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大阪の行政と街はこの15年でどう変わったのか―大阪府市の「改革評価プロジェクト」の報告書を読む(下)

上山信一慶應大学名誉教授、経営コンサルタント
筆者所蔵画像

 前回は大阪府と大阪市が2023年6月2日に公表した「改革評価プロジェクト」の報告書「大阪の改革評価~15年の改革をふり返る~」(https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/40016/00455340/02-1kaikakuhyoka.pdf)に沿って直近15年の維新改革の概略と成果を紹介した。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/8a6868b05e759d5baf58f7985559d566ca324f5e

この日に公表された改革評価の報告書はほかにもある。ひとつは改革の重要テーマを掘り下げた「テーマ編」。もうひとつは府内各地で進む鉄道建設などインフラ整備を場所別に解説した「エリア編」。さらに府庁、市役所、そして府市が共同で進める事業についての行政機関自らによる棚卸、総点検の資料が各1冊ずつあって合計で別冊が5つある。

〇17個の「テーマ」と12個の「エリア」による維新改革の振り返り

 第1分冊は改革テーマのうち重要なものや市民の関心が高いものから17個を選んで掘り下げた(「大阪の改革(テーマ編)~これまでの15年/主な取組」https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/40016/00455340/02-4themehen.pdf)。

 17個とは(1)行財政改革、(2)新型コロナ感染症対策、(3)現役世代への重点投資(教育・育児支援など)、(4)健康づくり、(5)女性の活躍推進、(6)外国人施策、(7)生活保護、(8)成長戦略、(9)観光集客、(10)公園・文化施設、(11)交通インフラ、(12)スマートシティ/スーパーシティ、(13)危機管理・防災、(14)民営化/地方独立行政法人化/公民連携、(15)府市の機能統合と連携、(16)基礎自治機能の充実・強化、(17)人材マネジメントである。

第2分冊は進捗が著しいインフラ整備の投資場所を地図上に示し、利便性がどう変わるかを図解で説明した(「大阪の改革(エリア編)~これからの大阪」https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/40016/00455340/08sannkoushiryou2-5.pdf)。具体的には集中投資がされる次の12カ所を解説する、すなわち(1)大阪駅周辺、(2)新大阪駅周辺、(3)中之島周辺、(4)御堂筋、(5)難波周辺、(6)大阪城公園等、(7)夢洲等、(8)天王寺公園、(9)関西国際空港・りんくうタウン、(10)泉北ニュータウン、(11)万博記念公園周辺・健都、(12)箕面森町・彩都である。

〇「府庁」、「市役所」、「府市連携」の行政改革の振り返り

 残りの3分冊は府庁、市役所の各部局による主に最近4年の活動と成果の棚卸資料である。それぞれ府のもの(「大阪府庁の点検・棚卸し結果」https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/40016/00455340/05sannkoushiryou2-2.pdf)、市のもの(「大阪市役所の点検・棚卸し結果」https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/40016/00455340/02-3shitenkentanaoroshikekka.pdf)、さらに府と市の共同事業についての「大阪府市の点検・棚卸し結果」(https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/40016/00455340/04sannkoushiryou2-1.pdf)である。ちなみに府市の共同事業とは、例えば万博、統合型リゾート(IR)、国際金融都市、スマートシティ戦略、スーパーシティ構想、G20大阪サミット、特区制度の活用、大阪府市統合本部・副首都推進本部などである。

〇次の15年に向けて

 さて、こうした過去15年の改革の評価をふまえ、今後の維新改革はどうあるべきか。同日の府市の副首都推進本部会議で筆者は府市特別顧問として次の6つの課題を提示した(冒頭に掲げた資料本編pp.138-144参照)。

(1)府内市町村との連携強化と広域行政体制の充実

 この15年、特に2011年秋以降は大阪市と大阪府が連携して二重行政、二元行政の解消を目指してきた。しかし、住民の暮らしや教育、福祉の充実、そして防災などの担い手は、やはり基礎自治体、特に大阪市以外の42市町村である。よってこれら市町村の住民サービスの充実と財政改革が必要となる。ちなみに大阪市は基礎自治体だが府全体の人口の31%、GDP(国内総生産)の53%を占める存在でしかない。

 例えば政令市の堺市や中核市の高槻市などを中心に周辺の市町村が連携して、消防や上下水道、ゴミ処理などに取り組む。あるいは消防では大阪市が機材でも人員でも他を圧倒する。その他の市町村はスケールメリットが小さすぎてできないことがある。府と大阪市が連携して大阪全体として課題を乗り越えていく工夫が必要だ。

