藤井聡太七冠の高い壁、立ち向かう挑戦者の苦闘
第94期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局が7月18日(火)に行われ、勝利した藤井聡太棋聖(21)が通算3勝1敗で挑戦者の佐々木大地七段(28)を退けて防衛に成功しました。
この結果、藤井棋聖は棋聖4連覇を達成しました。
本局は佐々木七段の先手番で、相掛かりに進みました。
一進一退の攻防が繰り広げられる中、終盤で佐々木七段にチャンスがきましたが、それを見逃し、優位に立った藤井棋聖が正確な寄せで勝利を手繰り寄せました。
本記事では、五番勝負の4局について総括します。
勝ちへの険しい道のり
佐々木七段が先手番だった第2局と第4局では相掛かりに進みました。
2局とも、得意の相掛かりで佐々木七段がペースを握って進める展開でした。
第2局では、終盤で見事な一手を指した佐々木七段が勝利を収めました。
必殺の一撃「▲5五角」についての記事を掲載していますので、詳細はそちらでご覧ください。
挑戦者が鮮烈な一手で藤井聡太棋聖を撃破!佐々木大地七段の「必殺の一撃」
そして第4局では、佐々木七段が必殺の一撃を選択できず、藤井棋聖が勝利しました。
それが次の局面です。
将棋AIはここで▲7三香!という手を指摘します。これが必殺の一撃でした。
△同桂に対して▲8一角と金取りに打って攻めるのが狙いで、将棋AIは先手優勢と示します。
しかしこの手は非常に難易度が高く、人間が指すのは困難な手です。
実際、感想戦で関係者からこの手が指摘されても、両対局者はピンときていませんでした。
第2局で生じた必殺の一撃は、
- 佐々木七段の玉が詰みの一歩手前
- 回避するために攻防手が必要
という条件が分かりやすい局面でした。条件が明確な場面では選択肢が狭まるため、必殺の一撃を選択できる可能性が高まります。
一方、上記の局面では以下の条件があります
- 先手の飛車と金の両方を取られると先手玉に詰みが生じる
- 飛車と金を両方取られた瞬間に相手玉を詰ませば勝ち
- ただし、駒を渡しすぎると飛車か金を取られただけ先手玉に詰みが生じる
これらの条件が分かりにくい局面でした。条件が複雑な場合は選択肢が広いため、必殺の一撃を選択できる可能性が低くなります。
さらに、▲7三香という手は駒をタダで取られるために非常に指しにくく、△同桂に対して▲8一角という手も厳しさが一目では理解しにくいです。
第1図では、▲7三香以外の手だと互角以下の形勢になるようです。
実戦では▲3四香と逆の金を狙う手を選択しましたが、その後は藤井棋聖に有利な展開に進みました。
第1図で▲7三香と指せないと勝てないのでは、勝ちへの道のりがあまりに険しかったと言えるでしょう。
もう一つの難題
藤井棋聖に対して勝利するためには、終盤で好手を指す必要があり、勝ちへの道のりが険しいことが分かりました。
そしてもう一つ、対戦相手が後手番の場合、藤井棋聖の得意戦法である角換わりにどう対峙するか、という難題が突きつけられます。
第1局と第3局は藤井棋聖の先手番で角換わりに進みました。
第1局では、仕掛けの周辺で藤井棋聖がリードを奪い、そのまま押し切る内容でした。詳細については下記の記事をご参照ください。
第3局では、異端の端桂でペースを握り、藤井棋聖が勝利を収めました。
守備の桂を端に使って攻める、という発想は過去に例がなく、藤井棋聖の秀逸な構想でした。
やや専門的な内容ですが、筆者はその直前の藤井棋聖の玉の動きに感銘を受けました。
藤井棋聖の玉は元々6八にいたところから、6九→7九→6八とやや変則的に動きました。
通常、7九に行った玉は8八に行って囲いに収まるのがこれまでの将棋の常識ですが、藤井棋聖の常識にとらわれない発想が▲9七桂という手を生み出したのです。
結果的に佐々木七段は後手番での2局でいいところなく敗れており、藤井棋聖の角換わりと対峙する厳しさを痛感しました。
舞台は王位戦七番勝負へ
この二人は2つのタイトル戦を同時進行で戦っており、残すは第64期伊藤園お~いお茶杯王位戦七番勝負となります。現在、藤井王位が2勝0敗とリードしています。
第3局は7月25・26日に行われます。藤井王位が先手番となるため、佐々木七段の対策に注目が集まります。
王位戦七番勝負第1局では後手番の佐々木七段が横歩取りに誘導し、中盤まではペースを握っていました。
先ほども述べたように藤井棋聖の角換わりを撃破するのが大変なので、本局でも横歩取りなど角換わり以外の戦法に持ち込む可能性は高そうです。
この対局は各メディアで中継が行われます。
筆者はABEMA将棋チャンネルで7月25日(1日目)の解説を担当する予定です。
ぜひ各メディアで注目の一戦をご覧ください。