首相の靖国神社参拝について考える
安倍首相の靖国神社参拝が問題になっていますが、首相が靖国神社に参拝することがどうして問題なのか、ピンと来ていない人も多いようです。そこで、靖国神社について、また首相が参拝することの問題点について考えてみます。
◆靖国神社の存在意義と戦争
まず、靖国神社というのは国のために殉難した人たちを祀るために造られた「東京招魂社」が1879年に明治天皇の命名により改名したものです。改名前は主に戊辰戦争や西南戦争で政府軍として戦った「忠魂」を、改名後は主に日清戦争、日露戦争、満州事変、日中戦争(支那事変)、太平洋戦争(大東亜戦争)で戦没した「英霊」を祀っています。つまり「戦争の神社」です。国のために、戦争に勝つために戦った人たちを祀る神社なわけです。小中学生で特に誤解している生徒が多いのですが、戦争で犠牲となった全ての人を祀っているわけではないのです。
◆目的よりも行動が伝わる
安倍首相は今回の参拝の理由を「不戦の誓い」のためだったとしていましたが、そういう大義名分は特に海外には伝わりにくいものだと思います。そもそも「○○のため」という目的の正論性が通ってしまうなら、「平和のために原爆を使用する」ことも善意なので良いことになってしまいます。否定的な発言をした後で「良い意味で」と付け加える手法と何ら変わりはありません。
つまり問題とされるのは行動です。「首相が靖国神社に参拝した」という事実自体がメッセージになります。そして靖国神社というのは「戦争の神社」であり、単純に戦争で亡くなった方々を祀っているわけではなく、戦争に勝つために敵国と戦った人たちを祀っているわけです。そこに幾ら理由をつけたところで、伝わらないことは覚悟しなければいけないのではないか、と感じます。首相は、1965年に造られ世界中の全ての戦没者を祀る「鎮霊社」にもお参りをしたことを強調していましたが、中韓の目線では、鎮霊社自体が参拝を正当化するために後から造られたように感じられ、逆に伝わらない気がします。
◆靖国参拝という情報の影響
首相が靖国に参拝すれば、中国や韓国の政府が批判的に捉えるのは自明です。そして反日運動などが起こり報道されれば、多くの日本人も中国や韓国に対して反感を持ちます。一概に直結しているとは言えないですが、その先に九条の改正などに向けた世論形成も考えられます。首相の靖国参拝とそれを報道することで、いったいどういう影響があるのか、また誰が得をして誰が損をする可能性があるのかを、有権者は考える必要があるのではないでしょうか。
中国の女性と結婚した男性にインタビューをしたところ、「靖国問題や戦争についてはどうしても言い合いになってしまうので、なるべく話題にしないようにしています」と話して下さいましたが、意見が割れることよりも、意見が一つに集約してしまうことの方が怖い気がします。違う意見を持ちつつも、双方が前提や論理をシェアし、共存する方向を模索することが大事なのではないでしょうか。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)