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「認知症予防」に大切なのは「聴力」と「コレステロール」。3万〜115万人データで明らかに。

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

「将来かかって怖い病気」というと何を思い浮かべますか?「がん」が多そうですが、私は「認知症」も怖いと感じます。なんといっても自覚症状がないまま、周りに迷惑をかけかねませんから・・・。皆さんはいかがですか?

その「認知症」患者ですが、日本にどれほどいらっしゃるかはご存知でしょうか。2010年代当初の推計で「65歳以上の約6人に1人」(15%)です。

そして2025年には国民全体で675 万〜730 万人が、認知症になると推計されています [認知症疾患診療ガイドライン2017] 。

ではどうやったら認知症を予防できるでしょう?

最も大切なのは、意外なことに「聴力を保つ」と「コレステロールを上げない」の2点でした。

そんな結論を持つ論文が7月31日、臨床医学の学術誌では四天王に数えられる、英国のランセット誌に掲載されました [文末文献1] 。書いたのはユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(英国)のギル・リビングストン教授たち。

簡単にご紹介します。

中年期「聴力低下」で認知症リスク1.4倍に

リビングストン教授たちが解析したのは、北欧に住む45歳以上3万7千人を長年観察したデータです。老年期に入り認知症を発症「した人」と「しなかった人」の間で、それ以前に何が異なったのかを調べました。

すると老年期発症「認知症」の最大の原因は、それ以前の「聴力低下」だと明らかになりました。

さらに聴力が低下していると、認知症になるリスクは1.4倍に増えることも分かりました。

まずは予防、そしてためらわずに治療

そのためリビングストン教授たちは、まず耳を保護して聴力低下を予防する重要性を強調します。職場がうるさければ耳栓をする、などですね。

論文には出てきませんが、イヤホンのボリューム上げすぎにも注意したほうが良いでしょう。また週末バンドマンはリハでも必ず耳栓を(ちなみにこれに慣れると、モニタがダメダメなステージでもきちんと歌い、演奏できるようになります)。

さらに「聴力低下が軽度」でもきちんと治療すべきだと、リビングストン教授たちは勧めています。中年で難聴の治療というのは抵抗感があるかもしれませんが、「感染」で聴力が低下している場合もあります。これなら薬で治療可能。

将来の認知症リスクを考え、足を運びませんか?

「悪玉コレステロール」高値でも認知症になりやすい(オジサン雑誌に騙されないで)

「聴力低下」に次いで、老年期発症認知症の大きなリスクだったのが「悪玉コレステロール」と呼ばれている「LDLコレステロール」高値でした。

こちらは英国に住む65歳未満115万人余の観察データを解析した結果です。

LDLコレステロールが38.7 mg/dL高いとその後「認知症」になるリスクは相対的に8%上昇していました。

「コレステロールは脳に良い」などと書いているオジサン雑誌もあるようですが、少し前に流行ったテレビドラマのセリフ流に言えば、「証拠はどこにあるんだ、証拠は」といったところでしょうか。

ちなみに、日本人の高齢者ではLDLコレステロールを下げる「スタチン」という薬をたくさん飲んだほうが、認知症になるリスクは低いようです。大阪大学の戈 三玉(カ サンギョク)氏たちが、つい最近、報告しました [文末文献2]。

最後に

いかがでしたか?

歳をとる前の「聴力低下」と「LDLコレステロール高値」が老年期「認知症」発症の最大リスクだ、という論文をご紹介しました。該当する人が周りにいたらぜひ、教えてあげてください?

認知症については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、お読みください。今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 認知症リスクを上げる14の改善可能なリスク因子が明らかに
  2. 日本人高齢者はスタチンをたくさん飲んだほうが認知症リスクは低くなる可能性

本記事は医学論文の紹介です。データの解釈は論者により異なる場合もあります。またこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性も皆無ではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。15年以上にわたり新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌、会員向け情報誌などに寄稿。近年では医師向け書籍も共著で執筆。国会図書館収録記事数は3桁(含筆名)。日本医学ジャーナリスト協会会員(。

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