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TVで紹介の「ナトカリ比」と血圧の関係は?医学論文に訊いてみた。

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

テレビの情報番組が「ナトカリ比」を取り上げましたね。ご覧になりましたか?

実は放映の2日前、日本高血圧学会も、報道向け説明会でやはり、この「ナトカリ比」を紹介していました。

「ナトカリ比」の「ナト」はナトリウム、「カリ」はカリウムの略。つまり「ナトカリ比」とは「ナトリウム量/カリウム量」の比。この比を尿検査で調べたものが「ナトカリ比」です。

食事から摂ったナトリウムとカリウムの割合を推測する指標として使われています。

「ナトカリ比」が低いと血圧も低い

ではなぜ今、「ナトカリ比」が注目されているのでしょう?

理由の一つは「ナトカリ比が低いほど血圧が低くなる」可能性が示されているからです。

グラフは、岩手県と宮城県に住む高血圧と診断されたことのない約2600名で、血圧と尿中ナトカリ比を調べた結果です。ナトカリ比が低いほど収縮期血圧は低くなっていました [文末文献1] 。

万国著作権条約にのっとり引用
万国著作権条約にのっとり引用

ちなみに日本の高血圧ガイドライン(18ページ)では、家庭測定の収縮期血圧ならば「115 mmHg未満」が「正常」とされています(「135 mmHg以上」なら「高血圧」。「血圧正常化」を目指すなら「ナトカリ比」は「2.0未満」を目指した方が良いかも知れません。

この「ナトカリ比と血圧」の関係は「高血圧」と診断されたことのある500名弱で調べても同様でした。

万国著作権条約にのっとり引用
万国著作権条約にのっとり引用

血圧を上げる「ナトリウム」を「カリウム」が追い出す

なぜ「ナトカリ比」が低いと血圧も低いのでしょう?

それは血圧を上げる働きのある「ナトリウム」を「カリウム」が体外へ追い出すからです。

塩などに含まれるナトリウムは生存に欠かせないミネラルです。そして血液中の濃度は一定に保たれる仕組みになっています。ですから塩などを取りすぎで血液中のナトリウムが増えると、濃度を一定に保つため水分も自然に増えます。つまり血液の容量が増えるのです。その結果、血圧が血管を押し広げる力(=血圧)も上昇します。

一方、カリウムには、この血液中のナトリウム濃度を下げる働きがあります。

ですから「ナトカリ比」は、「血圧を上げる作用/血圧を下げる作用」の比と考えられるのです。そのため比が小さければ、ナトリウムによる血圧上昇作用が弱まり、血圧も低くなるのですね。

「ナトカリ比」が低いと心血管病のリスクも減る

ナトカリ比は血圧と関係するだけではありません。

この比が小さいと心筋梗塞や脳卒中などの心血管病になりにくいことも、すでに分かっています。

下のグラフは米国の高血圧予備群およそ2300名を、最長3年間観察した結果です。尿中ナトカリ比が低くなるほど、心血管病になる確率は低くなっていました [文末文献2] 。

万国著作権条約にのっとり引用
万国著作権条約にのっとり引用

でも基本はナトリウム制限?

と読むと、「ナトリウムを摂りすぎてもカリウムで追い出せば良いのか」と思われる方もいらっしゃるでしょう。

しかしどうでしょう?「ナトカリ比」が低くても、ナトリウム制限はやはり必要かもしれません。

次のグラフは滋賀県の長浜市に住む1万名弱で、「ナトカリ比」と「収縮期血圧」の関係を見たものです [文末文献3] 。

ナトカリ比が低いほど血圧が低いのは前出の東北地方データと同じですが、ナトリウムをたくさん摂っている人たち(高ナトリウム/高カリウム)ではそうでない人たち(低ナトリウム/低カリウム)の人たちに比べ、特にナトカリ比の高い人たちでは血圧が高めでした。

論文には、統計学的にこの差は偶然の域を出ない(そのため医学的に意味はない)と記されているのですが、グラフをご覧になった皆さんはどう思われますか?

高齢者や糖尿病患者さんはカリウムの摂りすぎに要注意

このように、ナトリウム摂取を減らすだけでなく、それに加えてカリウム摂取を増えると血圧は下がり、心血管病のリスクも下がる可能性が明らかになっています。

ただし「ナトカリ比」を人為的に下げて血圧が下がるかどうか、この点はまだ証明されていません。あくまでも分かっているのは、「血圧の低い人はナトカリ比も低い」という事実だけです。

加えてもう一つ、重大な注意事項があります。

それは「腎機能の低下している人ではカリウムの積極摂取は危険」ということ。

カリウムを十分に尿中へ排出できないため血中の濃度が必要以上に上がり、さまざまな健康障害が出現します。最悪の場合、「心停止」もあり得ます。

人は歳をとると健康でも腎機能は下がっていきます。また糖尿病の患者さんも気づかないうちに腎機能が下がっている場合があります。そういう人たちはカリウム摂取を増やす前に、かかりつけのドクターに相談した方が良いでしょう。

ナトリウム/食塩については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、お読みください。今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 尿中ナトカリ比が低いと血圧も低い
  2. 尿中ナトカリ比が低いと心血管病のリスクも低い
  3. 尿中ナトカリ比が低ければナトリウムをたくさん摂っても血圧は上がらないか

本記事は医学論文の紹介です。データの解釈は論者により異なる場合もあります。またこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性も皆無ではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。15年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌、会員向け情報誌などに寄稿。近年では医師向け書籍も共著で執筆。国会図書館収録記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(含筆名)。

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