富士山2度目の初冠雪のふしぎ 昔と比べて大きな変化が
9月26日(日)夕方、甲府地方気象台から今シーズン2度目となる富士山の初冠雪が発表されました。実は、9月7日(火)にも発表があったのですが、その後「初冠雪の基準を満たさなかった」として、9月22日(水)に取り消されていたのです。
まさかの初冠雪の発表の取り消しに、とても驚きました。そもそも”初冠雪”とはなんなのでしょう。
雪が積もっても見えなければ「初冠雪」にはならない
その昔、季節の進み具合を知る方法は殆どありませんでした。しかし、山頂に雪が積もれば冬が近いわけですから、地元の人々は山頂の積雪(冠雪)を見て冬支度をしたわけです。
こうした伝統に根ざして、気象庁は現在でも全国44の山について初冠雪の観測を行っています。
初冠雪の観測で重要なことは、ふもとから人間(観測者)が確認するということです。
たとえば山頂近くまで人が登って雪が積もっているのを目にしたり、飛行機やヘリコプターで積雪を確認したりしても、それは初冠雪とは言いません。また、山頂付近に雪が積もっているのがほぼ確実だとしても、たまたま山に雲がかかっていて、ふもとから確認できなければ初冠雪とはなりません。
初冠雪はあくまで、ふもと(気象台)から見たというのが条件なのです。
初冠雪は前近代的な観測という人も
こうした条件のため、山頂に雪が積もっているのが確実なのに、ふもとの天気が悪いと何日も初冠雪の観測ができないということがあります。
また、富士山のように年に300日以上も雪が積もっている山は、何をもって”その年最初の冠雪”と言うのか、などの問題があって、初冠雪は時代遅れの観測という人もいます。
今年の富士山の初冠雪が取り消されたのは、こうした基準の難しさも一因でしょう。では一年中、いつ雪が降ってもおかしくない富士山では、どうやって初冠雪を決めるのでしょうか。
「初冠雪」が「冠雪の終日」に
富士山の初冠雪の観測は、今から遡ることおよそ130年前、1894年(明治27年)から行われていますが、当時はまだ富士山頂に観測所がありませんでした。(注1)
しかしその後、富士山頂で観測が行われるようになると、その年一番気温の上がった日(日平均気温が最高となった日)を境にして、その後初めて冠雪が観測されたときを”初”冠雪とするようになったのです。つまり初冠雪は最高気温が出ないと本来は決められないのです。
そこで、今年の話です。富士山頂では8月4日に平均気温が9.2度まで上がりました。その後、8月27日に8.9度を記録したものの、その後は4~5度で推移し、9月6日には氷点下にまで気温が下がって9月7日に「初冠雪」の発表となったわけです。
ところがその後、9月20日に日平均気温が10.3度まで上がりました。富士山の9月の値(日平均気温)としては観測史上2番目となる季節外れの高温を記録したのです。
そのため、9月7日の「初冠雪」は取り消され、今年はまだ初冠雪が観測されていない、つまり7日の冠雪は昨シーズンの冠雪の終日ということになりました。そして、9月26日、2度目の「初冠雪の発表」となったのです。
この見直しはきわめて異例なことと言えるでしょう。
過去126年の初冠雪記録からわかったこと
初冠雪の観測自体はあいまいな部分も含んでおり、ある意味、近代的な気象観測となじまない部分があります。
ところが、過去126年分の記録を並べると、おどろくべき変化が見て取れます。アバウトな観測ながら、確実に「初冠雪」の観測が遅くなってきているのです。
最初に述べたように、初冠雪は天気によって左右されますから年によって偏りが大きく、早い年は8月の上旬、遅い年は10月の下旬になることもあります。年によって三か月近くも開きがあるわけです。
そこで10年ごとの平均値をとると、1901年~1910年は9月25日、そして1950年前後が10月5日、さらに最近10年(2011年~2020年)は、なんと10月9日でした。(注2)
明治の時代に比べると、約二週間、初冠雪の観測が遅れていたのです。
温暖化で日本の冬は一か月短くなっている
実はこの二週間というのはサクラの開花など、その他の季節現象のズレにも通じています。
これは、たいへん興味深い変化だと思います。
100年前に比べ初冠雪は約二週間遅れ、逆にサクラの開花は二週間早まっている。トータルすると、冬の期間が一か月短くなっているということでしょうか。
(注1)1880年(明治13年)野中到らにより富士山観測が始められたが、常設観測は1936年(昭和11年)とされている。
(注2)富士山の初冠雪の平年値(1991年~2020年の平均)は10月2日
参考
甲府地方気象台 初冠雪の記録
Yahoo!ニュース記事「富士山の初冠雪を取り消し 季節の進み方がちょっと変」 饒村曜