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近年、九州で多く発生している線状降水帯 今週の関東甲信地方等は梅雨明け?それとも梅雨の中休み?

饒村曜気象予報士
扇状降水帯のイメージ(提供:イメージマート)

五島列島で線状降水帯

 令和6年(2024年)7月14日7時40分に長崎県の五島列島で線状降水帯が発生し、気象庁は「顕著な大雨に関する情報」を発表しました(図1)。

図1 五島列島で発生した線状降水帯(7月14日7時40分)
図1 五島列島で発生した線状降水帯(7月14日7時40分)

 また、気象庁は、前日の13日16時に「大雨と突風に関する九州北部地方(山口県を含む)気象情報」を発表し、山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県では、7月14日午前中から午後にかけて、線状降水帯が発生して大雨災害発生の危険度が急激に高まる可能性があると、警戒を呼び掛けています。

 線状降水帯は湿った空気の流入が持続することで積乱雲が次々に発生し、線状の降水域が数時間にわたってほぼ同じ場所に停滞することで大雨をもたらし、災害の危険度が高まりますが、現状の観測・予測技術では、正確な予測が困難です。

 このため、気象庁は令和12年度(2030年度)までの10年計画で、線状降水帯に関する情報の改善に取り組んでおり、その途中成果を使って線状降水帯に関する情報を発表しています。

 「顕著な大雨に関する情報」は、その第一弾で、線状降水帯の発生をいち早く知らせることで、より一層の警戒を呼び掛けるものです。

 また、線状降水帯の半日前予報は、その第二弾で、線状降水帯発生の可能性を半日前に予想するのもので、今年からは、これまでの全国11地方ごとの発表から府県ごとの細かさで予測するように変わっています。

 昨年までなら「九州北部で線状降水帯」というところでしたが、「長崎県で線状降水帯」という予報に変わっていますが、その分だけ難易度が上がり、空振り(線状降水帯を予報したのに発生しない事例)も増えています。

 ただ、完成途上の情報で精度が低い情報といっても、線状降水帯の半日前予報が発表されたときは、線状降水帯が発生して桁違いに多い雨が降らなくても、ほとんどの場合、大雨警報を発表するほどの雨が降っています。

 そういう意味では、線状降水帯に関する情報が発表されるときは、いつも警戒が必要です。そして、この情報は、いつまでも精度が低い情報ではありません。

 そして、10年計画の最終年度には、市町村ごとでの発表が計画されています。

 ただ、五島列島の自治体は、五島市と新上五島町の1市1町ではありません。遠く離れた佐世保市、西海市、小値賀町の一部もあります(図2)。

図2 五島列島の行政区分
図2 五島列島の行政区分

 今回のような線状降水帯の半日前予報が単純に市町村ごとの発表となった場合は、九州に大部分がある佐世保市、西海市、小値賀町も対象になります。

線状降水帯が多く発生する都道府県

 令和3年(2021年)6月から今回の五島列島の線状降水帯までの約73年間で、「顕著な大雨に関する情報」が72回発表されています。

 これをもとに、一連の現象で発生した線状降水帯を1個として数え、都道府県別にみると、長崎県が5回と一番多くなっています(図3)。

図3 線状降水帯の発生回数(令和3年(2021年)6月以降)
図3 線状降水帯の発生回数(令和3年(2021年)6月以降)

 次いで、静岡県、福岡県などの4回が続きます。

 線状降水帯は西日本で多く発生し、特に九州の多さが目立ちます。

 九州は、太平洋高気圧の縁辺をまわるように、日本の南海上から東シナ海南部の暖かくて湿った空気が流入しやすいためと考えられま。

 加えて、近年は、日本周辺の海面水温が上昇し、大気中の水蒸気が増えていることが九州で線状降水帯が多く発生する理由ではないかと考えている研究者もいます(図4)。

図4 日本近海の全海域平均海面水温(年平均)の平年差の推移(上)と日本近海の海域平均海面水温(年平均)の上昇率(下)
図4 日本近海の全海域平均海面水温(年平均)の平年差の推移(上)と日本近海の海域平均海面水温(年平均)の上昇率(下)