 ちなみに、他国は大都市制度をどんどん進化させている。フランスにはメトロポール、アメリカにはメトロ(オレゴン州)など、市町村の一部の権限を広域の公社的団体に吸い上げる制度ができた。わが国も地域政治を司る自治体は残したままで、住宅や交通、企業誘致などの事業を広域で担う事業体をつくるべきだろう。現在でも一部事務組合の制度はあるが、使い勝手がよくない。新しい自治体組織(制度)をつくる議論も始めなければならない。

(2)職員による部局横断的な政策形成

 これまでの改革では、地下鉄民営化や関西空港と大阪空港(伊丹)の統合など国の制度に挑戦する非常に大きなテーマや全国初、あるいは政治主導の改革テーマが多かった。知事や市長から与えられたテーマに対し、各部局の職員が力を合わせて取り組み成果を出した。その過程で職員にも実力がついた。今後はさらに職員が現場の実態を見ながら住民生活の細かな支援を充実させていく段階だろう。現場を知る公務のプロがノウハウを積み上げ、制度をさらに進化させていくとよい。

 府庁や市役所の組織内で職員が主体的に政策提案をする余裕もそろそろでてくるはずだ。その際に重視すべきは、住民ニーズは役所の縦割り組織には対応していないということだ。組織の枠を超えて住民目線で政策を考える必要がある。その意味では次世代の職員を育成する“ヤングボード(ジュニアボード)制度”など、部局の枠や府市の枠を超えて全体の政策を考える仕組みがあってもいいだろう。また府と市の中堅職員が一緒になって大阪全体のことを考えるソフトな場づくりなども有効だろう。

(3)人的資本投資の強化

 昨今の企業経営では、サステナビリティーへの取り組みと人的資本投資が二大重点テーマである。また人的資本投資をどれくらいやっているかを投資家が見て、会社の将来性を評価する時代になっている。こうした流れは、大阪府市にもあてはまるだろう。

 例えば行政職員が海外で専門分野に関して一定期間調査をしてくる。あるいは大学院で研究をする。こうした制度は財政に余裕があった時代には大阪府にも大阪市にもあったが多くは途絶えてしまった。先進的な都市経営への先行投資として、分野を絞った海外調査や海外留学など人への投資を考えるべきだろう。

(4)公民連携は「削る」改革から「創る」改革へ進化させる

 民主主義のもとでは、どこの自治体でも行政サービスは常に肥大化する傾向がある。だから「身を切る改革」あるいは「削る改革」はいつでも必要だ。民間委託や売却も、常に考えるべき課題である。しかし大阪ではそれらは一段落した。今後は「創(つく)る改革」における民間資金の誘引を考えるべきだろう。

 すでに、大阪城公園や「てんしば」(大阪市立天王寺公園)のように大阪市と民間が連携した改革の成功事例が出てきた。いずれも20年間の長期にわたって民間企業に業務を委ね、投資もしてもらうプランだ。府立公園でもPark-PFI(都市公園の公募設置管理制度)などの動きがある。他の行政サービス分野でも民間事業者と一緒にやれる政策のイノベーションがあろう。特に環境やNPO(非営利組織)支援、子育て教育などでは大阪府が基礎自治体と連携しながら、民間のパワーを引き出す後押しも有用だろう。

(5)大阪の中の改革から全国/世界を見据えた改革へ

 これまでは大阪府と大阪市の連携に目が向いてきた。しかし、全国における大阪、そして副首都の位置づけ、万博、IRをきっかけにアジアの中、世界の中の大阪のあり方を議論すべきだ。これまでの15年は大阪の中の改革が中心テーマだった。今後は外から大阪を見た改革の視点も必要ではないか。

ちなみに、副首都構想についても同じだ。これは災害時の首都圏のバックアップとして、西の雄としての大阪に平時から体制を整備しておくという考え方だが、大阪発の議論だけでは限界がある。オール大阪として、さらに全国的視点からのあり方論が必要だ。

(6)地政学上の優位性に着目する

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慶應大学名誉教授、経営コンサルタント

専門は戦略と改革。国交省(旧運輸省)、マッキンゼー(パートナー)を経て米ジョージタウン大学研究教授、慶應大学総合政策学部教授を歴任。平和堂、スターフライヤー等の社外取締役・監査役、北九州市及び京都市顧問を兼務。東京都・大阪府市・愛知県の3都府県顧問や新潟市都市政策研究所長を歴任。著書に『改革力』『大阪維新』『行政評価の時代』等。京大法、米プリンストン大学院修士卒。これまで世界119か国を旅した。大学院大学至善館特命教授。オンラインサロン「街の未来、日本の未来」主宰 https://lounge.dmm.com/detail/1745/。1957年大阪市生まれ。

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