冬枯れの森で気になる緑の1葉。それはヤマカマスかも=真冬の昆虫芸術⑧
冬枯れの森の木に残る緑の1葉が気になったことはないだろうか。それは怪奇現象でも、気候変動の影響でも何でもない、ヤマカマスと呼ばれる繭だ。柄杓(ひしゃく)のような形をしたヤマカマスは、ウスタビガというヤママユガ科の蛾の幼虫による作品。
ウスタビガは晩秋に羽化するので、真冬に見つかるのは羽化後の抜け殻なのだが、そこにウスタビガの卵が産み付けられていることが良くあるので要注意だ。
虫好きは、真冬にそんな卵付きのヤマカマスを見つけると狂喜する。孵化させて幼虫を飼育しようともくろむのだ。大きな幼虫は、触れるとキューキューという音を出すのでQちゃんなどと呼ばれて人気がある。
しかし善良な一般市民にとっては、卵付きかどうかなど、どうでもいいこと。風景に溶け込んだヤマカマスの造形美を堪能しよう。
カマスとは、穀物などを入れる藁製の袋のこと。こうしたネーミングは、昔の人々にとって自然と日常生活との距離が近かったことを思わせる。寒風に揺れるヤマカマスを見つけると、そんな古き良き日本の気分にひたることができる。
ヤマカマスはクリ、クヌギなどブナ科の木に多いとされているが、穴場はカエデ。カエデは背の低い木が多いので、繭が目につきやすい。昆虫記者がこれまでに見つけたヤマカマスの半分以上はカエデに付いたものだった。
(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)