 気象庁によると、日本近海は100年あたり1.28度という割合で海面水温が上昇しています。

 1.28度というと小さな値のようですが、海は大気の1000倍も熱を蓄える力があるといわれていることを考えると、けっして小さな値ではありません。

関東甲信地方などの梅雨明けは

 令和6年(2024年)は、梅雨がないとされる北海道を除き、各地で平年より遅い梅雨入りとなりました。

 その後、6月20日から23日に沖縄・奄美地方が平年より早く梅雨明けしましたので、現在の梅雨は、九州から東北までということになります(表)

表 令和6年(2024年)の梅雨入りと梅雨明けと平年の梅雨入り・梅雨明け
表 令和6年(2024年)の梅雨入りと梅雨明けと平年の梅雨入り・梅雨明け

 海の日を含む三連休は、西日本から東日本の太平洋側では梅雨前線が停滞して曇りや雨の天気が続き、大雨の恐れがありますので警戒が必要です。

 九州北部の各県には、7月15日も線状降水帯発生の可能性があるとの半日前予報が発表されています。

 しかし、三連休明けは梅雨前線が北上し、梅雨明けのような天気となる見込みです。

 ウェザーマップが発表している東京の16日先までの天気予報をみると、三連休明けの7月18日以降、お日様マーク(晴れ)や白雲マーク(雨の可能性が少ない曇り)が並びます(図5)。

図5 東京の16日先までの天気予報
図5 東京の16日先までの天気予報

 降水の有無の信頼度が、5段階で一番低いEや2番目に低いDが多く含まれている予報ですが、関東甲信地方は、ほぼ平年並みの7月18日頃に梅雨明けしそうな予報です。

 ただ、7月25日以降、黒雲マーク(雨の可能性がある曇り)の日が続いています。北上した梅雨前線の勢力が強いまま南下してくると、雨よりに予報が変わる可能性もあります。

 梅雨前線を押し上げる太平洋高気圧の勢力がいまいちですので、気象庁は、梅雨明けとするのか梅雨の中休みとするのか、難しい判断を迫られています。

 梅雨明けには二つの型があります。

 一つは、太平洋高気圧によって梅雨前線が北へ押し上げられて梅雨明けとなる「梅雨前線北上型」の梅雨明けです。

 もう一つは、梅雨前線が南下しながら弱まる「梅雨前線弱まり型」の梅雨明けです。

 「梅雨前線弱まり型」の時は、「梅雨前線北上型」に比べて、北から上空に寒気が入りやすいという特徴があります。雨が多い不順な夏になることが多いというのが「梅雨前線弱まり型」の梅雨明けです。

 そして、今年は、現時点では、どちらになるかよくわかりません。

 7月14日に全国で気温が一番高かったのは、沖縄県・北大東と安次嶺の35.1度、次いで那覇の35.0度と3地点(気温を観測している全国914地点の約0.3パーセント)で、最高気温35度以上の猛暑日を観測しました。

 また、最高気温が30度以上の真夏日を観測したのが116地点(約13パーセント)、最高気温が25度以上の夏日を観測したのが815地点(約79パーセント)でした(図6)。

図6 全国の猛暑日、真夏日、夏日の観測地点数の推移(7月15日以降は予想)
図6 全国の猛暑日、真夏日、夏日の観測地点数の推移(7月15日以降は予想)

 猛暑日や真夏日の観測地点数は、7月上旬から見れば、かなり減っていますが、夏日はそれほど減っていません。

 そして、7月17日には夏日の観測地点数が876地点(約96パーセント)と、今年最多が予想されています。

 今年は、6月前半から熱くなりましたが、この時の暑さは、大陸からの乾燥した高気圧に覆われ、強い日射で気温が上昇した乾いた暑さでした。

 6月下旬からの暑さは、太平洋高気圧に覆われての暑さで、熱中症になりやすい湿った暑さです。その夏日は、雨が降っている日でも全国の80パーセントを超えています。

 猛暑日や真夏日の湿った暑さは熱中症に厳重警戒ですが、夏日の湿った暑さも熱中症に対して油断することができません。

 今週は、梅雨明けする、しないにかかわらず、湿度が高い暑さとなりますので、より一層の熱中症対策が必要になります。

図1、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:筆者作成。

図3、図6の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図4、表の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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