テレビ局がYouTubeに力を入れ始めた
ニュースを日常的に視聴できる
地上波テレビ局がYouTubeに力を入れはじめている。筆者が見たところ、局が運営するチャンネルでもっとも登録者数が多いのが、上の画像のANNnewsCHだ。テレビ朝日を中心にANNネットワークに加盟する全国の局のニュースが次々に更新されている。北海道の人が九州のローカルニュースに日常的に触れることができる価値は大きい。日本中のニュースを24時間ライブ配信する動画もある。
またテレビ朝日はこのアーカイブを活用し2年前に「●REC from 311」を開設している。
被災地の映像を年ごとに追うことができる。報道映像を生かした優れた事例で、YouTubeにアーカイブを置くことの、別の意義が感じられる。
ネットワークのニュースを集約するチャンネルにはフジテレビも取り組んでいる。「FNNプライムオンライン」だ。
1月にBitStar社が発表した「YouTubeチャンネル総再生数ランキング」で並みいる人気YouTuberに続いて17位にランクインしている。実は、人気チャンネルなのだ。
FNNプライムオンラインはテキストニュースを配信するサイトとしても一定のポジションを得ている。映像とテキストをうまく組み合わせてネット融合時代の新しいニュース提供に取り組んでいる。
ローカル局の中には単独でYouTubeでニュース配信をする局も出てきた。関西圏の読売テレビが運営するニュースチャンネルでは、地上波で放送したニュース番組の一部のコーナーを配信し、ネットでも話題を呼んでいる。
「わが子を看取る」は放送時も大きな話題となったが、YouTubeでも配信することで放送ではカバーできなかった層にもリーチし再生数は700万回を超えている。同局が運営する「読みテレ」に掲載された担当記者のインタビューも含めて、立体的な伝え方になっている。
「話題のドキュメント『わが子を看取る』がYouTubeにアップされたワケとは」(読みテレ)
番組ごとのチャンネルには人気を集めるものも
テレビ局のYouTube活用は報道だけではない。自局の「公式チャンネル」をそれぞれ立ち上げ、番組の宣伝やオリジナル映像などを配信している。若者層に比較的よく見られている日本テレビはやはりYouTubeでも人気を獲得し、ドラマの宣伝映像が数十万回再生されている。
また日本テレビはバラエティ番組や情報番組の単独チャンネルも多い。公式チャンネルのおすすめリストには24ものチャンネルが並んでいる。
ネット領域でも他局より一歩先をゆく日本テレビだが、YouTubeも例外ではないようだ。その使い方もユニークで、例えば人気番組「有吉の壁」の公式チャンネルにはYouTubeオリジナルコンテンツとして「ロケバスラジオ」が毎週アップされている。
タイトル通り、ロケに行く途中のバスの中の会話なのだが、音声だけで映像は喋っている人物のアイコンが出るだけ。番組のスピンオフコンテンツとして単体でも楽しめる。またこの手法なら制作の負担も比較的少なく済むだろう。こうしたアイデアがテレビ局YouTube活用の一つのポイントだろう。
ローカル局もアイデア次第、ターゲット次第
読売テレビは紹介したが、他のローカル局の取組も紹介したい。「水曜どうでしょう」で北海道の局なのに全国的人気があるHTB北海道テレビ。「水どう」がらみだけでなく、ユニークなオリジナルコンテンツをYouTubeで配信している。
高橋春花アナが麻雀愛を語り対局するこのシリーズは、すでに万単位で視聴されている。女性アナウンサーが麻雀を語るだけでなぜこんなに視聴されるかは謎だが、YouTubeらしいコンテンツかもしれない。
中京エリアのCBCテレビでは中日ドラゴンズの本拠地・名古屋の局として「燃えドラch」を運営する。人気コーナーの「川上井端のすべらない話」は毎回数万回再生され、下の「鉄人岩瀬仁紀の本当の凄さとは!?」の回は60万回以上再生されている。
ドラゴンズファンは名古屋だけでなく全国にいて、その人たちが見てくれることで人気チャンネルに育ちつつある。ローカル局が放送で全国にコンテンツを届けるにはネットワークの制約があるが、YouTubeなら自分たちで日本中に向けて主体的に配信できる。
同じ中京エリアの名古屋テレビは地上波の深夜枠の番組「ハピキャン」をそのままYouTubeで配信している。
放送の一年後に番組を配信しているのだが、キャンプファンとの接点を放送とは別の形で確保できている。この番組はWEBサイト「ハピキャン」と連動しており、「放送<=>YouTube<=>WEBサイト」という新しいメディア形態を「キャンプ」にカテゴリーを絞り込むことで実現した事例だ。独自の手法でメディアの枠を超えた広告モデルに挑戦している。
YouTubeは複合価値へのファーストステップ
テレビ局は今、大きなターニングポイントを迎えた。コロナ禍で企業が広告費を縮小し、ネットへのシフトを強めている。コロナ禍が過ぎてもテレビ広告費はさほど戻らないだろう。
問題は「放送」という形態が時代に合わなくなっている点にある。必ずしもテレビ番組自体が価値を失ったわけでもないのだ。また単純に大きなリーチを獲得するよりも、番組ファンとの深い関わりを持つべき時代だ。視聴率を上げても広告収入は戻らない。それより、配信によって「認知」を掘り下げて「興味」を喚起し人びととのエンゲージメントを深めることが重要だ。
そして最後のローカル局の3つの事例のように、配信なら放送エリアを超えて特定の趣味嗜好を持つ全国の人びとと関係を作ることもできる。そこには新しいビジネスモデルの可能性も見えるだろう。もちろんYouTubeさえやれば儲かる、という単純な話ではない。ただ、「見てくれる人との関係を結ぶ」ことこそがメディアの存在意義であり、それができればビジネスの可能性が生まれるのだ。YouTubeはそんな試行錯誤のとりあえずの一歩と位置付けるべきだ。
テレビ局がYouTubeで何を見せてくれるのか。視聴者にとっても新しい楽しみが生まれるかもしれない。