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台風10号 奄美大島平成22年豪雨と何が違うか そして溺水から命を守るには

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
緊急浮き具の作り方と使い方(画像制作:Yahoo!JAPAN)

 9月6日午前0時現在、鹿児島県奄美大島は夜半過ぎから大雨に見舞われる予測の模様です。夜の避難は危険なので、大雨や高潮による冠水被害予測地区の皆様はすでに避難されているかと思います。ただ、避難は時間稼ぎにしかすぎません。避難所は最終目的地ではなく、被害から時間を稼ぐ場所です。万が一、避難した先にも水が迫ってきたら、どうしたらよいでしょうか。

雨の予測の確認

 風の向きと雨量の現在とこれからの予測を視覚的に知ることができるWindy.com。例えば奄美大島付近の夜半の様子を確認すると、夜半過ぎから雨量が急速に増えることがわかります。

 もちろん、気象庁による公式発表を基本とすべきです。でも、「今の状況はどうか」というオンデマンドに対応でき、その情報をもって正しく恐れるという点で活用できます。特に、「まだ影響はなさそう」とか「ここには影響は及ばない」といった正常性バイアスを修正してくれるツールとなり得ます。

平成22年10月 奄美豪雨災害ではどうだったか

 近年の福祉施設における溺水事故。その不幸の連続の始まりが、奄美市の福祉施設「わだつみ苑」と「住用の園」の浸水被害でした。特にわだつみ苑では、1階の天井まで浸水し、入所していた女性2人が溺死しました。自動販売機の上に押し上げられた入所者の女性2人と自販機につかまっていた入所者男性1人は助かりました。

 10月20日、南シナ海上の台風13 号の刺激を受けた前線は、奄美市名瀬にて 1日降水量が観測史上最高 622mm に達する雨を降らせました。さらに、奄美市住用での3時間雨量は「100年に一度」と言われる雨量(195mm)の約1.8倍となりました。(以上、平成22年 10 月奄美豪雨災害の検証、奄美市より抜粋)

 今回は台風10号の接近による大雨の影響で、平成22年10月の前線による大雨の影響とは性質的に異なります。今回は、台風の接近である瞬間から急速に状況が悪くなるのに対し、前回は台風は遠く、まさか「前線にやられるか」という思いがあったかもしれません。今回、急速に状況が悪くなるのは、高潮と洪水に加えてその前から続く暴風雨の心配です。

高潮

 今回、うねりの周期が長いのが特徴です。周期が長いということは図1に示すように海水の塊が大きくなるということ。その塊が強風や低い気圧によって元の海に戻れなければ、さらに高さを増して、高潮になります。堤防を越した瞬間に市街地に洪水を引き起こします。

 Windy.comによれば、夜半すぎの奄美大島近海のうねりの周期が15秒と表示されています。通常の風波より周期の長い、典型的なうねりの周期が10秒前後。それよりも十分周期が長いということは、より内陸に波が押し寄せるということです。

図1 (a)通常の風波、(b)典型的なうねり、(c)台風10号による奄美大島近海のうねり、のイメージ図。(筆者作成)
図1 (a)通常の風波、(b)典型的なうねり、(c)台風10号による奄美大島近海のうねり、のイメージ図。(筆者作成)

洪水

 平成22年には100年に一度の雨量でいたるところで河川の堤の崩落や流出等が発生しました。その浸水高さは、例えばわだつみ苑の施設の1階の天井に達しています。これは、たとえ浮くことができたとしても天井が限界となり、それ以上浸水が続けば、あとは想像がつくかと思います。つまり、1階よりは2階。2階も危なかったら、屋根に移るしかありません。要するに、水から逃れるために時間を稼ぐということです。

 例えば、図2のように、緊急浮き具を使って背浮きをすれば安定して呼吸を確保することができます。天井が迫る前に、できるだけ天井の高い部屋に移動します。2階につながる階段があれば、さらに良しです。移動にはバタ足やカエル足を使います。実際に難易度があがってきますが、浮いている間は溺れることがなく、時間を稼ぐことができます。

図2 緊急浮き具の作り方とそれを使った背浮きの方法(画像制作:Yahoo!JAPAN)
図2 緊急浮き具の作り方とそれを使った背浮きの方法(画像制作:Yahoo!JAPAN)

暴風雨の中、浮いていられるか

 いよいよ暴風雨の中、外で浮いていなければならなくなった時、背浮きで上を向いていると呼吸の確保がままなりません。浸水地域がそれほど激しい流れでなければ、図3のように緊急浮き具としてのリュックを体の前後にして身体にかけて、顔を垂直にして、暴風雨の中で呼吸を確保します。あるいは、船舶用のライフジャケットはお持ちでしょうか。ライフジャケットを着装していれば、両手で顔を覆いながら暴風雨を防ぎつつ呼吸を確保することができます。

図3 リュックサックを使った緊急浮き具(筆者撮影)
図3 リュックサックを使った緊急浮き具(筆者撮影)

 

 とにかく、暴風雨が収まるまで、頑張って浮いて呼吸を確保します。船舶用のライフジャケットは荒れた海での船舶事故をも想定して作られています。

まとめ

 やはり早めの避難に尽きます。ただ、避難所は水から逃れるための時間稼ぎの場です。避難所すら水没した例は東日本大震災の津波でも経験しています。緊急浮き具やライフジャケットは、ぜひ今のうち準備してください。

 

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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