段は2つ目の山を越えることができず、無念の投了となりました。
藤井王位に勝つための険しい道のり
もし2つ目の山を越えて優勢で終盤戦を迎えても、そこから藤井王位相手に勝ちまで持っていくのはとても大変です。
前述の記事で、
と述べましたが、最後にしっかりトドメを刺せないと藤井王位に逆転を許してしまうからです。
このように、3つの山を越えないと藤井王位に勝利することはできないのです。
なんと険しい道のりか。対戦相手の大変さを感じていただけるでしょうか。
藤井王位は、8月4日(金)に第71期王座戦挑戦者決定トーナメントで挑戦者決定戦を戦います。
獲得していない最後のタイトルへの挑戦権をかけた戦いです。
対戦相手は豊島将之九段(33)です。何度も熱い戦いを繰り広げてきた両者が、また大きな一番で激突します。
豊島九段は険しい3つの山を攻略することができるのか。
それとも藤井王位が八冠へまた一歩近づくのか。
ご注目ください。