「致死率100%」の狂犬病 日本が「清浄国」でなくなる?
ロシアの侵攻で多くのウクライナ避難民を日本も受け入れています。連れてきたペットの犬には狂犬病ワクチン接種証明書がないと最長180日、隔離されるのが法律の決まりです。
ただ状況が状況だけに証明書どころでない方も多く検疫を所管する農林水産省が対応を緩めて条件つきながら自宅隔離も可としました。これに対してネット上などで狂犬病リスクを心配する声が出て話題になっています。
これを機会として最近は話題とならなくなった「致死率100%」の狂犬病を簡単に確認してみます。
そもそも狂犬病とは?
主に犬が保有する狂犬病ウイルスが噛まれるなどでヒトに感染する病気です。いったん発症すると致死率ほぼ100%という怖ろしさ。治療法はありません。神経系統を冒されるため錯乱状態やマヒをしばしば引き起こす悲惨な症状を示すのでも有名。
ただ潜伏期間(数ヶ月から数年)にワクチンを数回接種して発症自体を食い止める方法はあります。感染が心配される海外へ渡航する場合は予防接種が推奨されるのです。
犬自身も発症したら確実に死にます。日本は1950年に定めた狂犬病予防法で飼い主に犬へワクチンの予防注射を年1回接種させるのを義務づけました。野犬は地方自治体が設置する保健所や動物愛護センター捕獲して収容しているのです。
そして今回のように日本に入国する際に連れてきた犬にワクチン接種の証明書がないと動物検疫所で最長180日間(イヌ狂犬病のみなし潜伏期間)隔離されます。
まとめると以下の通り
【大前提】狂犬病をヒトが発症すると確実に死ぬ。最大級に怖い感染症で絶対に防ぎたい
【人への対策】潜伏期間中ならばワクチン投与。渡航者も推奨
【犬への対策】犬に噛まれるのが感染の主な原因だから、犬の段階で防ぐ
・飼い主には必ず飼い犬にワクチンを打たせる義務を負わせる
・飼い主不明の野犬などは捕獲する
・海外から入国する犬は接種証明書がないと隔離
過去の日本の被害状況と撲滅までの歩み
日本では犬へのワクチン接種が1920年代に義務化されるまで年間3500件も発生していたのです。いったん激減したものの先の大戦で手が回らなくなった時期にぶり返します。戦後、前述の狂犬病予防法施行で急減し、56年の犬6例を最後に国内では撲滅。ただし海外経由でその後もポツポツとヒトの事例が報告されているのです。
1957年には「清浄国」(狂犬病がない国)に認定されました。現在は国際獣疫事務局(OIE)などが定めた基準に達しているかどうかで世界保健機構(WHO)とともに判断しているのです。
犬は食用ではないので清浄国になったから輸出入に有利になるといった経済的メリットはありません。外国人が安心して訪日できるので観光の対象にしてもらえるぐらいです。
清浄国であり続ける最大の利益は「死病」である狂犬病を恐れずに暮らせる安心感でありましょう。
油断は大敵
ただし世界に約200ある国と地域で清浄国はごくわずか。毎年5万人以上が今も罹っているのを忘れてはなりません。
60年以上も国内発生がみられないため医師も獣医師も臨床未体験の病気となっています。海外で長期にわたって暮らす邦人もコロナ禍以前までほぼ右肩上がりに増加していて2019年は約83万人(永住者を除く)。なかには犬を飼っている方もいるでしょう。その国に外務省の危険情報で「渡航中止勧告」「退避勧告」などが出され社命で帰国を促されたら速やかに証明書を得られる保証はどこにもありません。
国内の犬への予防接種率も90年代でほぼ100%であったのが近年は7割台に低下。予防法の大前提である飼い主による登録をしていない犬も相当数に上ると推測されています。狂犬病は努力して撲滅したのであって最初から存在しないのではありません。油断は大敵です。